IT新世界と3人の旅人たち
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:濱田 英樹(ライティング・ゼミ日曜コース)
2021年1月某日。
会社でEC販売を担当している私は、ECショッピングモールを運営するR社の新春カンファレンスにオンラインで参加しました。このイベントは毎年恒例で、R社の現状と今後の展望について、およそ6時間、様々な話を聞くことができます。私や他のECサイト運営者もそうだと思いますが、EC店舗の運営を今後どのようにしていくかを確認・検討する重要なイベントです。
例年は有名ホテルを会場として行うのですが、今回はコロナ禍という事もあり、完全にオンラインでのイベントとなりました。
話を聞きながら、R社の全体の売上や動きに対して自店舗の売上の伸び率や、傾向、今後の市場のポテンシャル等、運営に直結した情報を自分なりにかみ砕いていきます。
出店5年目にして、おおよその売上傾向はつかめたと思っていましたが、コロナ禍の影響で、ECの分野は売上が唐突に上がり始めました。しかしその伸び率は全く不安定で、商品の生産体制やサプライヤーからの仕入体制も落ち着かせることができませんでした。
販売が伸びる事はありがたい事ですが、私の会社が生産している商品は主に自宅で利用する植物です。計画・生産してから、出来上がるまでに半年から1年かかるため、工業製品のように工場の稼働時間を延長して即増産というわけにはいきません。
一時的に売り上げがあがったとしても、在庫が無ければいずれ販売できなくなります。そうなれば折角欲しいと思ってくれたお客様に、かえって迷惑をかけてしまう事になり、実際のところ、手放しでは喜べない状況が現在も続いています。
正直、先行きの不透明さがぬぐえず、気分的にはむしろ沈み込んでいました。
これが当社にとって一時的なもので終わるのか、継続的に発展するものなのか、またそのボリュームはどうなのか、全く計り知れませんでした。
PCの画面を見ながら、今後の運営をどう計画していくべきかと思案を巡らせていると、ある一人の男性がスピーチを始めました。
このカンファレンスでは、R社のCEOをはじめ、各部門の関係者が今後の展望を発表するのですが、その後にいつも数名のゲストがスピーチを行います。
その男性のスピーチの中で、私には気になる言葉がありました。
それは、計画主義と学習主義です。
簡単に言ってしまうと、
計画主義とは、過去の経験に基づくもので、古いものである。
学習主義とは、過去に経験が無いもので、新しいものである。
つまり、ITを中心に起きている様々な事は、過去にだれも経験したことが無く、販売を計画するなんてそもそもできないという事です。
販売計画はできませんが、ITの可能性は誰もが感じるところでしょう。
その可能性を信じるならば、最低限の行動計画のもと、できる事はその現象をとらえて学習し、そこから得た仮説を試し、検証を繰り返すことで未来は開ける。
とても腑に落ちるスピーチでした。
と同時に、私はふと遠い昔に同じような…… まるでデジャヴの様な感覚を覚えました。
カンファレンスが終了してから、その感覚は時間を追うごとに強くなりました。私はだんだんとそれが気になって、気が散ってしょうがなくなってきました。
思い出せそうで思い出せないけど、誰かに聞きたくても聞きようがない。
そんなもやもやした気持を引きずり、何だったろうかと、事あるごとに記憶をたどって10日程経った、ある夜の事でした。
私は子供を寝た後に、プレイマットの上に散らかる絵本を書棚に片付けていました。
すると、その時に記憶の断片がどこからともなく、ふっと頭の中に降りてきました。それは、
1)旅人が出てきた
2)列車が出てきた
3)小学校の国語の教科書で読んだ気がする
これだと思った私は、忘れないうちに早速手元のスマートフォンで、「旅人」「列車」「国語の教科書」を検索しました。すると現れたのは、
ジョーン・エイキン作「しずくの首飾り」
でした。ネットに掲載されたレビューを読んでみました。本の名前はしずくの首飾りですがこれは短編集で、この本の中に「三人の旅人たち」という物語が掲載されているのです。記事を見た私は、この本が探していたものだと確信し、すぐに購入しました。
本は翌日にはポストに届きました。夜、職場から帰宅をすると、私は夕食もとらずに封を開け、本を開き、その短編のページを目次から追い、早速読み始めました。
3人の旅人たちは、わずか15ページほどの短編です。
昔の国語の教科書に載っていたものなので、知っている方もいるかもしれません。
砂漠の駅舎に努める3人の駅員さんが、思い思いに旅をする話で、読んでしまえばわずか10分足らずです。
しかしそれは少なくとも私にとって、2時間の映画を見るほどに濃厚な時間に思えました。読み終わった瞬間に私の頭の中のもやもやが、一瞬の内に勢いよく吹っ飛んだ気がしました。
誰も見たことが無い景色を見に行く。
誰も行ったことのない道を進む果てに恵みを見つけ、みんなが豊かになる……。
私は思いました。誰も聞いたことが無いところに行くんだ。結果なんて予想できるわけがない。
思いがけないトラブルやハプニングなんてあって当たり前。これをネガティブではなくポジティブに捉えて、先ず進むのです。最低限の計画で、あとは現場合わせ、学習主義で考えていくしかないのです。
私は、やっぱりそっくりだと思ったのです。
ITの世界も旅だ! 冒険だ!
この本に触れることで、当時の童心を思い出し、また童心に帰ってワクワクして仕事に打ち込めそうな、そんな明るい気持ちになれました。
この話をしてくれたゲストの人の名は、ピョートル フェリクス・グジバチさん。
グーグルをはじめ、世界的な大企業を渡り歩き人材開発を行ってきた人物です。
そして今、パソコンを打っている私の傍らには、彼が書いた、
「ニューエリート」という本があります。
この本の帯にはこう書かれています。
「楽しんで仕事したものが勝ち」の世界がやってくる。と。
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