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選びぬいた道具は、“ひきこもり”を生み出す


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:住田薫(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「最近、ひきこもりなの」
 
知り合いの年配夫婦の家にお邪魔したときのことだ。
 
そこはものすごく、ステキな家だった。
崖の上に建つその家は、リビングからの眺めが最高だった。
窓からは、大きな空と、庭の木々の向こうに町が、ずっと遠くまで続いているのが見える。
伺ったのは昼間だったけれど、夜景もきっとキレイなんだろうな。
 
建物は、眺望を最大限に活かしたつくりになっていた。
こぢんまりとした、でも天井の高いその部屋は、天井まで届く大きな窓があいている。
天井の低い玄関から入ると、窓とその向こう側に広がる景色が目に飛び込んできて、開放感がハンパない。窓そのものも美しく、木枠でいくつかに分割され、幅の広い無垢のフローリングと、木の家具が心地よく調和している。
建物全体も、隅々まで細かくデザインがコントロールされていて、窓まわりの造作、スチールの手すり、和紙で仕上げられた扉、ひかえめな照明器具、陰影をつくる土壁など、選びぬかれた材と、端正で品のある佇まいに思わず見惚れる。
 
うっとりとため息をこぼす私に、二人は微笑みながら言う。
 
「この家に引っ越してきてから、毎日の生活が本当に気持ちよくて」
「夫婦ふたりとも、この家が大好きで」
「休みの日も家にいることが多くなって、旅行もあまり行かなくなっちゃったね」
「旅行に行って、ある程度いい部屋に泊まっても、移動が大変だったり、気疲れしたりするでしょ。私たち、いい年だし」
 
えっ。旅館やホテルよりも居心地がいい?
ちょっと衝撃的な発言だった。
 
そうか。居心地よい家は、引き篭もりを誘発するのか。
……それは“理想的な家”なのかもしれない、と思った。
 
家は人生をよりよくするための道具だと思う。
道具は、その調子、自分との相性、使用目的との相性なんかで、性能が発揮できるか分かれる。
なので道具選びは、とても大事だ。
 
“長く使う道具は、よいものを使いたい”
“一生モノを、選びぬいて、使い倒したい”
 
こんなふうに考えるようになったのは、マウスがきっかけだった。
 
「道具は、デザイナーの手の延長だ。だからケチらず、ちゃんと手に合うものを使いなさい」
 
むかし、マウスにお金をかけるなんて馬鹿げていると、オモチャみたいなものを使っていて、上司に怒られたことがある。
たしかに、ちょっと使いづらいなとは思っていたけれど……。
 
そこから色々試すようになって、ロジクールというメーカーのものを使いはじめた。
ボタンが通常のマウスより少し多くて、ボタンに機能の割当が出来る。手の中の収まりがほどよく、疲れない。ボタンの割当のおかげで、作業がずっと早くなった。
 
たしかに、道具で作業効率は変わるな、と感じはじめたころ、友人が美しいデザインのマウスを使いだした。
私はマウス模索中だったこともあり、試しに触らせてもらう。
――なんだか、手の収まりがよくない。
――カッコイイけれど、高いし、使いづらいし、私はいいかな。
結局、私の欲しい物リストには加わらなかったのだが、その後、その子が手の腱鞘炎になったと聞き、ぞっとした。
 
建築設計やデザインの仕事をする私たちにとって、手は大事な仕事道具だ。マウスは壊れたら買い換えればよいかもしれないが、自分の手は替えが効かない。
美しいマウスは、図面を描くCAD作業など、マウスを酷使する使用には向いてなかったのだ。
道具をちゃんと選ぶことの重要性を、強く感じた出来事だった。
 
“高いもの”イコール“良いもの”というわけではない。だけど、自分の使い方に合うものなら、多少コストがかさんでも、その価値はある。
社会人になって、多少稼げるようになって、手に入れられるものが増え、その実感はより大きなものになった。
 
たとえば、寝具。
一日8時間睡眠をとるとすると、一日の1/3をそこへ体を預けることになる。それはつまりは、人生の1/3を共に過ごすということだ。
身体に合わない布団で寝ることで、身体を壊したり、睡眠が浅くて疲れが取れなかったり、そのせいで治療費がかかったり、やりたいことができなかったり、仕事がはかどらなかったら……。考えれば考えるほどに、重要度は増してくる。
 
たとえば、デスクチェア。
私の仕事はデスクワークが中心だから、1日の少なくとも5時間以上、多い日は8時間以上を、椅子に座り、机に向かっていることになる。正しく座れていないと、腰を痛めたり、肩が凝ったり、目を悪くしたりすることになると聞く。“よいもの”が欲しくなってくる。
 
「引き篭もりたくなるほど心地よい家」は、そんな“道具”の究極だと思った。
 
気分転換に温泉へ行くのもいい。
マッサージに行って癒やされるのもいい。
ちょっといいレストランに行って贅沢するのもいい。
 
だけど。
当たり前だけど、旅先やお出かけ先での時間よりも、自宅で過ごす時間のほうが、ずっとずっと長い。睡眠時間なんて比にならないくらい。まさに“一生モノ”だ。
だから、「引き篭もりたくなるくらい居心地のよい家」に帰れるって、最高に幸せなことだと思う。
 
眺めのよい家。
冬あたたかく、夏涼しい家。
しっかりリフレッシュできる家。
やりたいことを促してくれる家。
もしかしたら人を招きたくなる家も。
 
人生を豊かにするために、“引き篭もりたくなる家”を模索したい。
選びぬいて、使い倒したい。
マウスや寝具のように。そして、あの幸せな夫婦のように。
 
 
 
 
***

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2020-12-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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