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アベちゃんを探しています


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐々島由佳理(チーム天狼院)
 
 
私はここ15年くらいずっと「アベちゃん」に逢いたくて探し続けている。
このご時世、インターネットやSNSを駆使していくらでも見つけられそうなものなのだけど、アベちゃん情報は1カケラも見つけられないままでいる。
 
アベちゃん、とはきっとそういうものなのだろう。
知りたいと思う時、逢いたいと願う時、こちらの都合でひょっこり現れてはくれないのだ。
なぜなら、今きっとアベちゃんは私たちとは違う“時空”を旅している。
マーティの未来を案じ、デロリアンに乗って現在、過去、未来を行き来するドクみたいに。
 
15年前、横浜に移住した友人の結婚式があり、高校卒業後散り散りになっていた地元の友人達と久々に横浜で再会した。結婚式参列を終えると、翌日私たちは都内観光へと繰り出した。
久々の再会だし、東京で集合できる機会などあまりないのだからこれでもかと観光すれば良いのに、私たちはなぜか大きな商業施設内にずらりと机が並べられた“占いコーナー”に吸い寄せられ、そして迷うことなく1人の占い師の前にいつのまにか腰を降ろしていた。私の記憶が正しければ、「いや、観光わい」と誰も突っ込んではいなかった。
 
「いつ頃結婚して〜子供は何人で〜」などと次々未来を予言されてキャッキャしている友人を横目に、私は当時長年お付き合いしていた恋人を思い浮かべながら、何を言われても良いようにそれなりに覚悟を決めていた。たとえ残念な未来を伝えられたとしても、「あはは〜所詮占いだしね〜」と後で軽く笑えるくらいにはしておきたかったのだ。さあ来い、私の番がきてまっすぐ占い師の目を見た。準備は、万端だった。
 
「アンタね、カップラーメン食べ過ぎなのよ」
 
……。
 
私と友人のその日一番の「思てたんと違う」が出て、一瞬強烈な静寂が訪れた。私の手相を見るや否や、占い師の第一声がこれだったのだから。
数分前に決めていた覚悟は何の意味も持たなかった。「何それ〜!」と笑い飛ばすどころか、ただただ変な汗が出てくるだけなのだった。「この人、一体何者?」
 
その頃の私といえば、小さい頃から大好きな映画を宣伝するという、ずっと夢だった仕事につき、昼夜厭わず全力投球で仕事をしていた。宣伝はできることとやりたいことが無限大にあり、プロモーションがハマった時にバズが起きたりすると宣伝ハイになり、なかなか戻ってくることができない。20代女全盛期に、私はほぼ毎日徹夜し、会社に泊り込み、朝シャワーを浴びてまた出社、みたいな散々な働き方をしていた。
まさにそんな時だったのだ。徹夜ざんまいの頃、私の深夜のお供はカップラーメンだった。毎日、カップヌードル「BIG」を夜な夜な貪っていたのだ。
 
恥ずかしい。ただただ、恥ずかしい。カップラーメンの相って。どの線よ? 麺みたいにビロビロしている? もはや手のひらが添加物で変色しているとか? 頭の中は「ラーメン 手相」でグルグル検索が忙しかったが、いや、もうそんなことはどうでも良い。とにかく恥ずかしいし、コワい。だって、こちらからは一言たりともBIGについては触れていないのだ。
まずい。何かを見られている。ピンポイントで恥ずかしい過去を読み取られている……と怯え始めた矢先、占い師はこう続けたのである。
 
「あとアンタね、60歳定年すぎたら町内会長やってるわよ。アンタそういうの任されやすいのよ」と。
 
今度は60過ぎの未来かーい。しかも町内会長とか面倒クサそうなやつー。とツッコミたかったが、私の心臓にはその予言がぐっさり突き刺さってうまく息ができなかった。そう。そうなのだ。「私はそういうのを任されやすい」。
 
これまで、学級委員、生徒会、部長、リーダー…… 色々と仰せつかってきた。しかし、大人になるにつれ分かってきたことは、本当に優秀な子はそういったものをあまりやらない(私調べ)ということだ。私にとってはまさにこの一言に尽きる。「そういうのを任されやすい」のだ。そして、「そういうのを引き受けてしまう」。誰かがやらねばならない、でも誰もやりたがらないことを決めるときの場の空気が私はとても苦手だ。しびれを切らして、とでもいえば良いのか、じゃあ私がやりますと言ってしまうし、「やってくれる?」と言われると引き受けてしまう。私もうっすら気づいていたし、ずっと心のどこかでそんな自分に悶々としていた。この人はそれを知っているのだ。私が今まで色々引き受けてきたことも、今も引き受けていることも、そしてこれから定年過ぎて引退した後でさえ引き受けちゃうことも。
 
こんな働き方で良いんだろうか。毎日BIGなんて身体に良いわけないよね。また身の丈以上の役割を引き受けちゃったなぁ。分かっていたけど気づかないフリをしていたこと。この占い師は、過去、現在、未来の私を影からこっそり見て注意しにきてくれたのだろうか。おかげで、私はそれからBIGとサヨナラしたし、あまり引き受けすぎないことを覚えた。
 
最後に、その占い師は結果をざっと書いた紙を渡してくれた。隅っこには「アベ」と書いてあった。
 
私の探しているアベちゃんは占い師だ。きっと今もドクのようにデロリアンに乗って時空を旅し、過去、現在、未来をのぞいている。そしてその道中、偶然にも出会った人々に対して、「アンタが向き合うべき問題点」を独特な視点で、ピンポイントで、突いていく。その一突きは厳しくも優しく、長年溜まっていた膿を出すし、ドミノは倒れて次へ次へと動き出せる。マーティの未来もちゃんと繋がっていくように。
 
またいつかアベちゃんに手相を見て欲しいなと思う。そして今度はきっとこう言われるのだ。「アンタ、やめたふりしてストレス溜まった深夜にこっそりBIG食べてるわね」って。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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