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我が家を虜にする元祖カレーパン


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
新しいパン屋さんに入ったときにあったら絶対に買うパンってありますか?
 
私にとって、新しいパン屋に入って絶対買うパンは『ものさし』のような役割を果たしている。ものさしのパンを食べてみることで、そのお店が自分の好みに合っているのかどうか、はかることができる気がするのだ。
 
ある人はクリームパンを買ってそのクリームの質、パンの生地など確かめる人もいるかもしれない。
別の人はクロワッサンを買って、そのサクサク感やバターの香りなどの好みにこだわるかもしれない。
 
私にとって、ものさしのパンはカレーパンだ。
 
パン生地の味、フィリングのカレーの味や食感、量へのこだわり、そして衣のつけ具合や揚げ方や冷めてからの味わい、価格設定や宣伝の仕方など、カレーパンをものさしにしてチェックする。
 
そうやって、色々なお店のカレーパンを買い求めては食べてきた。そんなうちの家族が満場一致で日本一だと思っているカレーパンは、東京の下町のお相撲さんが自転車で行き交うとある街のパン屋で売られている。
 
かつて私が住んでいた町にある小さな小さなお店だった。比較的新しいたたずまいにも関わらず、どこか昭和感を漂わせる看板や、窓が大きく外から沢山のパンが並んでいるのが見える店のつくりは、下町の光景によくなじんでいた。
 
開店時間が7時なのも最近よくあるおしゃれなブーランジェリーとは一線を画している気がする。会社に向かう時にサッと寄って朝ごはんを調達するのに都合がよかった。
 
お店のおじちゃんやおばちゃんはいつも元気に声をかけてくれるからつい寄ってしまう、そんな気持ちの良い店だった。
 
開店と同時に店のレジの真横には、大きなバットにカレーパンが山盛りに積み上げられている。ラグビーボール型の甘口と丸い辛口、二種類のカレーパンがあって、7時を筆頭に一日3回カレーパンが販売されていた。
 
朝も早くから、ひっきりなしに客が訪れ、山盛りのカレーパンは瞬く間に売れていくのだった。
 
初めてそのパン屋に入ったときに、私の『ものさし』であるカレーパン山高くが積まれていたのを見て、直感的にこのカレーパンは何か違う、と思っていた。
 
しかし時刻は朝7時。これから会社に行くのにカレーパンをもって出勤するの?
 
私は少し躊躇した。朝ごはんにカレーパンはさすがの私でも重い、そうは思ったものの、次々と売れていく様子に思わず一個だけ……と買い求めたのだ。
 
電車に乗って膝に買ったパンの袋を載せるとまだほんのりと温かい。
袋の隙間からそっと覗くと専用の厚手のビニールにくるまれて、かすかに油の香りがのぼってくる。
 
次々に乗り込んでくる乗客から守るように腕で囲いを作りながら、電車が勤務先の駅に着くのが待ち遠しかった。
 
朝、一番乗りのオフィスに電気をつけ、席に座る。
 
袋を空けて、カレーパンを取り出した。
温かさがほんの少しだけ私のことを待っていてくれた。
 
ラグビーボールの端から一口かじるともうカレーが出てきた。
 
これは、うまい!
 
ずっしりしているはずだ。カレーのフィリングの量がものすごく多い。そして、朝ごはんだというのを忘れるくらいの軽い口当たりで、くどさも重さも感じないくらいだった。
 
カレーフィリングは、ゴロゴロしているタイプではなく野菜が丁寧に細かく刻まれて、じっくり煮込まれているというのがわかるうまみと甘味で絶妙な口あたりだ。
 
朝から、飛ぶように売れるわけだ。これなら、朝ごはんに食べても全然胸やけがしない。
 
その他に選んだパンもとても丁寧に作られていて、満足だった。それでも断然カレーパンだな。そう思いながら、パンのごみを捨てようとして、袋に一枚の黄色い紙が入っていることに気が付いた。
 
その紙には、『元祖カレーパン』とかかれ、お店のカレーパンの紹介がされていた。そのお店の前身は明治10年にさかのぼること、昭和2年「洋食パン」の名前で実用新案として登録されたものがカレーパンのルーツであることが記されていた。
 
日本初のカレーパンなんだ。昭和の頃から親しまれてきた味わいが平成の今も愛されているんだと感動した。またニンジンや玉ねぎが沢山入っており、高級なサラダ油や綿実油を使って揚げているという触れ書きに、胸やけしない理由がうかがえて納得したのだった。
 
以降、私が勤め先を退職するまで、店休日を除く平日の朝ごはんは、カレーパン3個になった。仕事がしんどくても嬉しいことがあっても毎朝始まりはカレーパンだった。
 
「朝から、カレーパンばかり3個も食べられるなんて、若いもんだなあ」
 
と上司からからかわれても、お構いなしだった。今となっては、どんなにいい油を使っていても、さすがにカレーパンを3個食べるのはもう無理だなと思うとやっぱり当時は若かったな、と懐かしくなる。
 
会社を退職して、遠方に嫁ぎ、パン屋でカレーパンを買っても、あの元祖カレーパンに勝るカレーパンに出会うことはなかった。遠く離れたあの味が恋しいものだな、と思っていたある時、夫が出張のついでにあのカレーパンを買ってきてくれたのだった。
 
箱に沢山詰め込まれたカレーパンから漂う油の香りが懐かしくて鼻の奥が少しツーンとなった。買った時は出来立てで熱かったと夫は言っていたが、さすがに温かさまではついてこなかった。
 
トースターでリベイクして口に含んだ時、サクッとした口当たりが新鮮だった。昔はリベイクしたことがなかったからだ。新しい感動も覚えながら、次にやってきたのは懐かしい、とても懐かしいあのフィリングの味だった。
 
子供達も争うように食べ、箱に沢山詰め込まれたカレーパンはあっという間になくなった。
 
それから夫が東京に出張に出た折には必ずカレーパンがやってくる。
 
元祖カレーパンがすっかり気に入った息子は、私と同じでパン屋に行くたびにカレーパンを求めるようになった。
 
「これはこれで美味しいんだけど、やっぱり元祖カレーパンが美味しいんだよね」
 
と息子はつぶやく。あまりにもあのカレーパンが好きすぎて、二分の一成人式の『お父さんへの感謝の言葉』が、
 
「おとうさん、東京でカレーパンを買ってきてくれてありがとう」
 
だったくらいだ。私が、勤め人だった時代に苦楽を共にしたカレーパンが、息子が手紙に書きたくなるほど好きなカレーパンになるとは思わなかった。
 
東京の下町、お相撲さんが自転車で走り回る、ノスタルジックな空気感の街にある、小さな小さなパン屋さん。
 
カレーパン好きにはぜひ食べてほしい、元祖カレーパンがそこにはある。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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