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好奇心旺盛なめんどくさがり屋による、日本文化つまみ食いのススメ

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鈴木さん 好奇心

記事:鈴木彩子(ライティング・ゼミ)

 

唐揚げって、おいしいですよね。揚げたてをハフハフしながらほおばると、特に。街で唐揚げ屋さんを見つけると、つい買って帰りたくなります。なんなら、歩きながらちょっとかじったりしちゃいます。でも、子どもの頃に食べたあの日の唐揚げよりもおいしいものには、まだ出会っていません。
まだ小学校1~2年生くらいだったと思います。本とテレビアニメが大好きな子どもで、母が夕飯の支度をしている時間帯はそのどちらかに釘づけになっていました。そして読書が一段落するか、アニメがCMに入って暇を持て余すと、てくてくと台所に入っていっては食事の支度をする母の周りをうろうろしていました。
その日もたぶん、暇を持て余して台所に行ったんだと思います。揚げ油がジュワワーと泡立つ音が響き、テーブルの上には銀色のバットに入った唐揚げが、ぽたぽたと余分な油を滴らせていました。

「お腹すいた? 1個食べる?」

油の中で踊る第2陣の唐揚げの様子を気にしながら、母が私に言いました。

「いいよ、手でいっちゃっても。熱いから気をつけなね」

私は、食べやすそうな大きさと形の唐揚げをひとつ選んで、熱いかな? 持てるかな? と、おそるおそるつまみ上げ、念入りにふうふうして、ぱくりといきました。何度も作ってくれている、いつもの唐揚げです。特別なものではありません。いつも通り、おいしい。でも、本来ならきちんとお皿に盛られ、みんなで食卓について「いただきます」をしてからお箸でいただくはずの唐揚げを、バットから直接手でつまんで立ったままほおばるという、このちょっとした背徳感がなかなかのスパイスとなって、けっこうな大人になった今でも、このときのことを思い出すと、くすぐったいような、ワクワクするような、楽しい気分になります。

この「つまみ食い」というのは、何かを好きになるための入り口としてとても大切であり、有効だと思うのです。今まで長いこと飽きずに付き合ってきた趣味を振り返ってみても、面白そうなところをつまみ食いし続けていたら、いつの間にか食べたことのある面積が広くなって、気づいたらけっこう詳しくなっていた、というパターンが多かったように思います。逆に変なやる気を出して一から勉強しようとしたものほど、長続きしませんでした。

そんな私がいま一生懸命「つまみ食いポイント」を探しているのが、日本文化です。着物、年中行事、昔ながらの遊び、歌舞伎、落語、浮世絵、文学、和妻(わづま)(日本古来の手品のことです)など、いろいろと興味をそそられるのですが、ちょっと調べると、成り立ちだの、決まり事だの、何だか小難しそうな情報ばかり飛び込んでくるので、一瞬でめんどくさくなってしまいます。
例えば、着物。年末年始に浅草あたりに出かけていくと、華やかに着飾っているお嬢さん方や、粋にさらりと着こなしているご年配の方々を大勢見かけて、「素敵だなぁ。私もあんな風に着物を着て歩いてみたい!」と思います。この時点ではとてもワクワクしています。
しかし、この後が問題です。我が家のクローゼットの中には女性用の着物なんてありません。じゃあ、試しに1着買ってみようかな、と思いますが、どこに行けば手頃な着物に出会えるのかが分からなくて早速つまずきます。着物と帯以外にもそろえなきゃいけないものがあるらしいぞ、ということくらいは知っていたのでインターネットで調べてみると、まぁ、出るわ出るわ。小紋、紬、留袖、振袖、訪問着、半幅帯、名古屋帯、袋帯、丸帯、長襦袢、袷、単衣、帯揚げ、帯締め……。つまみ食いもなにも、すでに言葉だけでお腹いっぱいです。さらに検索結果一覧の端っこには、着付け教室の広告が。え? 着物って、もはや教室に通わなきゃちゃんと着られるようにならないモンなの……?
この時点で最初のワクワクはだいぶ薄れているのですが、「自分で調べるからダメなのかもしれない。プロに話を聞いたら印象が変わるかも!」という一縷の望みをかけて、街で見かけたリサイクル着物屋さんに入ってみました。しかし残念ながら、そこは初心者向けではありませんでした。いや、店員さんはきっと初心者向けに話してくれているつもりだったと思うんです。でも「初心者」の中にもきっと階層があって、こちらは「じゅばん? それ、無いとダメなヤツですか?」という知識ゼロの初心者なのに対して、店員さんが想定していたのはきっと、「着物、襦袢、半襟、帯、足袋を1セットくらいは持っている」という初心者。だから話がかみ合わなくて、その時はお互いにとって残念なひとときになってしまいました。そしてこの時点で完全にめんどくさくなって「ま、いっか」と、いったん女性用の着物への好奇心を放置することにしてしまいました。

そんな私ですが、男性用の着物と袴は、舞台衣裳として年に2~3回ほど着る機会があります。3年ほど前に殺陣師の先生に着方を教わって以来、薄れゆく記憶をどうにか繋ぎとめながら帯を結び袴をつけているのですが、年に2回とはいえ少しは着物のバリエーションを増やしたいなぁと思って、ある日、男性用の着物が豊富にそろっているというリサイクル着物屋さんに行ってみたんです。そこの店員さんが素晴らしかった!

「もちろん物によりますけど、浴衣ぐらいならザブザブ洗っちゃってますよ。クリーニングに出すとお金かかるでしょう?」
「着物が破れちゃったとき? あぁ、和装用の縫い方とかありますよねぇ。でも関係ないです。普通に縫っちゃっても分かりませんもん」
「股引? 一応取り扱ってますけど、和装用のは高いから……薄手のハーフパンツとか持ってませんか? あれで充分ですよ」

なんと柔軟で現実的な、心地のいいテキトーさでしょう! この店員さんなら、このお店なら、「着物のつまみ食い」ができるかもしれない! そして心地よくつまみ食いを重ねていくうちに、日常の一部として自然と着物を楽しめるようになるかもしれない!

日本文化に興味を持つようになってから、自分がいかに日本文化を知らないかがよく分かりました。着物を持っていない。あっても自分では着られない。おせち料理って何が入っていれば正解なんだっけ? 神社仏閣でのお参りの作法は? 歌舞伎の面白いところは? わびさびってどういう感じ? 分からないことだらけです。でも、本やインターネットを使って知識から入ろうとすると、教科書で学んでいるような味気なさを感じてしまいます。これではワクワクできません。あの唐揚げがおいしかったのは、レシピをみて材料や手順を理解した上で食べたからではなく、母の料理をする手つきや衣をまとった鶏肉が油の中へとダイブする音、香ばしいにおいなどをよく分からないなりに感じつつ、一番おいしい状態を、ルールを気にしなくてもいい自由な状況で味わったからだと思うんです。

この国のどこかに潜伏しているはずの、日本文化に興味を持ちつつ何だかめんどくさくて行動できていない同志のみなさんへ。味気ない基礎固めの時期を耐えようとするのはやめましょう。初めから高みを目指すのもやめましょう。めんどくさくなっちゃうのは、怠惰からではなく、きっちり学ぼうとしてしまう真面目さからだと思うのです。分からないものを分からないなりに楽しく遊んだっていいじゃありませんか。決まりごとを勉強するのは、それからだって遅くはありません。大切なのは面白いと感じて楽しみ続けることであり、続けていれば知識や経験は勝手に付いてくると思うのです。さぁ、いっしょに「つまみ食い」から始めてみませんか?

 

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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-01-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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