メディアグランプリ

隣人は知らない方がいい《ユキヒラの覚書》


ユキヒラさん 隣人

記事:ユキヒラ(ライティング・ゼミ)

 

初めての体験だった。

朝礼まで10数分。大丈夫。

そう思い、トイレに立った。

道中、先輩の背中が見えた。どうやら先輩もトイレらしい。

何気なしにあるいていくと、トイレの直前で追いついた。

先輩に続いてトイレに入る。

正面にある扉二つ。

その片方に、先輩は颯爽と入っていった。

扉が閉まる。

 

僕は、踵を返し、トイレを出た。

 

想像してしまった。

隣に座る先輩を。

先輩と二人並んで便器に座る自分自身を。

知らなければいい世界がここにはあった。
世の中には「知らぬが仏」という言葉もある。
知らないからこそ惹かれる世界がある。

「本」もそうだろう。

この先に、何が書かれ、それを自分がどう感じるかわからない。

だから、面白い。
人は、安定を求めるわりに、不安定さに酔いしれる。
それは、相対するものではなくて、根底的な安定に基づくが故に、不安定を楽しめるのであろう。
1歳の子は、人見知りをする。

初めての場所に行くと、お母さんにぴったりついて離れない。

しかし、30分もすると、空気に慣れるのか徐々に離れていく。

最後には、一人で勝手に遊んでいる。

安定という安心感がある故に、冒険と言う不安定に乗り出せる。
僕が天狼院書店を知ったのは、インターネットを通してだった。

Facebookを通してだっただろうか、それも定かではない。

イベントに参加するのが楽しくなり、B&Bや6次元に顔を出した。

その中で、天狼院書店を知った。

劇団天狼院には、一度、参加ボタンを押した。

たまたま前日に用事が入り、キャンセルをした。

僕の不安が、行かせないようにしたような気がする。
直接の関わりを持ったのは、糸井重里秘本だった。

三浦店主の文章を読み強く惹きつけられた。

しかし、躊躇した。
本は、何が書かれているか分からないから面白い、と言った。

しかし、本は前提としてタイトルがわかっている。

誰が書いたのかも分かっている。

帯のコピーで内容も想像できる。

そこに安定がある。

 

Facebookで紹介された糸井重里秘本は、飛ぶように売れた。

その情報を知って、初めて僕は購入ボタンを押した。

今思うと、情けない。

臆病だ。

それくらい僕には、先に安定が必要だった。
糸井重里秘本は、抜群に面白かった。

不器用な自分に勇気を与えてくれるものだった。
次に出された5代目天狼院秘本は、瞬時に買った。

秘本への安心感。

あの天狼院が推すのだ。
絶対に損は無い。

あの三浦店主が推すのだ。
面白いに決まってる。

思い込みの激しい僕は、信じるのも早い。

損はしなかった。

むしろ、本の面白さだけにこの秘本は終わらなかった。

舞台として演じてしまった。

生では観られなかったけれど、上映会で満喫させてもらった。

出演者とも話してしまった。

ミーハーな僕は、すぐに酔う。
世には知らないほうがいいことがたくさんあるだろう。

しかし、知らなければ味わえない世界もまた広いのだ。

トイレの隣人は知らない方がいいけれど。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-02-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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