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想い出を持ち歩いて散々な目に遭ったけど、最後に神に救われた話。


岸さん 想い出

記事:岸★正龍(ライティング・ゼミ)

 

スイカ、イコカ、スゴカ、キタカ、トイカ、パスモ、ピタパ、マナカ、ハレカ、ルルカ、アイカ、 イルカ、ニモカ、パスピー、レピカ。

すべて交通系プリペイドカードの名前である。
それぞれどこで発行されているか、あなたはいくつわかるだろうか?
答えは下にある通りだが、僕は7個しかわからなかった。いやはや全国には色んなカードがあるものである。

スイカ(Suica) JR東日本
イコカ(ICOCA) JR西日本
スゴカ(SUGOCA) JR九州
キタカ(Kitaka) JR北海道
トイカ(TOICA) JR東海
パスモ(Pasmo) 関東地方
ピタパ(PiTaPa) 関西圏
マナカ(manaca) 名古屋周辺
ハレカ(Hareca) 岡山周辺
ルルカ(LuLuCa) 静岡鉄道
アイカ(ICa) 北陸鉄道
イルカ(IruCa) 高松琴平電気鉄道
ニモカ(Nimoca) 西日本鉄道
パスピー(PASPY) 広島地区
レピカ(RepiCa) 鹿児島市

この交通系プリペイドカード、一般的には自分が住んでいる場所のものを使うので、名古屋住みの僕の周りは圧倒的にマナカ使用者が多い(マナカはマイレージポイントが貯まるのでトイカより人気があるのだ)。
そんななか、僕はJR北海道のキタカを使っている。 理由は二つ。
1、ずっと続けていた一人芝居が認められて札幌に招聘されたその喜びを、いつまでも持ち歩いていたいから。
2、カードに描かれたエゾモモンガがキュートだから 。
「はぁ? 金髪髭面おやじがなに乙女チックなこといってるの?」と笑われるかもしれないが、「カードなに使ってる? おれさ、これなんだよね」といってキタカ見せる瞬間が僕にとってはかなり気持ちよく、だから生涯このキタカと共に生きていこう! なんて心密かに決めているくらいだったのだ。あの雪の日の中野駅まで……。

あなたは知っているだろうか?
プリペイドカードは壊れる、ということを。

恥ずかしながら僕は知らなかった。
財布にいくつか入れてあるカードが干渉しあっておかしくなることはあったから、プリペイドカードが完全無欠でないことは理解していた。しかし有人改札に行けばササっと調整して返してもらえたので、中野駅でカードをパネルにタッチしてなんの反応もしなかったときも、あれ? またおかしくなったか? 予約したのぞみの時間が迫ってるのになんだよ、と小さく舌打ちをしつつ、有人改札に行って調整をお願いしたのだ。
するとうら若き女性の駅員さんが、色々試してくれた後に「壊れていますね 」と。
うん、だから来てるんだろう、と思いながら「では、直してください」と言うと、
「こちらのカードはJR東日本では取り扱いがありませんので、壊れたものは直せません。JR北海道の管轄でお願いします」と。

え?
っていうか、は?
そういう仕組みなの?
壊れたカードは買った場所じゃないと直らないの?
ってことは、ちょっと待ってよ。僕は慌てて質問を繰り出した。
「まだ4000円ほど中に入ってるのですが、それを取り出すこともできないのですか? 」
「はい、埋込んであるICチップが壊れたようで、そちらは北海道でないと対応できません」

いやいやいやいや。それはないわ。北海道ってこれまでの人生で4度しか行ったことないし、この後の人生でもまったく行く予定ないし、それはないわ。っていうか、このカード昼までは使えてたし、なんの前触れもなく壊れたし、直せるのは買った場所だけって聞いてないし、住んでるの名古屋なんですけど北海道行かなくてもいい方法なんかありません? と、しつこく食い下がる僕に「申し訳ありません。こちらではどうすることもできません」と頭を下げ続ける女性駅員さん。
そのしおれた感満載の姿にはっと我に返り、いかんいかん、クレーマーになってるじゃん、おれ、と反省し、「わかりました。じゃあこれをいい機会に北海道旅行を計画します!」とポジティブに言いつつ、やはりポジ抜け(ポジティブで終わること)はいいなと思い、いつ行こうか北海道、と心を北に飛ばしながら東京へ向かう中央線に乗ってスマホを取りだし時間を確認。これから20分くらいで東京に着くから、まずはロッカー行って荷物を取り出し……って……ロッカー? ロッカー? ロッカー!!!

おいおいおいおいおいおいおいおいおい、ロッカー、どうするんだよ!
荷物を預けたロッカーはプリペイドカードをキー及び決済手段として使うタイプ。僕はキタカを使って荷物を入れたから、取り出すときにはそのキタカが必要となる。

そのキタカ壊れたじゃん。
ヤバいだろヤバいだろヤバいだろヤバいだろヤバいだろヤバいだヤバいだろ、これ!
キタカ壊れたから荷物出せないじゃん。どうするんだよ。なんとかなるのか? 今日出せるのか? もし今日出せなかったら明日まで待つのか? 待つっていってもホテル取ってないし明日は朝から予定詰まってるけどどうすんだ? じゃあ帰るのか? いや帰るのはいいけど荷物は? 誰かに出すのをお願いする? いや普通に考えて無理だ。というか、なんとか出すことを考えよう。無事に出ることだけをポジティブに考えよう、ポジティブに、ポジティブに、ポジティブに……と、ぶつぶつ唱えているうちに東京駅到着。荷物を入れたロッカーに走っていき、奇跡的に開くことを祈りながら、キタカを使用……サイレント。反応なし。
うん、そりゃそうだよな、大丈夫、ここに神がいないことは、まぁ想定通り。さてここからだ、と周りを見渡すと鼻先に手荷物預かり所がある。あそこだ、きっと神はあそこにいるはずだ。僕は、荷物を受取りにきた人々がエサを投げこまれた鯉のように群がっている受付を避け、傍に立っていた60歳くらいの男性に近寄り、切々と事情を訴えた。
「〜というわけなんですが、荷物どうしたら出せますか? これから名古屋に帰るんで出せないと困るんです」
熱だ。とにかくこういうときは熱だ。熱を持ってしゃべるんだ!
「あ~管轄が違うんでわかりません 」
けれどその男性は武の達人の如く僕の切迫感を受け流す。
「なんとかなりませんか? もしここじゃダメならどこに言えばいいか教えてください」
負けちゃダメだ。踏み込め、打て。僕は熱く踏み込み、打った。
するとはじめて男性は僕に視線を移し、眉根に皺を寄せてこう言った。
「あ~じゃあここに電話して」
よしやった。この人は僕の神ではなかったけれど、教えてくれた番号に電話すればきっと神に会うことができる。男性にお礼を言い、スマホをとり出し、荷物を受取った体重重めの年配女性から「こんなところで電話しないでよ」と叱責を受けながら、男性が指し示したロッカー脇の看板のとても小さな文字で書かれた番号に電話した。

コール

3回……
5回……
全然でない。
手がいっぱいなのか。

10回……
15回……
もうみんな帰ったとか?
ひょっとして土曜休みとか?

20回……
21回……
だったらどうしよう。
それは困る。

22回
ガチャ
(うぁお! つながったぜ!)

「はい」
「あ、すいません、実は~(熱を込めて事情説明)」
「これ、9階にかかってるんですよね」
「はい?」
「9階にかかっているからよく分からないんですよ」
「電話番号 03-xxxx-xxxx ですよね?」
「そうです」
「ロッカーの困りごとはここに電話しろって言われたんですが」
「う~ん、けれど、9階ではわからないんですよ」
「じゃあどこに電話したらいいですか?」
「ちょっとこちらではわかりません」

え?
っていうか、は?
全然神じゃない。神じゃないどころかごく普通の会話すら成り立たない。どこに聞いたらいいか食い下がる僕に「9階なので」をリピートする相手。そうこうしているうちに予約したのぞみ発車の時間が近づいてきたので、とにもかくにも予約変更をするべく一旦電話を切りスマホを操作。最悪を考えて次の日に予約を変えた後、再び先ほどの番号に電話した。

コール

1回 ……
5回 ……
10回 ……
15回 ……
20回 ……
25回 ……
30回 ……

もう誰もでてくれなかった……

負けたのだ。僕はこの戦いに負けたのだ。
神はいなかった。もう為す術がない。どうしたらいいのか、すべては明日なのか、明日同じ番号に電話したとき9階以外の場所につながる幸運を待つしかないのか、しかし明日は日曜日だ、また9階につながるんじゃないのか、だったら今日帰った方がいいのでは? けど荷物どうする? いや、どうするっていうか、あああああああああああああああああ、ク○ったれ!
あああああああああああああああああ、いかんいかん、そんな言葉を使ったらいかん。ポジ抜けを考えるんだ。そのためには一旦落ち着くことだ。そうだ、トイレに行こう、トイレ行って出すもの出して落ち着こう、と向かったその途中で。
ついに、僕は、会ったのである、僕の神に。

神の名は、ステーションコンシェルジュ東京。
向かったトイレの前にあったそのデスクに、すらりと座った女性コンシェルジュ。
もうあなたしかいません、助けてください、との悲痛な願いを全面に押し出してすがりついた僕に「ではロッカー部に連絡しますね 」と優しくひとこと。すぐに電話をかけてくれ「対応に参りますので、お客さまの荷物のロッカー前でお待ちください」と。その間、実に1分未満。
神だ。いままでの○ソ対応とは真逆だ。これを神と言わずになんと言おう。僕は心から感謝をし、言われた通りロッカーの前で待ち、ほどなく係の人がやってきて、あれこれ手続きはあったけど無事に荷物を手にすることができたのだ。

普通に祝杯でしょ、これ。
荷物と共に乗り込んだのぞみの中で、相当にご機嫌でハイボールを飲んだ。小田原までに一本、静岡で二本目がなくなり、最後の三本目に移ったときだ。キタ━━━(゚∀゚)━━━!!! のだ。天啓のように。神託のように。そうかこれがギャップか! と。三浦さんがライティングゼミで話していた文章を読ませる力としてのギャップの正体はこれか! と、納得がオラクルのように降ってきたのだ。
今回の騒動の場合、最初にステーションコンシェルジュを見つけていたら、ここまで感動しなかっただろう。いや、だろうじゃない、確信を持ってしなかったと言い切れる。ギャップなのだ。その前の対応とのギャップがとてつもなく大きかったから、僕は三本もハイボールを飲むまで気分良くなったのだ。
そうかこれがギャップか! 頭では理解していたつもりだが身体でわかるってのはスゴイな。腹への落ち方がまったく違う。そうかこれがギャップか! よしよしよし、このつかんだギャップ感覚を文章に活かしていこう。いつか僕の文章でハイボール三本いってくれる人があらわれることを目標に!

という意味においても、ステーションコンシェルジュのお姉さんには感謝だな。うん、次に東京に行くときには名古屋名物の「なごやん」を差し入れよう。いや、ギャップを狙うなら、浜松名物の「うなぎパイ」はどうだろう、いや、名古屋と浜松近いしそんなの甘いな、「マカダミアナッツチョコレート」くらいは狙わないとな。いや、それは離れ過ぎか、いや、けれど……と頭フル回転で三本目のハイボールをハイピッチで消化したという事実にはあまりにもギャップがないからオチにならないし、その意味では東京駅恐るべしコンテンツ力だな、という意味においても、ステーションコンシェルジュのお姉さんには感謝だな。うん、次に……(以下、無限ループ)

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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2016-02-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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