不思議な図書館に迷い込んだら、蛾のおっさんに出会ってしまった!
記事:Mizuho Yamamotoさま(ライティング・ゼミ)
その図書館は、4階建ての立派な建築物だった。
外観はくじらをイメージした海辺の町の図書館だった。
繁華街の近くのほぼ町の中心に位置するので、町民が利用しやすい立地で、日本がまだお金持ちだった時期に、思い切りよく出費した建築物だった。
クジラのおなかをイメージした駐車場の天井は、2階建てバスが駐車できるほど高く、10万人の町民に、10台分の駐車スペース。
ここに車を置いて買い物に行く不届き物の町民がいたら困ると、見張りの番人を雇ったほどだ。
正面玄関を入ると大理石のカウンターがお客様をお迎えする。
開館当時はここに案内嬢がいたのだが、さすがにこのご時世、カウンターの上のチラシをご自由にお持ちくださいでお茶を濁している。
赤いじゅうたんに誘われて、中2階に上ると地元出身の作家の展示コーナー。年表を見ながら作家愛用の品々に、思いを馳せる。
ん??? 作家Aの顔写真の下には、作家Bの愛用品が展示されていて、作家Bの顔写真の下には作家Cの生原稿が……。
かなりこんがらがるが、奇をてらった展示なのだと思うことにする。
さて、中2階から半分だけ上がって2階に行きたい。
でも、階段がない。
中2階からわざわざエレベーターを使って2階に上ろうとする人は、100人中果たして何人いるだろう?
でも2階に行きたい。
なぜなら、図書館に来たはずなのに、まだ1冊も本にお目にかからないのだ。
中2階のエレベーターを見ながら自力で2階に上る方法を考える。
あった! ドアが。
防火扉と書いてあるが、開けると階段があるとも書いてある。
重い防火扉を開けると、そこには階段が!
うれしい!
そのまま階段を半階分上り、またもや防火扉を開けると、右に児童室、左に一般室の表示。
やっと、本に出合えたのだった!
工夫一杯の児童室、ちょっと狭いが一般室とその奥に郷土資料室。なかなか、充実の郷土資料。
すばらしいが、人目につかないところにひっそりとあるのが残念。
町民は、何の抵抗もなく防火扉から出たり入ったり。
思わず真似してしまう。老若男女、普通に出入りしている。
エレベーターも使っているが、階段派もかなり見かける。
しかし、ヘンじゃないか?
重い防火扉を開けての出入りというのは。
4階建ての図書館なので、3階にも行ってみた。
本がない。
講座室と書かれた部屋では、半円形の座席に勉強中の人々が、同じ方向を向いて座っている。講座室で講座が開かれたことはほぼないと聞いてまたびっくり。
もう1部屋、鍵のかかった視聴覚室があった。
毎週水・金の映画上映会以外は開かずの間らしい。もったいない気がする。
さてまた防火扉を開けて階段を上り4階へ。
10万町民に対して、使える会議室はなんと10人収容の1室のみ。それはないよなぁ。
ボランティアの活動や市民の会合は、図書館のどこで行う?
そうか、やらなきゃいいんだ。
後のスペースは事務室と館長室、移動図書館車の駐車場と書庫、ん、4階に駐車場?
扉の向こうを見ると、な~んだぁ4階に職員駐車場もある。すぐ上に道路が……。
つまりここは傾斜地に建っているので、4階が道路に面しているのだった。
職員が、毎朝、夕の出勤時に通ることのない正面玄関。内部の者は気づかないわけだ。
1階ごとに重い防火扉を開けて、本を借り、返す町民の様子。何とも不思議な図書館だ。
やっぱり気になる中2階に、もう一度降りてみた。結構有名な作家を輩出している町だと
感心しながら、再度展示を見る。
ん?
んん?
んんん?
さっきと順番が違うような・・・
作家名と展示品がますます離れているような。
ぼ~っと佇んでいたら、ガラスケースの中で
何かが動いた。
「けけっ」
「けけけっ」
笑い声が聞こえる。
目を凝らしてみると、何かが飛んでいる。
全身白タイツを着て茶色い羽の生えた虫。
「なははは、蛾のおっさんなのだ」
「図書館の人目につかない場所に住み着いて、ちょっといたずらしてみても誰も気づいてくれなくて、むなしい人生」
「わしの展示物のいたずらに、気づいてくれたあんたは、見込みがある! 」
「えっ!? 蛾のおっさんに見込まれてもなぁ」
「わしと共に、全国の図書館巡りをせぬか?」
「そらぁ、暇だけど、旅費や宿泊費かかるし」
「なははは、日本全国の図書館の棚の裏っ側に、わしらの通るモスドアがあるのだ! 」
「あの青いネコが使っているどこかにドア?みたいなもんじゃ」
「ドラえもんのどこでもドアね」
何だか面白くなってきた。
しかし、蛾のおっさんは通れても私は果たしてそのドアを通れるのだろうか?
ふと気づくと、蛾のおっさんと目線の高さが同じになっている。
あらら、完全にこびとになってしまった私。
まぁ、人生には不思議なことがあるものだと思うことにして、このおっさんについて行くことにしよう。
「図書館巡り」とおっさんは言うけれど、「美術館」「博物館」なら展示品が違っていて見る価値あると思う。
しかし、「図書館」ってどこも同じ本が並べてあって、読む場所があって、勉強する場所があって……
たいして変わらないんじゃないかなぁ?
私の心を見透かしたように、蛾のおっさんが笑う。
「それが、変わるんだなぁ。居心地の良さやサービス、置いてある本に違いがあるのさ。
それを知ると知らないとでは、人生が大いに違って来る」
「あんまり気乗りしないけれど……」
「まぁ、一緒に行ってみようではないか。だまされたと思って」
だまされてばかりの私のドンマイ人生。こうなったら、だまされついでだと腹をくくる。
蛾のおっさんとの、図書館の旅の始まり。
たかが図書館、されど図書館。
***
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