メディアグランプリ

いのちをいただく、ことの本当の意味


*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2021年1月開講】天狼院「リーディング&ライティング講座」開講!本を「読み」、そして「書く」。「読んで終わり」からの卒業!アウトプットがあなたの人生を豊かにする「6つのメソッド」を公開!《初心者大歓迎!》

記事:渡邊真澄(リーディング・ライティング講座)
 
 
「いただきますってどういう意味なん?」
「『おいのち、いただきます』っていう意味や」
 
10年ほど前、9歳の息子とそんなやりとりをした。保育園、学校、家庭でも「いただきます」「ごちそうさまでした」をちゃんと言うようにと言われ続けてきた。だが、それってどんな意味なんやろ、と、息子はずっと疑問に思っていたようだった。「おいのち、いただきます」だと私に言われ、「そっかあ」と納得したような、していないような素振りだった。そのことを話した友人から、「だったら、この本読んでみるといいよ。息子さんにも読んであげて」と紹介されたのが、この本だった。
 
いのちをいただく 文 内田美智子 絵 諸江和美 監修 佐藤剛史(西日本新聞社発行)
 
「前半は絵本で、後半に生産者さんたちの話があるからね」教えてもらってすぐ、Amazonで探して発注した。数日後に届くと、早速息子に読み聞かせた。食肉加工センターで牛を殺す仕事をする坂本さん。そんな父親の仕事を恥ずかしく思っていたが、学校の先生に言われたことがきっかけとなり、お父さんの仕事を尊敬するようになった小学生の息子さん。この親子のやりとりで話が進む。ある日、坂本さんの職場に、おじいさんと小さな女の子がやってきた。本当はずっと女の子と一緒にいるはずだった、みいちゃんという牛に付き添って。
 
ゆっくりと息子に読んで聞かせた。読み終えた後、「どうやった?」と聞いてみた。「うーん。給食とかさ、あーさん(私)が毎日作ってくれるごはんのお肉が、どういうふうにお肉になってるのかってのはわかってん。そやけど、俺、期待されるほど感動せーへんかったで」そっか。バレていたのか。最初に私ひとりで読んだ時、ぐいぐいと話に引き込まれた。気がついたら、坂本さん、息子さん、牛を連れてきたおじいさんとお孫さんの思いが心に刺さり、涙が止まらなかった。「きっと息子も、心が動くだろう。食べること、生きることについて、何か感じてくれるはずだ」そう思って、息子に読んだのだが。「ここに置いておくからさ、また自分でも読んでみいや」食卓のそばにあるマガジンラックに、その絵本を置いておいた。だが、息子がその本を開くことはなかった。
 
先週のクリスマス。毎年恒例となったローストチキンを下ごしらえしておこうと、解凍しておいた丸鶏を冷蔵庫から取り出した。まな板の上にどんと乗せ、塩とスパイスをすり込んでいく。初めて丸鶏を買った時は、まさに『鳥肌」の皮にどきどきした。鶏の首あたりは触るがこわかった。毎年繰り返すうちに、鶏がかわいく思えてきた。きれいやねえ。立派なお肉やね。美味しいごはんいっぱい食べて、いっぱい運動してきたんやねえ。今年は声をかけながら、触れるようになった。そうして下ごしらえして焼いたローストチキンは、ものすごく美味しかった。少し食べただけで、お腹いっぱいになった。骨でガラスープを取り、すべて美味しくいただいた。「そういえば、あの本まだ置いてたかな」思い出して、久しぶりに読んでみた。
 
昔と同じように、坂本さんの話を読み進めるうちにやっぱり涙が溢れた。だが、その先のページを開き、ぐっと呼吸が止まるくらい胸を、心を掴まれた。
 
すべての食べ物は命だ。肉も魚も野菜も米も、すべてが種を残そうとする生命体だ。人が生きるということは、命をいただくこと。殺すこと。(p. 59)
 
そうだ。牛だけでなく、鶏だけでなく、魚も野菜も米も生きてるやん。私の代わりに殺してくれる生産屋さんがいてて、私は料理ができて美味しく食べられたんやん。あの、毎年ローストチキンにする鶏も。
 
食べ物っていのちなんよ。牛さんも、鶏さんも、豚さんも生きてるでしょ? いのちをいただいてるんやから、大事に残さんと食べなあかんよ。
 
10年前の私はそんなふうに息子に伝えていたのかもしれない。でも、大事なことが抜けていた。『すべての生命体を殺したもの』が、食べ物なんだ。それを食べないと生きていけないのが、人間なんだ。
 
この本の前半は『いのちをいただく』という絵本になっていて、そのあと『いただきますということ』というタイトルの文と写真が続く。鶏と野菜を育てる農家の八尋幸隆さん。魚の養殖業を営む村松一也さん。そして、保育園長 西福江さんを取材した現場レポートだ。「読んだことなかったやん、私。こんな、めちゃめちゃ大事なこと書いてあったのに。なんで読んでへんかったんや」10年前の自分に「あかんやろ! あんたがちゃんと読まんでどうすんねん!」と言ってやりたかった。私自身がわかっていなかったのだ。いのちをいただくということの本当の意味を。
 
「野菜は能動的な生き物だと思っている。その力を引き出す。そうすると野菜が喜ぶ」(p. 64)
 
農家の八尋さんの言葉は、10年前の自分が読むべき言葉だった。子育て真っ只中だった私が。私は息子の力を引き出そうとしていただろうか。
 
野菜は野菜らしく。ニワトリはニワトリらしく。
「人間らしく生きたい」。自分自身もそう思う。(p. 65)
 
現場レポを書かれた佐藤さんの最後の言葉、「人間らしく生きたい」が深く深く私の中に落ちた。
 
あれから10年経った。息子は来年二十歳になる。もう一度、この本を勧めてみようか。今度は「食べる」ことだけでなく、「人間らしく生きる」ことについて彼に伝えたい。彼は、何か感じてくれるだろうか。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の「リーディング&ライティング講座」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミ、もしくはリーディング&ライティング講座にご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

【2021年1月開講】天狼院「リーディング&ライティング講座」開講!本を「読み」、そして「書く」。「読んで終わり」からの卒業!アウトプットがあなたの人生を豊かにする「6つのメソッド」を公開!《初心者大歓迎!》

 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事