「トラウマ」から回復するための3つのステップ
*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:佐藤謙介(リーディング・ライティング講座)
「赤ずきんちゃん」
皆さんも一度以上はこの話しを聞いたことがあるのではないだろうか。
ただストーリーを覚えているかというと、うろ覚えなところが多い。実際私も今回この本を手にするまですっかり内容を忘れていた。
簡単なあらすじは「赤ずきんちゃんはおばあちゃんのお見舞いに行った際に、森で出会った悪いオオカミに行き先を教えてしまう。そして先回りしてお婆ちゃんを一飲みにしたオオカミに自分も食べられそうになるところを、間一髪、猟師さんに助けてもらい難を逃れた」というお話しだ。
これ童話ではあるが、自分がオオカミに一飲みにされそうになる体験をしたら、相当ショックを受けるはずだ。人は強いショックを受けると何年たっても忘れることができないほど強烈に精神を傷つけてしまうことがある。
このような過去に受けた強いストレスのことを「トラウマ」という。
今では通常の会話の中でも軽いストレスがかかったときに「トラウマになりそう」と使ったりするくらい一般的に使われるようになっている。
しかし、本来は戦争に参加して自分の命の危険を感じたり、自分が人を殺してしまったことに対して強い罪悪感を持った兵隊、そして性的暴行などを受けた被害者など、強烈なストレスを受けた人に対して使う言葉である。
そしてこういった一次的に強いストレスが加わった人だけでなく、近年では幼少期からのDVやネグレクト(育児放棄)、長期間にわたるいじめなどでもトラウマになることが明らかになっている。
このようにトラウマを受け、何年たってもその状況をことあるごとに思い出してしまう「フラッシュバック」を起こしたり、自分のことを大事にすることができなくなったり、人格が変わり周囲に攻撃的な態度をとってしまい、自分ではどうすることもできない状態になってしまった人をPTSD(心的外傷ストレス障害)という。
そしてトラウマやPTSDは決して自分には関係ないという話しではない。東日本大震災や阪神淡路大震災、熊本大地震のように誰もが大災害に見舞われるトラウマを抱えるケースは十分にあり得る。
つまり自分がトラウマとなるような強いストレスを受けたときに、どうしたら自分の心身の状態を本来の姿に戻すことができるかは、もしかしたら全ての人が知っておくべき自己防衛策なのかもしれない。
そんなときにまず読んでほしいのが、今回紹介する「トラウマ・ケア ~自分を愛する力を取り戻す心理教育の本~」である。
この本は「赤ずきんちゃんがもしその後、PTSDになっていたら」という設定から、スタートする。
オオカミに最愛のお婆ちゃんの命を奪われ(童話の中ではその後助かっているが)、自分の命まで奪われかけた彼女が抱えた心の傷は想像するだけで、大変なストレスだったはずだ。この本では赤ずきんちゃんがPTSDになり、そこから回復していくためのステップを解説している。
最も大事な点は3つ。
1. トラウマとは何かという正しい知識を知ること
2. 自分で対処することができるセルフケアの方法を学ぶこと
3. よりよい生き方をするためのソーシャルスキルを身につけること
このステップを踏むことがとても大事になるのだ。
この内容について、著者は非常に分かりやすく物語形式で解説してくれている。
そしてこの本でさらに興味深いのは、対象者が赤ずきんちゃんだけではないということだ。
実はもう一人の登場人物である「オオカミ」にもフォーカスを当てていることが大変興味深い。
なぜオオカミは人を襲うという行動に出てしまったのか?
実はオオカミも本来はそんなタイプではなかったのではないか?
もしかしたら彼にもトラウマがあるのではないか?
そうなのだ、実はこの本が秀逸なのは、被害者と加害者の両方に着目している点なのだ。
現実の世界で考えれば、オオカミは犯罪者である可能性が極めて高い。
しかし、著者はこう言っている。
「トラウマを抱えた人は被害者にも加害者にもなりうる」と。
もちろん、罪を犯したことに、同情の余地はないかもしれない。
しかし、なぜ罪を犯すような人間になってしまったのかを知ることは、私たちが生きていくうえでも知っておくべき重要なテーマだ。
この本はわずか150ページ足らずで、しかも童話をモチーフにしているため、気軽に手にすることができる。しかし中身は人がトラウマを抱えたときに、どうしたら立ち直ることができるのか、どんなサポートが必要なのか、そして周りでサポートする人たちも被害者の辛い体験から影響を受けて二次被害を受ける可能性があることなど、トラウマに対して多面的にアプローチしている。
最後に、著者は東日本大震災のあと、被災地の方々のトラウマ・ケアに従事された現役の医師である。その深い知見は一読の価値があると私は感じている。
そして自分や周りの人がトラウマを抱えたときにどう対処すべきか、ぜひ一度手に取って読んでいただきたい。
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