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メディアグランプリ

「ストーリー」アレルギーになりかけていた私が乗り越えられている理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大村沙織(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「悪いけど、やり直してくれへん?」
 
ずしっと、上司の言葉が心に重石のようにのしかかった。しかしさも何のダメージを受けていないかのように、私は言葉を返す。
「やっぱり相対値のデータじゃない方が良かったですか?」
「相対値でも良いけど、表じゃなくてグラフにしてほしい。ここで言いたいのは相手の評価がうちの評価と差がないってことやろ?だったら棒グラフで視覚的に見せた方がストーリーが相手に伝わりやすいんちゃう?」
「なるほど…」
上司の指摘を受けながら、これからの作業を頭の中でシミュレーションする。このデータを棒グラフにするには表作成からやる必要がある。となるとあのファイルを参照しなきゃいけない。こっちのデータもグラフにするなら、参照先のファイルは最新のデータに更新しなければ……サーバーに繋がっていない装置のデータだから、直接取りに行こう。
「ありがとうございます。夕方までには何とか仕上げます」
「頼むで」
共有スペースでデータを抽出するためのUSBメモリを回収し、そのままの流れで実験室に向かい、装置にメモリを差し込む。
「それにしても、また『ストーリー』か……」
メモリを起動させる装置の前で溜息と共に、ひとり呟いた。
 
正直、私の「ストーリー」という言葉に対する印象は決して良いものとは言えない。仕事で使う機会はあるが、自分の口から発することは避けている。その理由は後述していきたい。
しかしここ2、3か月で、あまり好ましくない「ストーリー」という単語を耳にする機会がぐっと増えている。今はプライベートでライティング関連のゼミを受けており、そこでしばしば登場するというのが大きな理由だろう。またライティングに少しでも活かせればと、先日キャッチコピーの付け方に関連するセミナーを受けたのだが、そこでも「ストーリー」の重要性が滔々と語られていた。人生の中で大半の「ストーリー」という単語を聴く機会がこの2、3か月に凝縮されているんじゃないかって思うくらい、耳にしている気がする。文字通り「『ストーリー』に満ちた日々」を過ごしている。言葉だけだと何となくドラマチックな響きがするフレーズだが、残念ながら実際は全くそんなことはない。
 
「人を説得するのに必要なものを、アリストテレスは3つ挙げている。ロゴス、パトス、エトスだ。ロゴスは論理やロジック、パトスは欲望や感動、エトスは語り手の信用に関わる部分になる。ストーリーを利用することは、聞き手のパトスに大きく働きかけることになる」
 
キャッチコピーセミナーの先生の言葉が脳裏に蘇る。確かに一般的な意味の「ストーリー」であればそうだろう。ライティングゼミで取り上げている「ストーリー」も具体例やエピソードの意味合いが強いから、感情に働きかける部分が大きいだろうと思う。
 
しかし「ストーリー」には他にもう1つ意味があることを、私は知っている。私の「ストーリー」という言葉への印象があまり良くない理由は、この第2の意味があるからだ。そして「『ストーリー』に溢れた日々」がドラマチックでないと断言したのは、私の日常には上司との会話でも使われていた第2の意味の「ストーリー」の方が圧倒的に多いからだ。一言で説明してしまうと、「論理展開そのもの」が「ストーリー」なのだ。理系の人間の場合、先述の先生の言葉を借りるなら、ロゴスにあたる部分を「ストーリー」と呼ぶことが多い。これは学生時代を理科系の研究室で過ごした人なら何となく分かっていただける、理系あるあるの1つではないかと思う。
 
「ストーリーが美しくない」
「ここのストーリーを埋めるデータは?」
「そのストーリーには無理があるでしょ!」
 
学生時代、教授や先輩方から上記の台詞をぶつけられてきた苦い記憶が呼び起こされる。正直申し上げて、「何が『ストーリー』じゃボケぇ!」と内心で何度悪態をついたか、数えきれない。
私が「ストーリー」という言葉を避ける理由は他にもある。高校時代、まさに「ストーリー」が口癖の生物教師がいた。もちろんここでの「ストーリー」も第2の意味で使われていた。授業中にあまりに「ストーリー」を連発するので、「またか」とげんなりしていた生徒は多く、私自身もその中の一人だった。彼は部活の顧問でもあったのだが、私の学年のメンバーとウマが合わず、仲間内では「エス」と呼び捨てされていた。その教師の名字が「さ行」から始まることと、口癖の「ストーリー」の頭文字の「S」をかけてつけた、皮肉のこもったあだ名だった。エスとは部活の活動方針をめぐって何度かバトルを繰り広げており、そのときの印象も相まって、「ストーリー」という言葉への嫌悪感が植え付けられてしまったのかもしれない。
 
自分の「ストーリー」に関する記憶を呼び起こすと、軽いアレルギーになっていてもおかしくないような気がする。実際今でも自ら「ストーリー」という単語を口にすることはない程度には、アレルギーは残っていると思う。ただ忌避するというレベルには至っておらず、よくぞ「ストーリー」に対する重いトラウマを抱えなかったものだと、自分で自分を褒めてあげたい。
今はトラウマになるどころか、ライティングを学ぶことで自ら「ストーリー」の作り手となり、向き合おうとまでしている。第2の意味の「ストーリー」に負わされた傷は完全に癒えていないが、そこまでやる理由は私自身が「ストーリー」の可能性を信じているからとしか言いようがない。お仕事小説に自分の現状を重ねて励まされたり、泣ける映画で心がデトックスされたり、スーパーの野菜売り場で生産者の顔写真と畑のエピソードを読んで心温まる気分になったり……ストーリーに心動かされてきたシーンは数知れない。
 
「ストーリーってとても歴史が古くて。世界には約5000語の言語があるんですけど、その中で文字があるものって200語くらいしかないんです。ただ文字がない文化であっても、物語・ストーリーは口伝で残り、必ず存在する。それだけストーリーが人間を魅了してきたってことですよね」
 
キャッチコピーセミナーでの先生の言葉が再び蘇る。ストーリーに心惹かれてしまうのは人間の性質・本能のようなものなのだ。そう考えると「ストーリー」に対する抵抗もふっと軽くなる気がする。今でも仕事で第2の意味の「ストーリー」に傷を抉られる日々は続いている。しかし世の中に溢れているストーリーの力や自分が紡ぐストーリーの可能性を信じて、これからも奮闘していきたい。
 
そんな決意を固めていたら、いつのまにかデータの抽出が終わっていた。仕事モードに切り替え、私は実験室を後にしたのだった。
 
 
 
 
***

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2021-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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