大自然のオーケストラ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:早藤 武(ライティング・ゼミ超通信コース)
慣れない早起きをしたせいか、早く寝たのに眠たい。
朝起きて、カーテンを開けると空は曇り空で少し雨が降っていました。
時刻は朝の4時半をまわったところです。
週末の今日の朝に向けて楽しみに計画していたのに雨で台無しになるのかと思って、スマホを手に取って天気予報を調べました。
自宅周辺の地域は午前中ずっと雨模様で、がっくり肩を落としそうになりました。
いや、まだあきらめるのは早い。
目的地は晴れ間も見えそうという予報をスマホで調べて改めて出かけることを決意して、眠そうにしている妻を連れて車を走らせました。
自宅から車で1時間ほど走らせたところに自然公園の湖があって、そこの一部には一般に無料で解放されているキャンプ場があります。
春先だと地元のキャンパーくらいしか来ないので、一面の湖を見渡せる素晴らしい景色とテントを張れる草原が広がっています。
暦の上では春ですが、4月半ばを過ぎた北海道でも朝はまだまだ寒いです。
気温は7℃、防寒をしっかりしてブランケットも車に積んであります。
キャンプ場の駐車場に到着して、荷物を積んだリュックを背負って、まだ眠そうな妻を連れて10分ほどキャンプ場内を歩き進みます。
朝5時半過ぎですが、前日から泊まって、すでに起きているキャンパーさんが数組ほどテントの近くで焚き火をして、暖をとっていました。
キャンパーさんたちのテントの近くを通り過ぎるときに、なるべく邪魔にならないように静かに会釈して挨拶をすると笑顔で会釈を返してくれました。
湖のそばに折り畳みのイスを2個とテーブルを組み立てて並べました。
カセットコンロのボンベを使えるアウトドア用のガスバーナーに火をつけて、ヤカンの水が沸騰するのを待ちます。
妻はまだ眠そうに毛布にくるまってイスでだるまになっています。
ときどき吹いてくる風はまだまだ寒さを感じさせるので、このまま毛布にくるまって温かくしてもらうのが良いでしょう。
慣れない早起きからの移動が終わって、やっとひと息つける時間ができました。
ドリップコーヒーをいれるためのお湯が沸くまでの間、僕は空を見上げました。
空は曇り空だけれども、雲の間に少しだけ青空が見られて、雲の動きはとても速い。それでも地上の風は穏やかだったのは幸運です。
僕たちの正面に広がる湖を挟んで見える遠くの山から風が吹いて、水面が波立ってこちらに段々と向かってくるのが見えます。
風が僕たちのもとに届くとフワッと心地よい冷たい風の感覚と草木が優しく揺れる音が耳を通り過ぎました。
後ろの木々からは野鳥たちのホーホー、チュンチュン、ホーホケキョなど様々な鳴き声があちこちから不規則に聞こえてきます。
再び地上の風が僕たちの近くを通って、草木や水面がサーっと波立つ音が心地よく、時間がゆっくり流れていくようです。
不規則なようで、なぜか心が安らぐような調和のとれた音が耳に次々と入ってきます。
こうして大自然のオーケストラはいつの間にか始まっていたようです。
静かにオーケストラの音に耳を傾けている僕の様子に妻も気がついて、毛布にくるまりながら自然の音楽を一緒になって聞いてくれています。
しばらくするとコトコト、グツグツという音が新たに混じってきました。
青空も広がって、さらに大自然の心地よい光景が変わっていきます。
ヤカンのお湯が沸いてコーヒーをいれる準備が整いました。
ガスバーナーの火を止めて、お湯を注いでドリップコーヒーを入れます。
インスタントのドリップコーヒーの入った袋を開けるとコーヒーの良い香りが僕と妻の鼻に届いてお互いに良い香りだねと笑顔になりました。
独身時代からの趣味でソロキャンプをしていて、妻と出かけてこうしてコーヒーを楽しめるくらいにはキャンプスキルが身についていました。
独り身の時には仕事でクタクタになった心身を休めるために自然に帰ってリラックスする時間を作っていました。
最初に独りでキャンプをして、ゆっくりと大自然の中で過ごしている時に気がついたのです。
大自然の中には何もないと思っていたけれども、それは大きな勘違いでした。
こうして今みたいに妻と温かいコーヒーを飲みながら、大自然が作り出す様々なゆらぎの音を心地よく楽しめています。
そして日常生活の中で、いかにたくさんの音や光の情報を取り入れているのかを改めて思い知ります。
多くの音や光の情報が入ることで僕たちは知らないうちに疲れてしまっていたりします。
その疲れを大自然が作り出す音や光がそっと癒してくれるのです。
温かいコーヒーが飲み終わって、妻と帰り道
「最初はどうなることかと思っていたけれど、連れてきてくれてありがとう」
妻はにっこり笑って、また来ようねと言ってくれました。
今度は通りがかりに見かけた焚き火に興味をひかれたようで、僕が火をおこしているのを見てみたいとリクエストがありました。
次に大自然のオーケストラには、火が奏でるパチパチという音が加わるかも知れません。
週末の休日はまだ始まったばかり、帰ったら何をしようかな。
***
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