クリスマスの魔法はいつまでも解けなくていい
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:垣尾成利(ライティング・ゼミ日曜コース)
「今年はコロナでサンタさんはステイホームだからプレゼント配れないんだって。どこも自粛だから仕方ないわね。フィンランドから日本に来ても到着から2週間は隔離だからその間にクリスマスは終わっちゃうわね。一年後もどうなってるかわからないから、来年からも無理かもしれないわね。サンタさん、仕事失くなっちゃうんじゃないかしら。残念だけど、今年から手紙書くのやめたら?」
こんなふうに一年一度の楽しみ、サンタさんへのクリスマスプレゼントのリクエストを突然打ち切られる子どもが居そうな気がして心配です。
子どもが小さい頃はクリスマスイブの夜、枕元にこっそりとプレゼントを置き、翌朝子どもが喜ぶ姿を見るのが親の楽しみでもあったのに、小学校の高学年にもなると「この子、いつまでサンタを信じているのだろう? まだ気付いていないのかな?うちの子大丈夫かしら?」と純粋にサンタの存在を信じ続けている我が子に不安を感じるようになる親御さんが増えてきます。
そして、突然サンタさんの存在を否定するように真実を告げ、子どもの淡い夢を打ち砕くのです。
私も、クリスマスにとても苦い思い出があります。
「今年からサンタさんは我が家には来ません!」
小学5年生のクリスマス、父が突然そう宣言しました。
私は全く疑うことなくサンタさんの存在を信じていて、この日もプレゼントをリクエストする手紙を一生懸命に書いたところでした。
親に手紙を書いたことを話した時に、突然の打ち切りを突き付けられたのでした。
この時期、幼い頃から「良い子にしていないとサンタさんが来てくれないよ」と言っている親御さんは多いと思います。
我が家もそうでした。
ベビーブーム世代の私は「世の中にこんなにたくさんの子どもが居るのだからサンタさんも大変だ。ある程度上位につけておかないとプレゼント贈呈者の資格を剥奪される可能性はある。それは困る。年間を通じて良い子で居続けてAクラスをキープしておかないといけない」と常に危機感を持って、日常的に母の手伝いも頑張り、犬の散歩も毎日行き、宿題も怠らず、近所の人には元気よく挨拶をし、良い子であることを日々アピールし続けていました。
サンタさんが私を良い子だと認めてくれて、望み通りのプレゼントを用意してあげよう、と思ってくれるようにと、プレゼントを貰ったその日から、来年のプレゼントプロジェクトを始動するような子でした。
「お前はいつも良い子じゃのう。今年も安定のAクラスじゃよ。来年もその調子で良い子でいるんじゃよ」
サンタさんはきっとそう言ってくれるはずだ。プレゼントをもらう権利は確実に手にしている自信がありました。
なのに、突然のサンタさんは来ない宣告です。
おそらく、人生で一番泣いたのはこの時でした。
サンタさんが僕を見捨てるはずがない。これはきっと何かの間違いで、父は勘違いをしているんだ。
もし落選通知が来ているなら、それは向かいの家のあいつのところに来た通知が間違ってうちのポストに入っていただけだ。
思い出せ。去年のクリスマス以降、大きなマイナスを付けられるような失態はあったか?
そんなのあるわけがない。いや、待てよ……5年生にもなって一度だけおねしょをしたことがあったけれど……(汗) まさかあの一回が見捨てられた原因なのか?
それにしても、なぜこんなことになるんだ……
嗚咽をもらして、ベッドで泣いて泣いて泣き続けたのをはっきりと覚えています。
学校では友達がサンタさんの正体は親なんだ、なんて話していたけれど、あれは負け惜しみだ。
普段の行いが悪くてサンタさんに見捨てられたやつの苦し紛れの嘘だ。
サンタさんは本当にいて、Aクラス入りした良い子にだけプレゼントをくれるんだ。君は残念ながら落選しただけだ。僕は君とは違う。一年かけてポイントを稼いできたんだから落選するわけがない。
君をかわいそうに思ったお父さんお母さんが、君を傷付けないためにサンタの正体は親だと嘘を言っているだけだ。
そんなこともわからないなんて、君は哀れだなぁ。
無理やりクリスマスの魔法を解かれてしまった私の心には、大きな大きな傷が残ったのでした。
大人になり親になった私は、我が子には同じ悲しみを経験させたくない一心で、息子が小さい頃からサンタさんは本当にいるんだとリアルに説明してきました。
「いいか、サンタさんから本当に欲しいプレゼントを貰うためには、一年を通じて良い子でいなければならないんだ。この時期だけ急に良い子の振りをしたって無駄だよ。サンタさんには偵察部隊がいて不定期に調査をしているんだ。学校、家庭、勉強や手伝いまで、細かくチェックされていて点数が付けられ、順位が決まる。ランキングで上位に食い込まないと好きなプレゼントは貰えないから日常的に行動には細心の注意を払っておくように。
父ちゃんも3年生の時に一度Bクラスに落ちてしまったことがあって、その年はリクエスト通りのプレゼントが貰えなかったことがあったんだ」
「サンタさんは地域経済の活性化のことも大切に考えていてくれる。だから近くのお店でおもちゃやゲームを調達しているんだ。ほら、去年は○○カメラの包装だっただろう?保証書のこともあるからね、遠くだと我々も困るし、サンタさんも輸送コストがかかるから大変なんだ。子どもたちの近くのお店でプレゼントを用意する。そんなところまで気配りしてくれているんだよ」
「何より一番大切なことは、いくらAクラス入りするだけのポイントを稼いでも、信頼関係を損ねてしまったらサンタさんは来てくれなくなる、ということだ。信頼関係があれば何歳になってもサンタさんは来てくれる。父ちゃんとサンタさんの間には固い絆がある。だから父ちゃんは大人だけど今も毎年プレゼントを貰えてるんだよ。こういうところは是非とも真似した方がいいよ」
息子は私の言葉を信じ、6年生まで疑うことなく年間ポイントを稼ぎ続けたのでした。
そんな息子は高校2年生。
我が家は、サンタさんの正体は親だったというタネ明かしはしないまま今に至っています。
息子も、事実は知っているけれど、いまだにサンタさんの正体のことは話題にしません。
クリスマスの魔法はいつまでも解けなくていいのです。
その方が楽しい時間が続くから、それでいいのです。
サンタさんのタネ明かしをしないでいることは、息子の成長を遠くから見守ることに似ているなぁと感じました。
親がわざわざ答えを示さなくても、自分で考えて答えを見つけていくんです。
それが成長です。
親は黙って子どもが自分で成長していくのを、そっと見守っていれば良いのです。
それが、親の楽しみなのです。
中学生になった年のクリスマス、息子はこう言いました。
「サンタさんも忙しいから、プレゼントのリクエストはやめておくわ。今年からはサンタさんの代わりに父ちゃんに欲しいものを頼もうかな」
それから5年、我が家のクリスマスの魔法は少し形を変えたけれど、解けて無くなることはありませんでした。
***
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