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観光地ではない沖縄~リゾートバイトのすすめ~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:宮崎宮緒(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
沖縄の海に台風の時に観光で行ってはいけない。
それも離島の海に行ってはいけない。
 
それは当たり前だろう。
台風が来ていたら、ホテルに籠らないといけない。
店はおおかた閉まっている。外食はできない。
青い海も空も白い砂浜も雲も星空も何も見えない。t
離島ならなおさら、沖縄本島にすら戻れなくなる。フェリーや飛行機が欠航するからだ。
更に、本州に戻る飛行機も飛ばなくなれば、仕事や学校など予定が狂う。
延泊しなくてはいけないし、飛行機便も振り替えなければならないのだ。
 
わたしは数年前に半年ほど沖縄の離島にあるホテルで働いていた。リゾートバイトである。
6月から12月の年末まで住み込みで勤務した。その後は沖縄本島に移動。那覇のゲストハウスにまた住み込み、週1,2回ほどお土産物屋でアルバイトをしながら更に半年過ごした。
生まれ育った広島での仕事を辞めて、沖縄で約1年のバカンスを過ごしたのだった。
それまでも何度か旅行で沖縄に来ていて、その時に友人が何人か出来た。
運よく友人ができたことで、女ひとりで沖縄で一年を過ごすハードルが下がったのだ。
 
これまでも旅行に来ていたし、友人は生粋の沖縄人もいたため、沖縄を少しは知っていると思っていた。
だが、1年住むということで、旅行とは違う体験を満喫した。
辛いこともあったけど。
人間関係の問題は沖縄だろうが、広島だろうが、今あなたが住んでいる場所にわたしが行こうとも起こる。仕事はやっていれば出来るようになる。
未熟さと共に手助けのありがたみも味わい、そこにしかない体験を目一杯かみしめる。
 
その中で培った教訓が「沖縄の離島の海に台風の時に観光で行ってはいけない」である。
 
そうだ、絶対に行ってはいけない。
なぜなら、多忙を極めるシーズン中のホテルや民宿の完全なる休みだからである。
台風接近。
そのアナウンスが出た瞬間に、フェリーがいつ欠航するのか調べる。
チェックアウト予定のお客様は早めに出立していただく。
滞在中のお客様には、なるべくなら早めに本島にお戻りくださいと伝える。
最悪、ヘリコプターチャーターで帰れますけど、お高いですよ?
分かっていて残った場合、滞在費は掛かります。
チェックインのお客さまにもメール、電話でお伝え。
台風の場合、キャンセル料は不要だということも併せて。
海外からのゲストには英語や翻訳サイト、身振り手振りで説明、兎に角、帰す。
帰す。帰す。帰す。
ビーチで遊んでいても、探して捕まえて帰すのだ。
 
そうして、誰もいない白い砂浜とサンゴ礁の海だけが残る。
波はだんだんと高くなり、熱を孕んだ風が大きく島をなぶっていく。
南の島で台風の来る前の夕空を見たことがあるだろうか。
真っ赤な夕焼けではなく、青紫と赤紫の複雑なグラデーションのキャンバスに風が複雑な意匠を凝らした雲で自然の絵を描いていくのだ。
 
お客さまはもういない。
われわれは休みだ。自由だ。
 
台風が離島に上陸する直前。
連日、観光客相手にスキューバダイビングのインストラクターをしている青年たちはいそいそとサーフボードを持って高い波に挑んでいく。
ごうごうと風の吹く夜はひとりだと頼りなく、みなで集まってオリオンビールを飲んだり、トランプをして遊ぶ。
ジェンガは工夫して、最後に倒した時に抜いたジェンガに書いてある罰ゲームをする。
どうせ明日の朝、早起きして朝食をサーブする必要はないのだ。
 
台風が過ぎた後は晴れている。
波がまだ高いので最初のフェリーの出航はまだ未定だ。
湾の向きや形状にもよるが滞在する離島のメインビーチは台風の後、かき混ぜられた海の透明度が増す。
 
「遊びに行っていいよ」
 
離島生まれ、離島育ちのダイビングインストラクターながら漁師の免許も持っているイケメンオーナーが言った。
海の状態を確認して、危険がないと判断してくれた。
自然相手は多くの条件があるので、見極めてくれる人がいないと勝手に立ち入ってはいけない。
 
同じホテルで働く名古屋から来ていた天然美人と共に誰もいない海へ向かう。
スキューバダイビングではなく、手軽にできるスノーケリングだ。
水着にスウェットを着て、スノーケルとマスク、フィンを付けて我先に海へ泳いでいく。
従業員はいつでも一式借りられる。
休憩時間や休みの日に観光客に揉まれながら海で遊んできた。
 
見たことない景色がそこにはあった。
驚くほど先までサンゴ礁の海が見えるのだ。
息を吸いこみ、足を蹴りながら潜水を繰り返す。
それまでも、何回かこの海に潜っていたのに。
視力がいくらか回復したのかと錯覚するほどクリア。
名物のウミガメも泳いでいた。
他の人を避けなくてもいいし、透き通っているから探しやすい。
息継ぎで上がってきた海面上で、興奮したまま見つけたウミガメの方を指す。
二人でそちらへ泳いでいく。
 
ひとしきり泳いだ後にホテルに戻った。
夕方のフェリー最終便が動くらしい。
休暇は終わりだ。
制服のかりゆしに着替えて、港までの送迎、チェックイン対応、ディナーの担当を確認していく。
 
毎回、台風の後の海が綺麗とは限らない。
自由時間が与えられるとも限らない。
すべての条件がそろうことは珍しい。
専門家の案内なしに海に簡単には潜れない。
 
沖縄の海に台風の時に観光で行ってはいけない。
それも離島の海に観光客として行ってはいけない。
 
地元の海を一番知っている人たちの完全なる休暇を邪魔してはいけないからだ。
 
 
 
 
***

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2021-05-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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