メディアグランプリ

光に舞うストリップダンサーを初めて見て思ったこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:須山裕香(ライティングゼミ・集中コース)
 
 
ストリップダンサーが踊るというので、「どんなものだろう?」と下北沢に足を運んだ。
もとはと言えば、国立のカフェスタッフのMさんだ。他の店と掛け持ちで週3日だけ国立へ通い、コロナ禍でオーナーが地方の自宅から首都圏へ帰ってこないという店を、2月から守っている。私は、一人暮らしで、巣ごもりで、精神的に不安定になりがち。「何かルーティーンがあるといい」と知人に言われ、「それなら……」と毎週pupuという店に通うようになった。Mさんと話したかったから。
彼女のハンドドリップコーヒーは香豊かだ。大きめのカップにたっぷり出てくる。彼女はフィルムを使って写真を撮る。学生時代からの趣味だそうだ。そして、カフェをやっているだけあって、普通のコーヒー好きのお客に加え、一風変わった個性の強いお客さんとも知り合いだ。漫画家、絵本作家、料理人、音楽家……。
彼女のお客さんの中に、Sさんという、編集者や八百屋の店員や少年更生施設の指導員に加えてミュージシャンという肩書の初老の男性がいた。インド人のタブラ(インドの太鼓)奏者のD氏と劇的な出会いをし、ナマステ楽団というギターとタブラの2人のバンドを結成したという。彼らとコラボして踊っているのが「牧瀬さん」だった。
 
「牧瀬さんは、とにかくすごい。女性が一番美しく見えるのがストリップだと言っていて、人柄が見えるようなステージ」
何度も話を聞いたが、Mさんはそんなことを言っていた。色気を見せて男の気を引くという以上の、卓越したステージらしい。私は興味を持った。Mさんは、自分で「牧瀬さん」を撮ったモノクロの写真を見せてくれた。
細身できりっとした姿。上半身裸は、いきなりの私には刺激があるが、それ以上に、伸ばした指先まで神経が行き届いた気迫が写真に出ている。
「牧瀬さんはもともと詩人で、ストリートで詩を売るのもしていたみたい。私、牧瀬さんから借りてるカメラで撮ってるんです」
「そうそう、彼女はオーラが違う」
目を輝かせて、彼女のファンだというお客さんも話に加わった。牧瀬さんは、いったいどんな人?
 
下北沢に来るのは、半年ぶりくらいか? 真面目にステイホームを守り、出勤と近所を回る以外の外出を最近していなかったから、12月の太陽がまぶしい。
「いらっしゃいませ」
とMさんが迎えてくれて、サンドイッチとハーブティーをもらった。彼女は、今日はフードと撮影の担当。
会場は、キッチン付でフラットなフローリングの広々したスペース。普段は音楽や演劇、食事付きの集会など、多目的に使われるのだろう。
ストリップダンサーと言うから薄暗い劇場のイメージで入った私は、期待を裏切られる。こんなのもありか?客席の椅子は、円形に並べられている。一角がミュージシャンのスペース。床にタブラが置いてある。
そのうちD氏が座り、タブラがリズムを叩き出す。タン、タン、タン、と心臓の鼓動のような音。そこに、淡い黄色のゆったりしたドレスで「牧瀬さん」が素足でゆっくり現れた。広く肩が開いた衣装。そして、くるくる回り出す。ほっそり鍛えられた足。笑顔が少女のようだ。
客は3対2ぐらいの割合で男性が多かっただろうか。客には、ダンサーがいつ衣装を脱ぎ捨てるかという期待もある。私にもあった。でもその前に、牧瀬さんは熱量をたっぷり見せた。タブラ奏者に微笑み、客席の近くに来て、空気を切って軽々と泳ぐ。ターンを繰り返す足はしっかりフロアーを捉え、媚びない顔に優しさがある。
彼女が上半身の衣装を腰まで落とした時、さらに熱量が上がった。ドレスがひらひら舞う。髪に照明が当たり、きらきら光る。私、どう? そう言われているようで目が離せない。やっぱり胸を見てしまう。肩の筋肉も小振りな胸も、鍛えてきたもの。素敵だ。顔いっぱいの笑み、真剣な眼差し、口説くように目を落とす視線、表情もくるくる変わった。
いわゆる男性の期待にも応えながら、観客とコミュニケーションを取る。裸でいることも、彼女にとっては自然なことなのだと、直に伝わった。
Sさんがギター弾き語りで加わる。フォークソング。曲調が緩やかになる。Mさんのシャッター音が時々響き、それも緊張感を生む。みんな勝負している。
 
「サインください」
終演後、Mさん撮影のポストカードと牧瀬さんの詩集を買って、私は順番を待っていた。牧瀬さんは、身長150cmの私より、少し背が高いくらい。
「初めて見たんですけど、きれいで、力強くて……素敵でした。人間ってすごいなって思いました」
と、しどろもどろで言うと
「ありがとう、即興だったから夢中だったけど、時々Dさんと意思が伝わったって思うことがあるの」
と、にこにこ語ってくれた。詩集のイラストも本人、線描きの魚の絵がかわいらしかった。
 
私が見たものは、即興的に出てくる生身のダンサーの生き様。ミュージシャン2人とダンサー1が人いるだけで、照明もシンプル。それでも圧倒され、ステージが狭く見えた。
牧瀬さんはプロだから、妖艶さが主に求められる劇場では、観客の要望にたっぷり応え、ハイヒールも履くのだろう。でも、同性が見て惹きつけられるステージは、生きるパワーに溢れ、まず人を元気づける。
もっと知りたい。私も、素の私で、裸で表現できることが欲しい。Mさんがシャッターを切っている理由が、今日わかった。世の中、まだまだ知らないことばかり。
私はまた牧瀬さんを見に行くだろう。そして、Mさんのカウンターに座り
「牧瀬さんはね……」
と、喋るのだろう。その日が楽しみだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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