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メディアグランプリ

そして女は下着一枚になった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田盛稚佳子(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
カツン、カツン、カツン。
ショート丈のダウンジャケットを着た女はビルの階段を上がっていた。ある女性限定のイベントに参加するためだ。
それは、天狼院書店が主催する「秘めフォト」というイベント。
「自分史上最高にSEXYな1枚を撮る」というキャッチコピーとともに、透明感のある女性がふわふわした空間でじっとこちらを見つめる写真。
女はあるカリスマ起業家が主催する「手帳活用法」のイベントを探し、あるチケットサイトを閲覧していたところ、偶然にもこのイベント告知が目に飛び込んできて、思わず釘付けになってしまった。
そして「これだ!」とピンときた。
実はこの女、いつか自分のセミヌード(もしくはヌード)写真を撮りたいと密かに思っていたのだ。とはいえ、まず誰に頼んだらいいのか、どうやって探したらいいのか、さっぱりわからなかった。
もし、見ず知らずのカメラマンぽい人に
「あのー、私のヌードを撮ってくれませんか?」なんてお願いしたら、それこそただの変態ではないか。
 
女はその「秘めフォト」広告を見てピンときたものの、いざ申し込むとなるとなかなかスマホのボタンを押すことができなかった。
なぜなら、初対面のカメラマンと一対一の撮影でも恥ずかしいのに数人募集中と書いてある。
カメラマンと洋服を脱いだ数人の女性たち……。その場面を想像すると、今までにない緊張と抵抗と不安が入り混じっていたからである。
しかし、なぜか仕事中のトイレ休憩や昼休み、通勤途中の電車の中でも、ふと、あのふわふわガール(と勝手に自分で名付けた)の画像がぽんと浮かんでくるのだ。
やっぱり気になる。どうしても気になる。
もし、ここで申し込みをしなかったら、後々後悔することになるのではないかという気持ちになっていた。
そして「3日前までのお申し込みで5%オフ」という一文に後押しされて、ポチっとボタンを押したのだった。
申し込んだ女は少しワクワクしていた。当日までにランチを玄米ご飯にしたり、長めのウォーキングをしたり、少しでもキレイに写りたいというささやかな努力をしながら。
 
そして迎えた当日。
11月の半ばだったが、ダウンジャケットの中がうっすら汗ばむほどの陽気だった。
「秘めフォト日和だな」と勝手に思いながら、目的地に歩いて行った。
ビルの階段を上がり、緊張でしっとりした手でドアを開けると、
「こんにちは!」と明るい声と、屈託のない笑顔のスタッフに迎えられた。
待合室に入るとすでに二人の女性がおり、最終的には四人で撮影をするという。
その女以外の人たちは慣れているのか、「今日暑いですよね」と言いながら、スルスルと洋服を脱いでいく。
陽射しの強い暑い日とはいっても、初対面の人の前で脱ぐなんて、そんなに頻繁にあるものではない。せいぜい、スーパー銭湯とか温泉に行く時くらいだ。
初めは躊躇する女だったが、
「撮りたいと決めたんだから……」
と心の中でつぶやき、ダウンジャケットの下に着ていた赤いVネックセーターをエイッと脱ぎ捨てた。穿いていた黒いワイドパンツもスルスルと下ろしていった。
自由にポーズをとっていく他の女性たちを見て、女は思った。
「なんて美しいの!」
自然にSEXYな写真を撮られる風景に見とれているうちに、ついに順番が回ってきた。
他の女性たちの真似で、軽くポーズを決めてみる。流し目にしてみたり、口元を少し開いてみたり、自分なりにチャレンジする。
カメラマンが「お、いいね。その感じ」と褒めてくれるたびに、女は気分が高揚してくるのがわかった。
そして不思議なことに、周りに人がいるのにカメラマンと私だけの空間ができているような感覚に陥った。身に着けているのは下着一枚と、上に羽織った薄いレースのガウンのようなものだけなのに。
そこからは、すっかりモデル気分である。
ガウンを脱ぐポーズをしてフェミニンな感じで撮ったり、髪を掻き揚げながらモノクロのカッコイイ感じで撮ったり、自身の中にある陽と陰を引き出されるような気分だった。
お互いに撮影される様子を見ながら「きれい!」「すっごい素敵」「色気が半端ない」とか、ほうっとため息をつきながら出てくる一言。
それは巷で交わされる社交辞令ではなく、そこにいた者だけがわかる本心から出た言葉たちだった。
 
すべての撮影が終わった時に、女はハッと我に返った。
ふわっと軽い気持ちになったのだ。そしてスッと吹っ切れたような解放感と達成感。プラス、ほんの少しの背徳感。
「撮影したデータは、明日お送りしますね」と言われ、女は家路に着いた。
実際のデータが届くまで、脈拍が普段よりずっと早いのがわかった。
そして開いたデータを見た女は、両手で自分のカラダをぎゅうっと抱きしめた。
「私、こんな表情するんだ。こんな体型なんだ。この写真、SEXYだなぁ」
今まで生きてきた中で、自分のカラダをこんなに愛おしく思ったことがあっただろうか。
そう思うと、その気持ちを早く共有したくなり、見せられる一枚をFacebookにアップすると、想像以上に女性達の反応が来た。私も撮りたいとメッセージまで。1枚の写真の力に胸が熱くなり、撮ってよかったと女は自信がついた。
 
その女(私)が、今はこうしてライティング・ゼミを受講している。
「秘めフォト」の日から、ここへ至るレールが敷かれていたのであろうか。
それが天狼院書店の作戦で、私はまんまとすっぽりハマってしまったのであろうか。
ともかく、いつかライティングのスキルも身に着けたいと思っていた私は、回り道をしてここへたどり着いたのだ。まぁ、どちらでも結果オーライである。
私が思うに、あの「秘めフォト」の日に、下着一枚で包み隠さずさらけ出したからこそ、今日という日があるのだから。人生って、先がわからないから本当に面白い。
 
 

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この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

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2021-01-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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