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悪女のトリセツ(取扱説明書)


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:CHIEI(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「別に殺意は抱かんが、いまいましい」
温厚な父が、ドーナツをひと齧りして呟いた。
 
父と母は離婚をしたが、その後も行き来はあり、復縁をする予定だった。
色々あってそれが叶わず、実家には母とその恋人が住んでいた。父の退職金で建て替えた家に。
私もそのタイミングで家を出た。それ以来、月に数回、私と父は作戦会議を開いていた。
 
「お父さんに打ってつけの詩を見つけたよ」
私は金子光晴の『女への弁』(※1)という詩を見せた。
 
金子光晴は、海外を放浪しながら作品を書いた詩人で、何度も同じ妻と離婚を繰り返している。
冒頭から、かなりの瘦せ我慢をする作者の思いが伝わってくる。
 
”女のいふことばは、
いかなることもゆるすべし。“
 
そして、なかなかの悪女と結婚していたのが読み取れる。
 
“女のうそ、女の気まぐれ、放埒は
女のきものの花どりのやうに
それはみな、女のあやなれば、
ほめはやしつつながむべきもの。 ”
 
私の母も、悪女である。なんせ、父の退職金で建て替えた家に恋人と住んでいたのだから。
詩に登場する「嘘、気まぐれ」について、我が家の悪女を例にしても宜しいだろうか。
 
まず「嘘」について。狩る為の嘘には、不幸な身の上話が定番だ。
「騙されて困っているんです」
などと元女優の母が涙を流して語れば、大抵の男性は簡単に信じてしまう。
上手な嘘のつき方は、事実を織り交ぜることだ。そこに感情移入できるから、本人もクライマックスまで盛り上がる事ができるし、助けてもらえて、相手も満足感を得られる。罪悪感など、ある訳がない。
 
そして自衛の嘘もお手の物。
私は幼少期から母にこう言われるのが、ずっとコンプレックスだった。
「なんでお父さんと私の子供で、CHIEIちゃんの目はそんなに小さいのかしら」
母が目を二重にする美容整形を受けていたのを知るのは、大人になってからだ。嘘を成功させる為に容姿は必要不可欠なので、罪悪感などある訳がない。
 
2つ目の「気まぐれ」は、聖女やドジっ子になることだ。
元養護教諭らしく甲斐甲斐しく世話を焼いたかと思えば、美容院帰りに半泣きでパンチパーマになっていたりする。この無意識な気まぐれが、嘘にリアリティを持たせる。「彼女なら、簡単に騙されてしまう事も在り得る。助けてあげなければ」となる。
 
“盗むとも、欺くとも、咎めるな。
ひと目をぬすんで、女たちが、
他の男としのびあふとも、妬んだり
面子をふり廻したりすることなかれ。 ”
 
脂が乗った鰆がスーパーに並ぶと思い出す。
私は母が恋人の船の購入代金を出していた事を、父には言えなかった。
その船で釣った魚を送ってもらっていることも。父に渡していたのがその魚であることも。
些細な会話の端っこを繋げると、その事実に行き着く事に気づいて後頭部がザワリとした。
 
「しょせん、おまえとあいつは親子だもんな。他人は俺だけ」
そう言った3日後に父は急逝した。私は母の分も背負った罪悪感に押し潰された。
 
“いつ、いかなる場合にも寛容なれ。
心ゆたかなれ。女こそは花の花。 ”
 
父と私は、母とその恋人が長く続かない事を予測していた。
もしそうなったら、また復縁すればいいと思っていた。おそらく母もだ。
 
なぜ、そこまで寛容になれるのか?
それは、彼女の偏った愛の強さに理由があるのかもしれない。
 
母は、犬を飼える状況になくても、絶対に手放さずに最期まで面倒を見続けたし、要介護レベルの曾祖母を突然引き取った事もあった。結果的には、犬の散歩は私にやらせたし、親戚に対して介護費用の請求裁判を起こしたけど。
 
父の件も、そんな事をしておいて「私にはお父さんが合っていた」だの「お父さんに優しくね」と私に押し付けた。でも、母の奇抜な主張がなければ、私は全て見て見ぬふりで通しただろう。
 
そして、たまに出る例の気まぐれ。
「私なんかと一緒にいない方が、CHIEIちゃんは幸せになれるよ」何度もそう言っていた。「CHIEIちゃんの低い鼻は愛嬌があるから、お友達が沢山できるよ」など微妙な物も含めて、予言は当たっている。
 
母にとって、愛するという事は「自分=他人」の図式になることだった。
彼女のヴェールの内側に引き込まれた者は、ひたむきさ、不器用さに囚われる。そして、「自分=他人」とならない苛立ちから、急に飽きて怒り出す母と憎しみ合うようになるのだ。
 
悪女は、甘い毒を噴出している。降りかかったら消えない強烈な香りの毒だ。もう少し捧げたら、良い方向に変われるのではないかと、つい期待をしてしまう。でも、それは依存の罠なのだ。近寄る際は、どうぞお気をつけて。
 
金子光晴の詩に戻ると、最後はこう締められている。
 
“だが、愛のすべしらぬ偽りの女、
その女だけは蔑め。
それは女であって女でないものだ。”
私は両親の愛憎劇場を目の当たりにして、早々に女を捨てた。
まさか詩で八つ当たりの対象にされるなんて思わなかったけど、今ならその理由が分かる気もする。
毒の花は、遠くで愛でるのが安全だ。
 
 
 
 
※1金子光晴『アジア旅人』情報センター出版局, 1998. 3, p.128
 
***
 
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2020-12-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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