ランニングは危険ドラッグ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:服部花保里(ライティング・ゼミ日曜コース)
目が覚めると、まだ5時前。1月の5時台はまだ真っ暗だ。そしてとても寒い。まだ寝ていたい。でも起きて走り出さなければ。一回でもサボってしまったら、積み木崩しのように今までの練習の成果が台無しになってしまう。いやいや、成果を発表する場などそうあるわけではないではないか。そんな問答を繰り返しながらも、脅迫観念に駆られるようにランニングウェアに着替える。
私は、プロランナーでもなければ、競技選手でもない。だから、そんなに一生懸命走ったとしても、誰かが褒めてくれるわけでもないし、見てくれているわけでもない。それでも自称「プロの一般ランナー」として、日々こうして走りに出かけずにはいられないのは、なぜなのか。もはや私にとってランニングは、一般的に言われるような、健康的な趣味どころではない。むしろ、依存症か中毒症という立派な病気ではないだろうか。
まずは、ワーカーホリック的に休みをとるのが恐ろしい。かの村上春樹も「走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)」で述べているように「走る理由は限りなく少ないけれど、走らない理由はいくらでもある」ので、ともすれば、おやすみだらけになって、ろくにランニングを続けることはできない。走るからには、少しでも速く走れるようになりたいと思っているので、定期的に走り続けることが天賦の才がない凡人ランナーには必須なのだ。悪天候や少々の体調不良ぐらいでは休んではいられない。
また、やたらと数字に固執するのも特徴だ。先ほど、早く走れるようになることも目標のひとつといったが、タイムや大会に出ればやはり順位も気になる。こうして走っていれば、小さな大会だと入賞ぐらいはできるようになったりする。そうなるとその嬉しさは格別で、苦しい練習のモチベーションにもつながる。こうして、月間走行距離は200キロ以上、1キロ平均5分は維持する、週に5日は練習する、次の大会の目標は6位以内などと、何かと数字に支配されていく。目標といえば聞こえはいいが、それにこだわりすぎると、ただでさえ苦しい最中にますます息苦しさをおぼえる。
そして、睡眠のように生活の一部となっているので、それがないと酸欠のように調子が狂ってくる。走れない日が続くと、なんだかスッキリしない気持ちで、とたんに睡眠不足のように思考力が落ちる。さらにエネルギーも湧かず、何より一日中手足が冷たい。こうなると、ランニングすることがもたらすことが、恩恵なのか弊害なのかわからなくなってくる。
それでも、走り続けるのはそこに「喜び」があるからだと思っている。そして、それは人間としての根源的な生きる歓びに通じているのかもしれないとも思う。
人は4足歩行から2足歩行への進化をとげ、そこから「歩く」を経て「走る」ことを習得した。歩くことと走ることは地続きのように思えて、全く違うらしい。足が両方とも地面から離れる瞬間があるのが「走る」という動作で、歩くよりもはるかに速く遠くに行くことができる。はるか昔の狩猟民族だった時代から、食糧を求めて移動を続けてきた。そして、より強く長く生きるために「走る」ことを覚えた。そういった意味で、人は「走る」ために進化をしてきたといっても過言ではないという説もあるぐらいだ。
さらに、ランニングをすると心地よいと感じ、その虜になってしまうのには、科学的な理由もある。その代表的な作用が、脳内物質のエンドルフィンやセロトニンによるものである。エンドルフィンの特徴は、身体的な痛みの緩和で、苦しみを耐えた先に感じる快感はドラッグの効果と重なる。また、セロトニンはいわずと知れた幸せホルモンと呼ばれている物質である。セロトニンは、脳内や中枢神経で、気分と感情のコントロールを行う。これによって、怒りや攻撃性に関わる物質の過剰分泌を抑え、精神を安定させて心身にやすらぎを与えると言われている。
ドラッグが危険だと言われるのは、これらの快楽が忘れられず、常習的にこの効用を得られないと禁断症状が出てしまう。いわゆる依存状態である。この苦しいけれど、気持ちがいい、もうやめたいと思う一方で、どうしてもやめることができない、という矛盾した要素を併せ持つのが私にとってのランニングである。それでも、そこに説明しがたい生きるエネルギーを見出せるのは、進化の過程で獲得した「走る」という行為を存分に楽しみたい、というシンプルな欲求の現れなのかもしれない。それが、人間であるゆえんだと、大それたことをいうつもりはないが、そうでも言わないと、ここまでランニングに駆り立てられる気持ちへの説明が難しい。
こうして、今朝もまた、真っ暗な中10キロ走に出かけていく。今日の目標は、50分台で走ることだ。最後の1キロは4分30秒台を出さなければ。それで、次の目標のマラソン大会では出場者中の5%にはいることで、そのためにも、それまでに30キロ走を5回はこなさなければ。この冬は怪我もなく、順調に練習が積めている。
1月ともなると、6時半を回ると空も白み始める。そろそろ明るくなる頃だ。今年も良い走り初めとなりそうだ。久しぶりにエントリーしている春の大会はオフラインで無事に開催されることを願いながら夜明けを待ちつつ走り続ける。
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