メディアグランプリ

鬼舞辻無惨は、果たして悪なのか?


*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:青木文子(リーディング・ライティング講座)
 
 
12月4日の朝、4時頃に起きた。
今日はなにか大切なことがあったはずとぼんやりとした頭の隅で思う。そうだ!今日は『鬼滅の刃第23巻』発売日ではないか! 頭上に置いてあるスマホを手にとって、Amazon Kindleで急ぎ購入する。ダウンロード完了するやいなや布団に入ったまませわしげにページを捲る
 
5時過ぎ、布団の中で私は静かに涙を流していた。手にはスマホ。画面は鬼滅の刃第23巻電子版最終ページ。本連載の時にはなかった、巻末特別ページが特にいけない。何度読んでも巻末ページにをめくると涙が溢れてくる。結局、朝の布団の中で『鬼滅の刃第23巻』を3回通読して、3回とも泣いた。
 
あれからからもう何度23巻を通読しただろうか。SNSには『鬼滅の刃第23巻』に感動した! という声が溢れている。私もそのひとりだ。そして相変わらず読む度に泣く、泣ける。
 
何回目に読んでいたときに、ある場面で目が止まった。鬼舞辻無惨が自分の過去を思い出すシーンだ。産まれたときの回想、そして大人になった無惨の横顔。その横顔はハッとするほど美しかった。悪の美しさなのだろうか。その横顔にはどこか悲しみがあった。
 
それからだ、心の中に小さな囁きが聞こえるようになったのは。最初はまったく思わなかった言葉が、読む度に私の心によぎるのだ。
 
「鬼舞辻無惨は、果たして悪なのか?」
 
それは当然悪でしょう! 人々を鬼にしたのに! あんなに罪のない人を殺しているのに! そんな声が聞こえてきそうだ。そう、私もそう思う。鬼舞辻無惨は悪でしかない。だけれど。
 
「鬼舞辻無惨は、果たして悪なのか?」
 
それでも繰り返し、この言葉が私の中でリフレインするのだ。
 
「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました」
 
これは2014年に、新聞広告クリエーティブコンテストを受賞した作品のコピーだ。新聞の一面広告、紙面の真ん中に小さな赤鬼が泣いている絵。小さな赤鬼の上にはいるコピー。この小さな赤鬼は、桃太郎に退治された赤鬼の子どもだろうか。
 
桃太郎というのは鬼を退治する物語だ。鬼は悪、それを倒す桃太郎は善。小さいときから読み聞かされてしたこの図式は、私達の中で、なんの疑いもなく固定されている。それに反して、この新聞広告のキャッチコピーは鬼側から見た風景を描く。私達の善悪の判断が、本当なのか? あくまで視点の違いだけでしかないのではないかと問いかけてくるようだ。
 
『鬼滅の刃』第2巻、鬼殺隊に入るための最終選別の舞台「藤襲山」。炭治郎が鬼の首を一撃で切る場面がある。倒された鬼からは悲しい匂いがする。つい鬼の手をとる炭治郎。「この人が今度生まれてくる時は鬼になんてなりませんように」とつい祈る。鬼の目からは涙があふれ出る。
 
鬼滅の刃の物語の中で徐々に明らかになってくることは、鬼たちは、かつて人間であり、その人間時代に悲しみを持っていたということだ。『鬼滅の刃』の中に写し取られているのは、加害者と被害者の物語であり、加害者もかつての被害者であった物語だ。
 
桃太郎の物語のように、桃太郎には桃太郎側の物語があり、鬼側には鬼側の物語がある。23巻の中で無惨の過去が語られたように鬼舞辻無惨もかつて人間だった。かつて人間だった鬼舞辻無惨のもつ悲しみとはなんだろう。
 
私達の社会の中にもまた、無数の加害者と被害者がいる。子供の人生を支配しようとする親、相手を束縛するパートナー、自分の持っている地位を利用して人に自分の感情をぶつける上司。このどれもが人に対する暴力である。この暴力の連鎖、加害は連鎖をして広がっていく。
 
鬼舞辻無惨は自分の都合で鬼たちを作り出していく。そしてその鬼たちはさらに暴力的に人間たちに災いをもたらしていく。鬼たちは自分の中にある、悲しみや怒り、やるせなさで暴力を増幅させ、その暴力はさらに他者に向かう。そのそんな災いが降りかかった一人が禰豆子であり炭治郎だ。
 
暴力の連鎖を止める鍵は一つしかない。
加害者もかつての被害者であったという事実から目をそらさないこと。
 
ラスト近く鬼舞辻無惨が叫ぶ。
 
「私を置いていくなアアアア!!」
 
仲間を裏切り続けた鬼舞辻無惨。ここまで独善的に鬼を人を支配してきて、何を都合の良いことを言っているかと多くの人は思う。しかしこの言葉の裏側に悲しみを感じるのはどうしてだろう。
 
鬼舞辻無惨がしてきた数々の残酷なことを許せといっているわけではない。でもその上でもう一度、自分の胸の奥でついつぶやいてしまうのだ。
 
「鬼舞辻無惨は、果たして悪なのか?」
 
『鬼滅の刃』の中に加害者と被害者がおり、その連なりと悲しみがある。その視点で見たときに、勧善懲悪とは違う風景が見えてくる。誰もの中に、加害者も被害者もいるという事実。
私がそしてあなたが、人生の中で抱えているその事実から逃げないこと。それがじつは、『鬼滅の刃』の裏テーマなのではないかと思う。
 
そして次に読み返したときも、答えがでないまま私はきっとまた心のなかでつぶやく。
 
「鬼舞辻無惨は、果たして悪なのか?」
 
 
 
 
***
 
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2020-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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