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眼福! 観る「エロティシズム」は夜空の星 ~流れてはまた瞬く~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:月之 まゆみ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
客先の打合わせが長引きやっと昼食にと入ったのが大阪の老舗百貨店にある美々卯だ。
平日の午後3時半。
席に案内され、隣りに居合わせた同じ年ごろの女性と一瞬、目が合った。
こんな遅い時間に昼食をとることがないので、注文のあと興味ぶかく店内を見渡すと、
買い物帰りの客が紙袋を脇に、ぽつりぽつりと食事をとっていた。
 
そこで目を引いたのが、隣にいた折り目正しい老人とその娘の会話だ。
昼膳の定食のうどんの湯気にむせる老人に、娘は人目もかまわず問いかける。
「お父さん、ちゃんと温かいもの食べてる?」
「ん?」
「毎日、温かい食事をしてますかと聞いてます」
口ごもる老人。どうらや一人暮らしらしい。
「出来合いのお弁当ばっかり食べてないで、味噌汁くらいつくって飲んでくださいね。
それで先生のいうこと聞いてお薬、ちゃんと飲んでますか?」
「……なんや、あんなやつ!今度、会うたら蹴っ飛ばしてやる 」
急に眼をむいて怒り出す老人に娘はたたみかける。
「お父さん、先生を蹴っ飛ばされへんよ。主治医やからな」
 
強い語調と小さくむせる声が店内にひびく。まるで家にいるようにふるまう二人。
こんもりと揚がった天ぷらは少しも箸がつけられていない。
 
運ばれてきた定食に箸をつけながら、二人から目が離せず耳をそばだてる。
主治医を目の敵にする話のくだりから亡くなった父を思い出し興味がわいたからだ。
 
目から鼻に抜ける会話のリズムからどうやら娘に主導権があるようだった。
今度は娘が大目にみる番だ。
 
「お父さん、今日はええもん見させてもろたね」
「……」
「さっき、観に行きましたやん。キレイやったね。目を洗われる思いとはああいうこと
言うのかな」
「フン」
とぼける老人。
「東洋ショーのことや、お父さん。去年も行きましたやん」
 
二人の会話にピンと来て、さりげなく「トーヨーショー」でググってみる。
検索結果で東洋ショーが西日本最大のストリップ劇場であることを知った。
 
「今年も行けてよろしかったねぇ、お父さん」
 
その言葉に、胸が詰まる。過去、私も亡き父と同じ経験をしたからだ。
病に倒れる前、父は長女である私に不思議な頼み事をしてきた。
長女のお前だからとたっての打ち明け話は、一生に一度、映画にでてくるような本場のストリップ・ショーが観たいというものだった。
 
探しまわったあげく当時、北新地で不定期に開催されている、ヨーロッパのバーレスク・ショーを観に行った経験は、永らく心に封印してきたが、隣に同じ境遇の女がいることを知り、目を見張る。
 
父と観たショーは素晴らしかった。
ダンサーの皮膚の内側から発光するような白い肌。
猫線を思わせるストリップは音楽に合わせて、しなやかに伸びては丸くなり、その肢体は若さという生命力そのものだった。
父娘で息をのんで圧倒されるばかりだったが、目を少年のように輝かせながらショーを見ている父の横顔は今も記憶にのこる。
そしてショーのあと帰り道に父は言った。
「まゆみ、良いもん見させてもらったわ。もうお父さん思いのこすことないわ」
その言葉は異性であり娘である私にさえ共感できるものだったので不思議な親孝行の経験だった。
 
今、隣に居合わせたもう一人の娘も少しのやましさもなく、言葉をつないだ
「お父さん、ああいう人を天女っていうのかもしれへんねぇ」
老人がかすかにうなずく。
 
ボッティチェリ作の「ヴィーナスの誕生」の絵は500年以上たつが今でも性別や国境を越えて、子供から大人まで不変のエロスの美を伝えてくれる。絵画にあっても「動」の美があり、あの絵こそ最初のストリップ・ショーなのではないかと心密かに信じている。
 
あれから……。父が亡くなって二年後、フランスを訪れた際、「クレイジー・ホース」というパリの老舗のキャバレーに家族と出向いた。
理由は事前に映画化された鮮烈なショーに感動をおぼえたことと、父との密やかな思い出がその店にいく動機になっていた。
 
店は観光カップルが多いが、男性のみならず女性も一人で観に来る人気ぶりだ。
そして、ショーが始まると片時も目が離せなくなる。
 
ダンサーを照らすライトは霧雨のようにふんわりとその肢体を包む。
磨きぬかれた白磁のような肌には一点のにごりも見当たらない。
容姿や骨格の良さだけでなく、ダンサーの呼吸とズレてうまれるシナだとか、指先の動きが女性らしいエロティシズムを創造していた。
舞台を行き来する光と影に、観客は見えそうで見えない自分の「色」追い、目を細める。
 
観客の強い視線に射抜かれながらも、舞台の上で堂々と弓なりに裸体をそらすダンサー。
 
エロティックにはどこか影がある。しかし何度も洗練を極め一流の芸術にまでに達した芸には影はなく、その美しさに魂まで洗われたような気がした。。
 
エロティシズムは誰にでもわかる眼福そのものだ。
理由などわからない。
でも眼から入る福は、現実にさらされて冷えた体の芯に小さいが強い火をともす。
 
やがて幕がおりて劇場内に明かりがつくとあちこちからため息がもれた。
ショーが始まる前は喧嘩をして口をきかなかったカップルでさえ頬を紅潮させながら、会話を弾ませている。特に女性の方が興奮気味だった。誰もが幸せな気分で店を後にする。
 
「いま何時や?」
「4時をすぎ……。お父さん、そろそろ帰りましょうか」
老人は良い日だったと素直にこたえた。
「ところでお父さん、帰ったら〇〇証券へ電話して株を売ってもらってね」
その一言に老人は目を覚ます。
「わしの目の黒いうちは絶対に株は売らん!」
 
どうやら「ヴィーナス」の高揚効果は現実の前にはすぐにかき消されるようだ。
そういえば私も家族とショーを観たあと、ホテルへ戻るタクシーのなかで小競り合いをした記憶がある。その原因さえもう覚えていないが……。
過ぎてしまえば喧嘩の原因など消えてしまう。
でもあの日、あの時、出会った神秘的な感動や高揚感は、記憶に刻まれ間違いなく人生を潤してくれるサムシング・スペシャルだ。
 
願わくば、現実に根をおろしながらも、やはり機会があれば神秘的な美に触れてみたい。
 
そう考えていると美々卯の店員が近づいてきた。
「そろそろ閉店になります」
 
そろそろ会社にもどらないと……。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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