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富山湾の宝石に魅せられて

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Atsu(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
あと三つ。あ、取られた。あと二つ。
箸を伸ばし、一匹掴むとまた口に入れるのが惜しくなる。
繁々と眺めているうちに友人は最後の一匹を口に入れていた。
口内に広がる甘みは旅の醍醐味であり、一瞬で口から消える旨味は儚い。
 
コロナ禍が小休止した10月末、私は政府の政策にきっちり乗っかった。Gotoトラベルを利用し、念願の富山県へ赴いた。
読者の皆様は富山県と言ったら何を思いいたるであろうか。年配の方だと石原裕次郎出演の黒部の太陽か、若年層の方は富山市内環水公園内にある世界一綺麗なスタバだろうか。否、私はブリ、そう氷見の寒ブリ、ブリの脂の乗った腹にしか興味がなかった。
東京から富山県へのアクセスは北陸新幹線開通により飛躍的に向上した。中でも最速「かがやき」に乗れば約2時間。太平洋から日本海までうたた寝をしている間に着いてしまう。友人と富山駅に降り立つと私たちはその足で駅中の寿司屋に直行していた。
 
「寒ブリください。氷見の」
「あと地元の美味しい魚もください」
Gotoの割引券を懐に忍ばせ、威勢がいい二人。朝から何も入れていない腹もググっと鳴って、準備万端である。
「はいよ、じゃあ定番の白エビから。ブリもちょっと待っててね」
……
目の前に現れた白い軍艦巻きに視線を落とす。名には聞いたことのある富山特有の甘えびみたいなやつだ。
写真撮る? いや、ブリの前哨戦でしょう。
互いに目配せし、一口で白エビ軍艦を放り込む。その後、二人の目は刮目し、もう一度、目配せをするのであった。
 
白エビは世界でも日本にしかいない固有種だ。学問名にもPasiphaea japonica と日本の名前がついている。富山湾のほか駿河湾など太平洋側にも一部生息するが、商業漁業が成り立つほど水揚げされるのは富山湾のみだ。大きさは5,6cm程度と小ぶりで、桜エビに似た形状をしている。そして、半ば透き通ったピンク色がつやつやと輝く姿から富山湾の宝石とも言われる。
 
その後出てきた念願の寒ブリ、カワハギ、ホタルイカとどれも富山でしか味わえない極上のネタであったのだが、一日の観光を終え、私の想い人は白エビだった。口内に余韻がまだ残っている。身の柔らかさ、噛んだ時に噴き出す甘み、気が付くと消えている切れ味の良さ。
ガイドブックによると寿司、刺身以外にも唐揚げやかき揚げ、昆布締めと様々な楽しみ方があるようだ。せっかく旅行に来たのだから全て味わねばと夕食も地の物を取り扱っている居酒屋へ行くことにした。
 
ビールには白エビの唐揚げが合う。とガイドブックの謳い文句に素直に従う。
細身であるため、外側がカリカリに仕上がった夜の白エビは、ビールと交互に無限に箸が進む。何皿か注文し、酔いも進んだ頃合、友人からある問いかけを受ける。
「なあ、俺いまなんエビかな?」
「なんエビって何だよ。今は白エビ食べているだろう」
おざなりに返答すると友人は向き直って再度問いかける。
「いやだから、今日だけで何匹食べたんだろうって」
「えっ」
「俺たちみたいな観光客が来て、今日しかないってしこたま食うだろう。食って食って、獲って獲って。絶滅とかしないのかな」
齢三十になった無垢な青年の疑問に言葉が詰まる。昼から合わせると食べた数は50匹は優に超えている。確かに最近ではマグロでさえも絶滅の危機の為、漁獲規制が厳しくなっていると聞く。ましてや世界でも富山湾でしか水揚げされないこの希少種は大丈夫なのだろうか。エビ類は多産であるはずだから出産数は多いだろう。だが、生まれ、外敵から身を守り、そして人間の網目をかいくぐって、また産卵するエビたちはどれほどいるのだろう。罪悪感を抱き、箸が一瞬止まる。
「大丈夫だよ。もうすぐ禁漁になるからね、宝石とか言われてるけど、ちゃんと取る量を考えてやっているんだから。一時期漁獲量減っちゃったんだけど、また持ち直してきているよ」
店主は都会人の愚問に快活に答えた。
安心した友人は続いて白エビのかき揚げを注文する。変わり身の早さに閉口したものの、かき揚げもまた衣のサクサクさと白エビと玉ねぎの甘みの混ざり合いが丁度よい。店主の話を聞いたからか、二人とも先ほどよりもゆっくりと食べた。
 
富山湾の宝石はどこにいるのか。富山湾は沿岸から急激に深くなっており、海底には多くの谷が入り組んでいるそうだ。水深が深くなる谷の部分は海の青さが一段と濃く、藍色に見えることから「藍甕」と呼ぶそうだ。白エビはその甕の水深200メートル辺りを住処としている。甕の水をすくうように網が巻かれ、暗い海の奥深くから、きらきらとした姿を現す。水揚げ後は冷凍保存されたり、刺身用は一匹ずつ大事にむき身する。まるで鉱山から発掘したダイヤの原石を研磨するように。
 
帰りの駅構内の土産屋にはありとあらゆる白エビ商品が陳列され、私たちを困惑させた。干乾し、せんべい、チップスといった定番から白エビカレーなるものまで様々だ。白エビにとっては予想外の結末であろうが、貴重な地元資源を無駄にしない、生産者の気概を感じた。そして、この一つ一つに富山湾の宝石のかけらが散りばめられている。いただきます、してから食べないとね。
 
 
 
 
***

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2021-02-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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