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育児に悩むママにピタゴラスイッチをおすすめする理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:久慈桃子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「もういい加減にして!」
三歳の娘に、私は怒鳴ったことがある。
パンツも忍耐も尽きてしまったからだ。
 
子育ては途方もないトライ&エラーだ。特に子供が幼い時期の躾は、自分がBotになったかのように何度も何度も「トイレに行こう」「スプーンを投げないで」と繰り返して日が暮れる。
 
トイレトレーニングを(主に保育園の先生のおかげで)卒業した娘は、紙オムツに別れを告げ、お姉さんパンツユーザーになった。彼女は大人に促されるときちんとトイレに行き、自分で排泄をコントロールできる満足感にひたっていた。
しかし娘はそのうち自身の排泄コントロール力を過信し、余裕ぶっこいて「ギリギリまで尿意を我慢してトイレに行かない」という行動を取るようになった。
「そろそろトイレに行こう」
「まだ遊んでるの!」
排泄コントロールに自信はあっても、目の前のおもちゃで遊びたい! という自分の欲望をコントロールできないのがいかにも三歳である。
そして彼女が本当の本気で尿意が限界マックスになり慌ててトイレに駆け込もうとしてもすでに遅く、トイレの床や手前の廊下でオシッコを漏らしてぐずぐず泣き出すこともよくあった。何事も過信は禁物である。
 
尿に含まれるアンモニアは時間が経つとそれはもう強烈な悪臭を放つので、漏らした次の瞬間には娘の服をひん剥いて体を洗い、新しい服に着替えさせ、床の尿を雑巾に吸わせ、臭いが残らないよう中性洗剤で尿が散った箇所を拭く。そしてたっぷりと尿の沁みたアンモニア臭い衣類を風呂場で洗う。
娘がオシッコを漏らすと、ものすごく手間のかかる一連の後始末が必ずセットになる。私は何度も何度も「そろそろトイレに行こう」と声をかけたし、何度も何度も娘の漏らしたオシッコを拭いた。紙オムツへの逆戻りは渾身の力で拒絶され、おねしょ布団の後始末のために会社に半休を願い出たことも一度や二度ではない。
「そろそろトイレに行こう」
「まだ遊んでるの!」
トイレへ誘導する声かけは毎回却下される。ひとたび漏らせばトイレタイム以上に遊ぶ時間が削られるのだが、三歳児は時間の感覚がまだ曖昧だと育児書に書いてあったとおり、説得はいつも徒労に終わった。
そして私はとうとうキレた。
朝から数えて五回目のお漏らしに、替えのパンツも親の忍耐も切れてしまった。
 
もちろん娘は泣いた。
 
子供が泣こうがわめこうが、服をひん剥いて体を洗い、新しい服に着替えさせ、床の尿を雑巾に吸わせて捨てて、新しい雑巾と洗剤であちこちを拭く一連の後始末は遂行しなければならない。替えのパンツはまだ乾いてないし、もうすぐ雑巾のストックも尽きそう。
泣きたいのはこっちだよまったく。
その日はパンツの代わりに問答無用で紙オムツをはかせた娘にEテレを見せ、朝洗った生乾きの下着を乾燥機にぶち込んでなんとかした。
 
娘はEテレの中でも「ピタゴラスイッチ」の「ビーだま・ビーすけの大冒険」がお気に入りで、親に叱られて大泣きした後もケロッとして悪の親玉から逃げるビーすけに熱い声援を送るほどだった。
私も「ピタゴラスイッチ」は気に入っている。複数のボールが面白いほど見事な軌道を描いて進んでいくピタゴラ装置のアイデアに目が離せないのだ。
番組の最後に慶應義塾大学佐藤雅彦研究室とクレジットされていたので、なるほどめちゃくちゃ頭のいい人たちは計算してこんなにすごいものを作れるのだなぁと感心した。物理が苦手で生物選択だった私にはとてもできない。
 
ところが、ある日の特番で見たピタゴラ装置のメイキングにズガーンと衝撃を受けた。
 
美しく計算されたコースでスムーズに展開しているとばかり思っていたピタゴラ装置は、実は何十回も(ときには100回以上)トライ&エラーを繰り返して撮影された作品だったのだ。
しかも装置がつまずく場所は同一ではない。上手くクリアできたと思えば別の箇所で頓挫し、少し手を入れれば別の場所が問題になる。途方もない徒労。とんでもなく忍耐力と根気が試される作業の末に、「ビーだま・ビーすけの大冒険」はオンエアされていた。
メイキング映像の中で何度も何度も失敗し続けるピタゴラ装置を見て、私はしばし呆然としていた。
 
めちゃくちゃ頭のいい人たちが寄り集まっても、小さなボールの軌道1つコントロールできないのか……。
 
ピタゴラ装置のボールは、済むべき道をほぼ限定されている。計算通りの軌道を描くように誘導されている。それなのに、つまづくのだ。めちゃくちゃ頭のいい人がいっぱい計算して、シミュレーションして、丁寧にお膳立てしたにもかかわらず何十回も失敗する。
慶應義塾大学佐藤雅彦研究室の皆さん、ほんとお疲れさま……!
偏差値は天と地ほども違うが、私は彼らに一方的な親近感を抱いた。
 
ただのボールでさえこうなのだから、人間の子供なんてうまく導けるはずないじゃないか。
 
私がお漏らしの後始末をするように、彼らも失敗したピタゴラ装置の後始末をする。いくつもの仕掛けを元に戻し、ボールの軌道を計算し直し、仕掛けの微調整を試み、スタート位置にそっとボールを放す。たった一回の成功のために、何十回もトライ&エラーを繰り返す。
何度も何度もBotのように「お片付けをしようね」「トイレに行こうね」「ご飯を食べようね」と繰り返す毎日は、ピタゴラ装置のメイキングと同じ。
つまり育児はピタゴラスイッチだ。
 
あんなに頭のいい人たちでさえ上手くできないんだから、私が人間の子供相手に上手くできなくたって、仕方なくね?
 
失敗ばかりのメイキング映像を見て、私は逆に勇気づけられた。世のお母さん方はこのメイキングをぜひ見て欲しい。
ありがとうEテレ。受信料は喜んで払います。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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