メイドが創りだす非日常の癒しの空間
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:亀村佳都 (ライティング・ゼミ日曜コース)
「お帰りなさいませ、お嬢さま!」
メイドカフェの扉を開けると、女の子たちが満面の笑顔で迎えてくれた。
お嬢さま! くすぐったくも、なんだか嬉しい響き。
人生で初めてお嬢さまと呼ばれただけなのに、「来たくて来たんじゃないよ。ガイドのために来たんだよ」という建前は、遠くに消えてしまった。
3年前、私は外国人観光客のガイドを始めた。「ガイドするからには、外国人が興味を持つところを知らなければ」という理由で、40代から60代の新米ガイド5人で秋葉原へ出かけた。
秋葉原は、アニメやゲームなどのオタクの聖地。世界中のアニメファンにとって憧れの場所だ。秋葉原に初めてメイドカフェができてから約20年経つという。今や街のあちこちにメイドカフェができていても、私はこれまで行ったことがなく、秋葉原そのものが馴染みのない場所だった。
秋葉原を歩いていると、道端で、フリルのついたワンピースを着た女の子からメイドカフェのチラシをもらった。勧められるままに、私たちは、灰色の雑居ビルにあるメイドカフェへ向かった。ピンクと白を基調とした店内は、大きな窓に光が差し込んでいて明るかった。
温かく迎えてもらった後で、メイドさんは、メイドカフェの利用の仕方を教えてくれた。
1時間ごとに、入場料と何か1つ、飲み物か食べ物を注文すること。
店内は撮影できるけれども、メイドの写真を撮ってはいけないこと。
希望すれば、有料でメイドと写真撮影ができること。
初心者にも分かりやすい説明で、安心した。
注文を済ませると、メイドさんが積極的に私たちに話しかけてくれた。彼女たちの名札には、出身地や趣味が書かれていたので、会話のきっかけになった。
なかでも、「出身:お月さま」という設定は面白かった。ここは夢の国なのだから、都道府県を答える必要はないだろう、と納得した。
アニメやアイドルが好きでメイドになったなどの話を聞くうちに、親近感が湧いてきた。
料理がテーブルに運ばれた。
「美味しくなるおまじないをかけますよ。ぜひ、一緒に言ってくださいね」と、メイドさん。
「もちろん」と、私たちは答えた。
「おいしくなあれ。萌え萌えキューン!」
萌え萌えキューン!!! これは、メイドカフェでの決まり文句だそうだ。私は、初めて聞いた。とても新鮮だった。
注文した品が来る度に、みんなで口を合わせておまじないを唱えた。おまじない効果か、料理は期待以上に美味しかった。
店内を見渡すと、思い思いに過ごすお客さんがいた。
静かにくつろぐ日本人男性はきっと常連だろう。漫画を読んで過ごす日本人女性もいた。若い、アジア系のカップルは、猫のカチューシャなどのグッズを買い、メイドさんと写真撮影をしていた。日本人ガイドに連れられた、10名のイギリス人観光客もいて、英語で「MOE MOE QUUUUN」と言いながら、異文化を体験していた。
思いがけず、滞在中のハイライトがやってきた。ライブコンサートが始まったのだ。メイドさんたちは、たちまちアイドルになり、歌とモノマネで客を楽しませた。私たちは、ペンライトを振って応援することで、楽しさを伝えた。
メイドカフェでの1時間は、夢のようだった。
メイドさんたちは、笑顔で私たちを迎え、客を慕い、芸を披露して楽しませてくれた。そのような交流が癒しになるとは思ってもみなかったから、店を出て、現実に戻った時は寂しかった。
それ以来、海外のお客さまには、メイドカフェを東京観光の一つに勧めている。心から楽しいと思えるものを伝えるのは気分がいい。実際、メイドカフェは「世界中を探しても、日本にしかない」とお客さまにも好評だ。
ガイドをしていると、寺社仏閣や着物、茶道などの伝統文化だけでなく、漫画やアニメ、コスプレなどの現代文化も侮れないなあ、と思う。漫画が好きで、日本を訪れる海外旅行者にたくさん出会うからだ。近年は、外務省も応援し、海外で現代文化を発信しているのも頷ける。
メイドカフェはオタクや海外の人たちのもの……。ちょっとでも胡散臭いと思ってしまっていた。でも、それは、単に私の世界が狭かっただけ。メイドのみなさん、本当にごめんなさい!
メイドカフェは、「主人」役の客を食事で、会話で、芸で楽しませてくれる非日常の世界。だけれど、メイドカフェに行けば、現実の世界として存在する。そこは、日本の文化に触れるだけでなく、心が癒され、元気が湧いてくる場所だった。おそるべし、日本文化の底力。バンザイ、メイドカフェ!
***
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