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メディアグランプリ

正義とはなりゆきだ (絵本『すてきな三にんぐみ』から)


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記事:猪熊チアキ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
そうだ、あの本を読もう。『すてきな三にんぐみ』(偕成社) だ。
 
この本にかかっては、私の悩みなど敵ではない。
 
私は頻繁に悩む。息を吸うかのように悩むので、人生で幾千万の悩みを抱えてきた。
 
その幾千万の悩みに、共通している疑問がある。それは「善悪」だ。
 
例えば、友人と喧嘩をしてムシャクシャしてるとき。
 
「私は友人に失言してしまった。しかし、あの状況ならああ言うしかなかった。私は友人を傷つけたから悪いやつだ。でも、あの状況では最善の言葉を選んだつもりだ。ならば私は悪くない気もする……。発言を選びにくい状況にさせた友人も、全く落ち度が無いわけじゃ……(うんぬんかんぬん)」
 
こんな風に、鍋奉行ならぬ、善悪奉行と化す。脳内の善悪裁判はいつも長期化する。誰が、なぜ、どうして悪かったかはっきりするまで続く。
 
しかし―――世の中に、絶対的な善悪など無いのである。『すてきな三にんぐみ』はそれを教えてくれる。私の善悪裁判など、頭のメモリを浪費しているだけだと忠告してくれる。
 
『すてきな三にんぐみ』はハードボイルドなお話だ。無目的に強盗を繰り返す男三人が、とある孤児のために、強奪した財産で城を買い、孤児院にするという内容だ。
 
いい話だわ……と騙されそうになるが、盗んだ金で孤児院を建てるのはいかがなものか。盗んだバイクで走り出すのと遜色ない。つまり犯罪だ。
 
けれども、このお話は孤児院の設立で終わらない。三人組の孤児院はどんどん大きくなり、たくさんの孤児たちが引き取られた。何年か経つと孤児院は村になり、一つの社会になった。三人組を知らない村人たちからも、彼らは尊敬されることになった。
 
こんな結果になると目くじらを立てられない。”盗んだお金で孤児院設立”までは完全に犯罪だし、悪いことだと断言できるのだが。
 
生まれ落ちた社会にはなじむことができなかった人間。この絵本では、その象徴が孤児たちであり、強盗たち自身だ。一生孤独で貧しく生きるかもしれなかった人間に、安心な居場所を与えた。生まれた社会に順応し、真っ当に生活する人間にはできなかったことだ。結局は素晴らしい結果になったのだから、三人組は良い人間だと言えるのかもしれない。
 
とはいえ、善悪奉行の私は迷う。
 
三人組から強奪や恐喝被害に遭った人たちは、一生彼らを恨むだろう。彼らが奪った財宝は、大切な品だらけだったはずだ。例えば、亡き肉親の忘れ形見。はたまた、愛情のこもった成人祝いだったかもしれない。私がそんなに大切なものを強奪されたら、死ぬまで恨むだろう。
 
この絵本は昔のヨーロッパが舞台らしく、当然メディアも発達していない。だから、強奪被害に遭った人々は、自分たちの財産が孤児を救ったなどと知る由もない。現代ならSNSやブログなどに、「皆様から強奪いたしました財産は、恵まれない子供たちのため、孤児院設立に利用させていただきました。強奪の際に怖ろしい思いをさせてしまった被害者の皆様、その節は申し訳ございませんでした。 NPO法人 すてきな三人組より」などと投稿して拡散できるだろう。そんな状況なら、三人の強盗をちょっと許せる気もする。
 
私は迷う。三人の(元)強盗は、善人なのだろうか?悪人なのだろうか?
 
ここで、最初の疑問を思い出してみよう。善悪とは何なのだろう。
 
少なくともこの絵本の中で、善悪は存在しない。全ては、なるようになった結果だ。もしくは、三人組がしたいようにした結果だ。
 
三人の強盗は、気の赴くままやりたい放題しただけだ。目的は無いが財産が欲しいから強盗をして、そのうち孤児を助けたくなったから孤児院を作った。その孤児院がたまたま村として存続した。そして、三人の強盗としてのキャリアは、孤児院設立という偉業の裏に隠れてしまった。それだけの話だ。
 
現実世界でも同じだ。善悪など無い。全ては、あらゆる出来事の途中経過や、結果でしかない。
 
私が友人と喧嘩をしたとしても、それは、とある状況下で、異なる性格の人間が、好きなように行動した結果なのだ。
 
私が善悪の判断をするのに悩むときは、まるで偶数と奇数を分けるように、善悪を分けようとしている。誰が悪いか、なぜ悪いか。それは最初から決まっているのだから、考えれば「解答」が見つかるはずだと考えがちだ。
 
しかし、善悪は最初からこの世に存在しない。時間が流れ続ける限り、この世界では数えきれない出来事が起きていて、様々な人々が様々な判断をする。そして新しく何かが起こっていく。世の中では、規模の大小など関係なく、同時多発的に幾千万の事象が生まれているのだ。奇数と偶数のくくりなんかでは振り分けられないことばかりである。
 
友人と喧嘩したとしても、私にできることは一つしかない。どんな行動をするか決断することだ。自分から謝るのか、誤解を解くのか、何事もなかったかのように振る舞うのか。選択肢は無限にあるが、一つずつしか行動できない。
 
『すてきな三にんぐみ』は、世の中の複雑さとシンプルさを同時に思い出させてくれる。私は今日も悩む。明日も悩むだろう。そんなときは『すてきな三にんぐみ』を思い出す。世の中は複雑なんだと諦め、もっとシンプルに行動しよう、と気持ちをリセットするのだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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