片意地を張っていた20年前の自分へ読ませたい本
*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:西眞紀子(リーディング・ライティング講座)
なんといっても会社はまだまだ男社会だった。
わたしが現役で働いていた20年前は、セクハラという言葉が徐々に浸透しつつある頃で、パワハラという言葉はまだなかった。
わたしはその頃役職に就いた。わたしの会社では、女性の役職はまだ少なかった。
役職に就いた時は、正直嬉しかった。これからは女性の役職も増えてくるだろうし、その見本になれるよう頑張ろうと思った。
役職に就いて変わったことは、何しろ会議や出張が多くなったことだ。まとめる資料、プレゼン資料が多くなり、なにより結果を求められた。そして、上司と部下との橋渡しという、目には見えない仕事も増えた。1年間は必死だった。仕事の流れについていくのに必死だった。
そしてわたしは気が付いた。会社はまだまだ男社会であることを。
何をするにも弱みを見せてはダメだということ。
弱みを見せると「だから女はダメなんだ」と言われ、
弱みを見せずに片意地を張っていると「かわいげのない女だ」と言われた。
口論で少しでもきつい言い方をすれば「だからお前は嫁にいかれないんだ」と、いまでは信じられないような言葉もあびせられた。
上司との出張もあり、移動中の食事など最悪だ。
上司と同じメニューしか選べない。もしも別のメニューで、わたしの方の料理が遅かったら上司を待たせることになるから。
そして、上司と同じペースで食事をする。できれば上司より早く食べなくではならない。なぜなら、化粧を直す時間が欲しいからだ。それでもトイレなどは、どうしても女性の方が遅くなる。そのたびに「お待たせして申し訳ありません」と謝ることになる。
「女との出張はめんどくさいな」と顔が言っている。
孤独だった。
相談する相手がいなかった。
上司には、自分で何とかしろと言われ、部下には、どうにかしてくださいと言われる。
同じ女性の役職には、ライバル視された。
孤独だった。
そんな男社会のなかで孤独と戦ってしる女性に出会った。
「凍える牙」(乃南アサ)の主人公、音道貴子だ。
30代前半女性、刑事。4年半結婚生活をして夫の浮気で傷つき1年前に別れた。子供はいない。
機動捜査隊員である彼女は、管轄内の殺人事件本部に駆り出され、所轄の男性とコンビを組むことになる。その相棒の男性が最悪だった。一言でいうと女性蔑視。
40代後半のその相棒は、女房に逃げられ女嫌い。女を信じていない。女はすぐに嘘をつく、裏切る、気分が変わる、感情が先走ると思っていて、女のデカを認めていない。
捜査本部には、女性は彼女しかいない。
「女だというだけで、好奇の眼差しを向けられたり、あなどられたりすることに、いちいち目くじらを立てていては、とても刑事はつとまらない。」(p.48)
女刑事は、孤独と戦っていた。
しかし、彼女は諦めなかった。
相棒を嫌なヤツだと思いながら、パートナーとしてより良い関係を築いていこうと模索する。
「女としてではなく、仕事仲間として、コンビを組む相方として、受け入れてもらえる方法を探すよりほかにないのだ。そうしなければ、今後の捜査に支障を来す」(p.66)
彼女は、捜査を優先した。男でも女でもなく、人間としてどうあるべきか考えた。
わたしは、どうだっただろう? 女であることに意識しすぎては、いなかったか?
数少ない女性管理職として、女性としてどうあるべきか考えていた。
相手を人として扱っていただろうか? 男、女と意識しすぎては、いなかったか?
相談する相手がいなかったのではない。相談しなかったのだ。
助けてくれる人かいなかったのではなく、助けを求めなかったのだ。
今ならわかる。片意地をはって自分の女という殻に閉じこもっていたのだ。
誠実に、人と接していなかったのだ。
彼女は孤独だったが、人には誠実に仕事を大切にしてきた。
自分が間違っていると思ったら、素直に頭を下げた。
そんな彼女の姿勢に、女嫌いの相方も態度を改めるようになる。
そしてクライマックスでは、彼女が捜査をひっぱり、誰もが認める仕事をする。
爽快だ!
女だって出来る。いや彼女は女を意識はしていない。ひとりの人間として、精一杯生きているのだ。男だ、女だと言っていた野郎どもに見せつけてやったのだ!
20年前の自分に言いたい。
男社会だと意識していたのは、自分が女だからと意識していたからだ。
力を抜きなさい。誠実に人と接しなさい。自分らしく生きればいいのよ。
【紹介した本】
「凍える牙」乃南アサ著 新潮社
【読んでほしい人】
・男社会で頑張っている人
・孤独だと思っている人
・男性をギャフンといわせたい人
***
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