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両目で見る


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:石瀬 木里(ライティング・ゼミ集中コース)

「左の目は正面を見ているのに、右目は斜め上を見てるよ!」

小学校に上がった頃から、何度となく周りに指摘されてきた。私は生まれつきの”間欠性斜視”である。間欠性斜視とは、普段は両目で同じ方向を見ることが出来ていても、時々左右の目で異なる方向を見てしまう症状を指す。私の場合は、幼い頃から疲れたときに斜視になりやすく、今でも寝不足が続く週などは、帰宅の途につくような時間には、必ずと言っていいほど斜視の症状が現れる。

斜視は手術で治すことも出来る。私の両親も、赤子の私を抱えて医者に駆け込んだそうだ。しかし、私の場合は、両目の視力は問題なかった為、「治療の必要はありませんが、本人の自我が芽生えてから見た目を気にするようであれば、手術してください」と言われただけだった。

結果として、私は手術を受けていない。決して見た目が気にならなかったわけではない。単に目の中を手術することが怖かった。それに、斜視の手術が成功しても10年経てば元に戻ると言われているため、完治しないのであれば、余計にやりたくなかった。

しかし、斜視と自力で戦うことは、想像以上にエネルギーがいる。人と話すときに斜視の症状がでれば、必死に全ての神経を研ぎ澄ませて今にも異なる方向に散らかりそうな2つの目の焦点を、なんとか相手の目に合わせる。自然に引っ張られる目の筋を、意識的に戻そうとするのだから、それなりに忍耐力と精神力が必要とされる。その上で、相手の会話内容を聞いて理解し、返答するのだから、疲れないわけがない。

写真もこれまた憂鬱だ。疲れた目にとってカメラの焦点を両目で見ることは、黒ゴマが山盛りに積れている中の一粒だけを見つめろと言われるくらい、容易ではない。だからシャッターが切られるまでの数秒の間に、瞬きを幾度となく繰り返し、文字通り”必死”で目のコンディションを整えなくてはならない。

私がここまで斜視の見た目を気にする理由は、ただ1つ。他人の斜視に対する感情を知っているからだ。

「両目が違うところを見ているよ!どうやっているの?」と小学生の時は、興味本位で聞かれることが多かった同学年の友人からの質問。その当時から皆の前で聞かれると、動物園にいる動物のように、周りと違う自分を見世物にされている感覚が胸にチクリと刺さっていた。そして大人になるにつれ、「それ、治さないの?」など、露骨な指摘も増えた。時には「サイコパスみたい」と冗談半分に言われたこともある。あなたの目はおかしい、普通じゃない。そういうニュアンスが、指摘の中には常に潜んでいたように思う。

別に、それらの指摘を批判したいわけではない。あくまでどう感じるかは、人の自由だし、見慣れなければ驚くことくらいあるとも思う。しかし、人生を通じて幾度となく受けた指摘は、斜視が世の中に快く受け入れて貰えないことを知るには、充分だった。斜視に対してどれだけ理解が進んでも、歓迎されることはないと確信すら覚えている。

ただ、それを承知の上で、1つだけどうしても問いたい。

誰がいつ、両目で同じ方向を見ることが常識であると決めたのだろう?

最近、斜視は大学の”テニサー”に似ていると感じることがある。テニサーこと、テニスのサークル活動は、実際の活動内容よりも先に”テニサー”の先入観が一人歩きしてしまうことが多い。「どうせテニスなんかやってない」「お酒を飲んでいるだけの飲みサーか」1つ1つのテニスサークルのテニスに対する本気度の実態は関係ない。聞いている人にとって、”テニサー”の響きが全てだ。私自身がテニスサークルに所属していた分、これは断言できる。サークルを問われて、テニスサークルに所属していることを伝えたときの「あー、テニサーね(笑)」といかにも意味ありげに返答されたのは、片手では数えきれない。しかも驚くことに、初対面の人であっても「あー、テニサーね(笑)」と返されるのだから、テニサーの一般的なイメージの悪さは、他のサークルと比べても頭一つ抜けている。

テニサーに所属する人は、本来のサークル活動の常識から外れている者。
斜視の人は、両目で見るという常識から外れている者。

テニサーは性質ではないから所属を辞められる点で違いはあるが、どちらも世の中で勝手に決められた常識や基準の中で除け者にされる点で大差はない。しかしそれでも尚、”テニサー”に関して言えば、過去の不祥事のイメージが連なり、意識的に作られた常識やスタンダードであるだけ、まだマシだと思ってしまう。

「両目で同じ方向を見ること」

これは誰が作った常識なのだろうか?いつから始まったのか?どちらかでも答えを知っている人はいるのだろうか?この常識が存在していることを自覚している人は、どれくらい日本にいるのだろうか?世界ではどうだろうか?

そんな無意識のうちに作り出された常識の海の中に放り込まれて、溺れ死ぬことのないよう、手足がちぎれそうになろうとも力を振り絞って動かしている自分の姿が頭をよぎる。

いや、実際には、「早く、こんな常識なくなれば良くなればいいのに」「斜視の人が見た目を気にして手術しないでも良い世の中になってよ」そんなことを思いながらも、今日もただ、人の目あるいはカメラのレンズを、全体力をかけて両目で見つめている。

***

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2021-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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