メディアグランプリ

美しい日本を知らない、あいまいな日本の私たち ~文化を知ることで世界は平和になる~


たにこにーさん 美しい

 

記事:たにこにー(ライティング・ゼミ)

 

「トンネルの抜けるとそこは雪国だった」
川端康成の『雪国』の冒頭です。シンプルな文章にも関わらず、雪化粧された風景が頭脳の中で広がる、名文だと思います。川端康成は日本人で初めて、ノーベル文学賞を受賞し、素晴らしいスピーチ残しています。残念ながら、あまり知られていないのですが。

「美しい日本の私」
彼がストックホルムのスウェーデン・アカデミーで講演した題名です。川端は道元、西行、良寛などの和歌や詩歌を引用し、日本のもつ伝統美や日本人の持つ美意識、そして無常観を見事にスピーチしました。(そのスピーチを通訳したサイデンステッカーの苦心は有名な話です)
川端は日本人が持つ独特の感覚を如何にして知ってもらうか、そして、『西洋文化』を意識した上で『日本文化』とはどのようなものなのかを明快に語りました。それは今まで存在し得ない、日本人による世界人のための日本論であると断言できます。
(無論、賛否両論があり大江健三郎は自身のノーベル賞受賞スピーチで「あいまいな日本の私」という題で川端が解く日本文化の独自性を「あいまい」という言葉でシニカルに説明していました)
先月末、私は縁あって、台湾を訪問しました。目的は調査。調査内容は日本のコンテンツがどのくらい台湾の人々に受け入れられているか、というものでした。
日本のコンテンツといっても多種多様です。フランスで開催される『ジャパン・エキスポ』では茶道・華道・弓道、そしてネイルまで!紹介しています。日本見本市です。無論、そこにはマンガ・アニメ・ゲームを外すことはできません。

 

台湾は親日国として、多くの日本人から理解をされていますが、どのようなレベル(アスペクト)で彼らは日本文化を受け入れているのか、それは意外に知られていないと思います。それを知ることが調査目的でした。

イベントでは、日本からやってきた人や日本文化を愛好する人がたくさん集まっていました。2日間開催のイベントで約8万人というのが主催者の発表です。台湾の次期総統が視察に訪れるなど、注目の高さを伺えるイベントでした。

私は会場内の写真を撮りながら、時にインタビューをしながら歩いていたのですが、印象的な光景があったのでご紹介したいと思います。

会場内は熱気が溢れ、ちょっと疲れてしまった私は、外の空気を吸おうと外に出て、広場で休んでいました。隣には日本で開発されたゲームのコスプレをした女性が写真撮影に応えるように様々なポーズを取っていました。
日本人と台湾人は外見が似ているので、彼女が日本人なのか台湾人なのかは見当はつかなかったのですが、撮影者の列は絶えることがなく、人気のコスプレイヤーさんなのかな、と興味半分に見ていました。

すると、突然彼女に集まってきた女性三人。
片言の日本語で「ファンです。写真一緒に撮ってください」とコスプレイヤーの彼女に話しかけています。恥ずかしそうにしながら、でも目はキラキラさせて、彼女をじっと見つめています。

彼女は流暢な日本語で「も、もちろん! 一緒に撮りましょう」と答え、
彼女たち一人ひとりと携帯電話を片手に自撮。

それをきっかけにただ写真を撮っていた人たちの雰囲気が変わります。
一生懸命日本語で声を掛けて、一緒に写真を求める人たちが集まってきたのです。
そのときのコスプレイヤーとファンと思わしき子達の無邪気な笑顔は印象的で、微笑ましく、そして国際交流とはこういう草の根のような「笑顔の通じ合い」から始まるのだとも思っていました。

彼女は日本からやってきたコスプレイヤーで、友人と一緒に台湾のイベントに参加した、と言っていました。そして、たくさんの台湾の人に話しかけられて、写真を求められて、「嬉しくて、ありがたくて、とても楽しかった」と言っていました。

日本のマンガ・アニメ・ゲームのキャラクターにコスプレした台湾の男女が彼女に寄ってきて、一緒に写真を撮ったり、名刺を交換したり。

「カッコいいです」
「素敵です」
「あなたに会えてよかった」

台湾の子達から彼女に届けられる言葉は、たくさんの「愛」で詰まっていたように思えます。(いつまで観察しているのだ、って話ですが)
日本からやってきた彼女は衣装を着て、ウィッグ(かつらのようなもの)を着け、化粧もしっかりキャラクターに合わせて、台湾の人の要望に合わせてポージングを繰り返しながらも、話しかけてくれた台湾人の来場者に笑顔で応えていました。

ちなみに彼女は中国語が話せません。
時折、言葉が通じなくて困っているときがありましたが、ジェスチャーで台湾の子達と一生懸命コミュニケーションを取っていました。

私はそのとき、彼女を見て、川端康成に想いを馳せました。

「美しい日本の私」

還元すると、「日本が誇る文化を表現する日本人コスプレイヤー」でした。
コスプレは今でこそ、芸能人や文化人が積極的に行い、ハロウィンでは12人のセーラームーンが現れるなど、一般に受け入れられていますが、初めはネガティブでセクシャルなコンテンツとして扱われていました。(セーラー服やメイドコスは有名だと思います)

しかし、現在は日本コンテンツを伝える一つのコミュニケーションツールとして機能し、実際に台湾でその機能が存分に発揮されているのです。

「日本が誇る文化を表現する日本人コスプレイヤー」を見て思ったことがあります。
日本文化がたくさんの外国人に愛されているということを日本人は「正しく」知らないのではないのだろうか?ということです。一般的に「寿司」・「相撲」・「着物」が世界に知られる日本文化だと思われがちですが、日本の文化はそれだけに留まらず、「マンガ・アニメ・ゲーム」、「kawaii(かわいい)」・「アイドル」も世界の人々から熱視線を送られている事実をあまり知らないのではないでしょうか?

外国の人々は、日本の「マンガ」を見て、クリエイターを目指し、「kawaii」を知って、ロシア人がゴスロリ衣装を身にまとったりしています。(ゴスロリ・・・ゴシック・アンド・ロリータのことです。本来異なるゴシックとロリータの要素を結びつけた日本独自のファッションスタイルを指します。ロシア人が着ていたゴシック服装を日本人が再解釈してロリータと掛け合わせて独自の文化に発展させたものが、半ば逆輸入されてロシア人に受け入れられているのです)

「美しい日本の私」
台湾に単身乗り込んだ私は、美しい日本の文化を台湾人から教えてもらったのです。私たちは「誇るべき日本文化」と標榜していますが、いったい何が「誇るべき日本文化」なのかを改めて考えなければなりません。
それと同時に、「誇るべき日本文化」が国外のどんな人たちにどのような形で受け入れられ、レスポンスがあるのかを知る必要があるのではないかと痛切に感じたのです。

そして、私たちは文化を通じて、他国と交流し、関係性を高めていけるにも関わらず、その「自国文化」の活用を知らず、結局何もできていない人が多数であることを認識しなければなりません。

「美しい日本の私」であることを忘却し、「あいまいな日本の私」になっている。大江健三郎の指摘は正にその通りで、その時代に行われたのスピーチ以来、日本人は文化立脚したグローバルなコミュニケーションを取れていないということが台湾で思い知らされたのです。

私たちは「美しい国の私」として、自国の文化を発信し、他国がどのように受け入れているかを理解し、コミュニケーションを取り、将来的にコラボレーションを実現して、文化外交を通じた文化的平穏の構築を考えていかなければなりません。

その前に、まず、私たちは「日本文化」を知ると同時に、国外へ旅してみないといけませんね。実際に行かないと分からないことがたくさんあるのだから。

最後に、2月6日、台湾高雄で発生した地震にお見舞いを申し上げると共に、日本文化を愛好する仲間たちの安全を祈念しています。

 

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2016-02-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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