メディアグランプリ

読書をしない夫の人生をガラリと変えてしまった一冊は、地味な児童文学だった


*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:尾辻詩乃(リーディング・ライティング講座)
 
 
うちの夫は本を読まない人だった。
もはやポリシーなのか? と思うくらい。
いや、正確に言えば、仕事に関連したビジネス書は参考書的に読んではいたものの、いわゆる物語というものが読めない人だった。
 
一方、私は本に囲まれて育ち、良かった本があれば家族で紹介し合い、夜な夜な本の話で花を咲かせることができる家庭で育った。そんな私にとっては、本を読まない結婚相手は、正直物足りなく感じることもあった。あれ? なんで結婚しちゃったんだろう?
 
結婚してしばらくは、そんな夫につられて私も本を読まくなっていた。けれど、あることがきっかけで、児童文学の奥深さに開眼した私は、あの手この手で夫にも読ませようとしてみた。感動を分かち合いたかったのだ。が、ことごとく失敗。
 
色んな本を手渡してみた。上橋菜穂子さんのものなら、誰でも夢中になれるだろう、と思い、渡してみた。が、30ページほど読んだものの、そこから先には一向に進まない。集中してるなと思ったら、だんだんと首が下がってくるではないか。うーむ。
価値観の押しつけが、かえって夫の読みたくないモードに拍車をかけてしまったようだ。
 
ところが。
執着を手放すと、逆に望みが叶うと聞くけれど、まさに。
私が完全にあきらめた頃から、夫が「何かおススメの本ない?」と突然聞くようになってきたのだ。あきらめてから、実に十数年の月日が流れていた。
 
あるよ、あるよ!!! 心の中で、私ガッツポーズ。
しかし、はやる気持ちを抑え、「んー、じゃあ、これ読んでみる?」と、あえて気のない感じで渡してみる。その本が、夫をガラリと変えてしまうとは。その時の私は想像すらしていなかった。
 
夫を変えてしまったのは、一人の登場人物。
その名は、ピーティ。
 
みんな大好きA〇a〇onで検索してみると、この物語のBOOKデータベースの説明は以下の通り。
 
『ピーティ』(2010年)ベン・マイケルセン作 千葉茂樹訳 鈴木出版
 
「人生の大半を施設ですごすピーティ。ひとつひとつの出逢い、目にするもの、耳にするものによろこびとおどろきを味わい、自分の人生を生ききった、胸を打つ、光あふれる物語」
 
……分からない。
正直、これでは、この物語の魅力が全然分からない!
 
では、表紙はどうか。
 
……分からない。
やはり、表紙を見ても、この物語の魅力が分からない!
『ピーティ』という題名のほか、副題もなく、絵としては青い鳥が緑の芝生にいるだけ。
これを見て、読もうとする人が果たしているだろうか?
 
だから、この本は手渡さないと読まれないのだ。
でも、手渡し方が難しい。だって、しつこいようだが、あらすじを見ても表紙を見ても惹かれないから。これ、「とにかく読んでみて!」としか言えない類の物語なのだ。
 
“主人公は脳性まひ。素晴らしい文学であると同時に、障がい者の歴史を垣間見ることもできる貴重な作品”
 
と聞いて、一体どれだけの人が興味を持つだろう? 主人公と出会った人たちの友情物語はそれぞれに胸を打つものではあるけれど、あらすじはといえば、さほどのドラマチックな展開があるわけでもない。しかも、これ、子ども向け。児童文学なのだ。大人に手渡すのは、ますます難しい。
 
しかし、ラッキーなことに、その当時の夫は、とにかく何でもいいので読みたい気分だったようだ。夫側に何もこだわりがなかったから、ピーティと出会えた。
 
さて、そんな夫だったが、読み終えたあとは、しばらく無言だった。静かに何かをかみしめているかのようだった。やっと口を開いたとき、夫はこう聞いた。
 
「いやあ、すごい……。これ児童文学なんでしょう?
ってことは、小学生とか中学生が読むってことだよね……?」
 
さらに夫は続ける。
 
「これ、読んだ子と、読まないで育った子では、人生変わっちゃうよね」
 
と。そして、夫はこうした本を読まずに人生過ごしてきてしまったことを後悔したようである。一冊の本との出合いが、夫を変えてしまった。
 
ピーティという寝たきりで、何もできない脳性まひの人物が、ただ存在するだけで周りを変えていく。存在するだけで、幸せを与えていく。何かを成し遂げなければ、何者かになれないと思って、日々もがいている者にとっては、その出会いは衝撃だろう。
 
現代は、“目標”や“夢”を持つことがよいとされ、我々はそれに追われている。常に未来に向かって努力したり、もがいたり……。いまでこそ、マインドフルネスなどが流行り、“いま、ここ”がようやく言われ始めたけれど、“いま、この瞬間”を味わうことを忘れている人のなんて多いことか。
 
ピーティは大切なことを私たちに思い出させてくれる。
ただ、存在するだけで素晴らしいということを。自分次第で、どんな環境下でも人生は輝いたものになるということを。
 
児童文学は、子ども“でも”分かるように書かれた文学だ。それは、決して子どもだましということではない。表現技法はシンプルだが、技法に頼らない分、ストレートに魂に響く。
この本を機に、夫は私の勧める本を軒並み読むようになっていった。
 
ピーティ。生きてるうちに彼に出会えてよかった!
素晴らしさを伝えるのが難しいこの物語を、どうやったらたくさんの人に手渡せるのか。
 
というわけで、これから発売される湘南天狼院の福袋の中にも、忍ばせてみた。
一人でも多くの人が、ピーティと出会えますように、という願いを込めて。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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