ヴィカニュアリィと苦い思い出
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記事:中村ぺぺ(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
「すいません。おなか、空いてたもんで……」
売れ残りの弁当が大量に入ったゴミ袋に手をかけたまま、そのおじさんは小さくそう言った。人の良さそうな、困った笑顔を浮かべながら。
私はその頃、二十歳くらいだったと思うけど実家のコンビニで店長をしていた。父の急病で、ぽっかりと主人不在となった店の中心として、日々忙しく過ごしていた。経営に対する経験や知識はゼロに等しく、持ち前の負けん気をフル動員することで、身の丈に合わない状況を切り抜けようとなんとかやっていた。
「あの、困ります……」
ゴミ倉庫を前に佇むおじさんに、何の解決策も持たずに恐る恐る近づいたわたしは、そう呟くのがやっとだった。
私はあのおじさんに、何と声をかければ良かったのだろう。20年経った今でもふと思い出す、小さな苦い思い出だ。
一般にコンビニでは、1店舗あたり、1日に10~15キロ程度の食品を廃棄している。累計すると年間では約20~30万トンの食品ロスが発生していることに。これは日本全体の食品ロスのうち約3〜5%を占めると考えられている。
その中でも家畜飼料なんかに再利用されているのはほんの一部で、その施策だって20年前には無かったものだ。
賞味期限なんて、1日過ぎても余裕で食べられるように設定してあるのは当然で、そんな“ピッカピカのゴミ”は、実家の店でも毎日出ていたのだ。
今はどうだかわからないが、20年前は「商品がひとつ余る発注」が良い発注とされていた。商品が売り切れてしまうのは「まだ売れる可能性があった」ということで、機会損失と言われていたのだ。
そんなわけで廃棄は出すもの、が前提だったように思う。
で、そのおじさん。
明らかに家を持たない、そのひとを目の前にした時、わたしは本当に困ってしまったのだ。大前提として、廃棄は誰のものにしてもいけない。店主ですら自由にしてはいけない(表向きは)。さらに、いわゆるホームレスの人に、あの店に行けば食糧がもらえると認知されるということになれば、お客さんもさまざまな印象を店に持つことになるだろう。
ピカピカのゴミと、今日食べるものにも困ってるおじさん。
わたしの心は揺れに揺れた。
でも、でも、その時のわたしには良心に任せた自由な判断というものが出来るほどの余裕も、自信もなかったのである。
それからも、小さいながらもピカピカゴミを巡るトラブルは続いた。トラブルの詳細は避けるが、原因はやはり「まだ食べられるもの」であるために起こってしまうことが大抵だった。
暫定処置的な自分の立場や、仕事に対する決意の未熟さゆえ、その度に心は揺れ動くこととなる。
あれから20年近く経った。
食品資源の再生利用に関する法律が制定され、コンビニから出る食品廃棄物の再利用も、全てではないけど始まった。
華やかさには欠けるが、ロングライフ商品と言われる弁当が増えたのは単純に喜ばしいし、賞味期限切れ間近の商品の値下げに応じるコンビニも出てきた。ちなみに、農林水産省がコンビニに課した、食品廃棄の発生抑制の目標値は、1店舗売り上げ高100万円あたり、44.1kgだ。
わたしはといえば、実家を遠く離れ、東京でまったく別の職業についている。少しの責任と大いなる自由。
フワフワと、地に足がついているのか不安になる自分を、昔の感情を思い出すことで捉え直そうとしているフシがある。
そして、時折思い出しては苦々しい感情を呼び起こさせる、ゴミ倉庫の前のあの出来事をポジティブに捉えなおす為、わたしは新年1月に小さな行動を起こすことを決めた。
ちょっと極端過ぎるかも知れないけど、veganuary(ヴィガニュアリィ)という運動に参加することを決めた。
ヴィガニュアリィとは、ヴィーガン(Vegan)と1月(January)を掛け合わせた言葉で、海外でここ数年盛り上がりを見せている。新年の誓いを立てやすい1月だけヴィーガンの生活にチャレンジしてみるという運動だ。
なんでいきなりヴィーガン? と思う人も多いと思う。でも、自分の食生活やフードロスを見直すときに「何を食べるか」という選択は重要だ。自分の食に責任を持つ。わたしの食べ物はどこから来てどこに行くのか? まずは選択肢を限定し、その小さな項目にチェックを入れていくように、自分をカタチ作るものを見つめ直そう、という企み。
幸い日本でも、食トレンドとしてヴィーガン食品が以前よりも身近なものになっており、比較的取り組みやすいのでは、と考えている。
この文章を読んでくださっている方も、2021年1月、一緒にチャレンジしてみませんか?(いきなり勧誘口調)一ヶ月はちょっと、という方はまずは1週間どうでしょう?
わたしもハッシュタグ#ヴィガニュアリィで、経緯を随時どこかにアップしていくつもり。仲間が多ければ楽しいな、くらいのノリです。
そして、何もできなかったあの頃の自分を、苦い気持ちで振り返る事が少なくなれるよう、より良い選択の第一歩にしていきたい。
おっちゃんに弁当一個くらいあげてもよかったよ、二十歳のわたし。
***
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