メディアグランプリ

わたしたちは素直がすき


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記事:別本悠果(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
わたしは実家の犬をなかなか好きになることができなかった。
その犬の名前は杏。杏が我が家にやってきたとき、わたしは中学三年生だった。
まだ生まれて1か月ほどの杏はやんちゃ盛りだった。黒柴の杏はまろ眉が特徴的で、タヌキ顔だった。見てる分にはとてもかわいい。だけど、お散歩やご飯の準備など毎日任されるお世話が、勉強や部活に精いっぱいのわたしにとって煩わしかったのだ。
 
月日は流れ、わたしは大学生になった。進学と同時に家を出たわたしが、久しぶりに実家に帰ると、驚いた。父親がかいがいしく杏の世話をしていたからだ。仕事の日も休日も早朝から杏の散歩に連れていき、ご飯の準備をし、見たことないくらい優しい目をして杏を撫でていた。こんな父親見たことない。父は家事や育児は奥さんにお任せタイプの、いわゆる昔ながらの父親像そのものである。そんな父のハートを射止め、積極的にお世話をさせ、挙句の果てに杏に嫌われたくないと言わせる。父にそこまで言わせる杏は何者なのか。何がそんなに魅力的なのかその当時もまだわからなかった。
 
そんなわたしにもようやく転機が来た。今年から実家で暮らすことになったのだ。
 
一緒に暮らすようになって、意外にも杏も喜んでくれた。家に帰ってきたとたん、尻尾を全力で振ってお出迎えしてくれたり、夜は気まぐれにやってきてわたしのベッドで一緒に眠ったりもした。
普段自宅で仕事をしていると、2階の私の部屋まで「仕事ちゃんとしてるかー?」って様子を確認しにきたり、毎日15時ごろになったら、近くに寄ってきてお座りしキュルキュルの目でお散歩行こうアピールしてくる。
だけど「かわいいな~よしよし!」ってわたしから近づくと、ふんっとそっぽを向いて逃げたりもする。
 
気まぐれだ。気まぐれすぎる。
これがツンデレってやつなのか……。
父はこの可愛さにやられていたのか……?
 
そしてそれが決定的にわかる日が来た。
 
ある日の夜、皆が寝静まった後。わたしは泣いていた。理由は忘れたけど、悲しかったのだ。一人静かに泣いていたらふと背中にぬくもりを感じた。振り返るとそこには杏が背中合わせで座っていた。杏も優しいなーと思って撫でていると顔をこっちに向けて、ペロッと私の涙をぬぐってくれたのだ。
 
普段の杏は自由気ままだ。
自分の欲求にも素直で、好きなことは好き、嫌いなことは嫌いとはっきりしている。
だけど、悲しんでいるとき苦しんでいるとき飼い主にそっと寄り添ってくれるのだ。
 
なるほど。私は心つかまれた。
これは父もすきになるわ。
 
そこでふと思ったのだ。これって人間にもそうだよなと。
 
わたしたちは大人になるにつれて、「いい子でいよう」「これ言ったら困るかな?」「○○ちゃんはどっちの方が好きなんだろう」とか。周りの目とそっちばかり気にして、自分の気持ちを後回しにすることって増えたよなって思う。
あの人に好かれたい! 嫌われたくない! っていう気持ちが強すぎて自分のやりたいことバランスが取れなくなってしまっている大人って結構いるんじゃないだろうか。
 
わたしも学生の頃、片思いの相手を優先してしまって、自分のことを伝えられなかったことがあった。
遊ぶ予定だって、相手の空いてる日に合わせてスケジューリングして、「これがやりたい!」とか「これは嫌い」とか、自分の希望を伝えることなんてほとんどないに等しかった。相手に嫌われたくない気持ちが強かったのだ。それだけに、私自身何も伝えられなくて苦しくなって、その人との連絡が途絶えていったことがある。
 
だけど杏を見ていて気付いた。わたしたちはもっと自分のやりたいことや欲求に素直になったらいいんじゃないかって。だって自由気ままで自分の欲求に素直な、そんな杏がわたしたち家族は愛おしくて、大好きなのだから。
 
自分の希望を言わない、いわゆるイエスマンっていうのは、時に個性を殺すことにもなる。
当時わたしが片思いしていた相手だって、こいつは何を考えていて、何が好きなのか、何が嫌いなのか、そういう基本的情報が伝わっていなかったように思う。きっと何考えているか分かんない人だっただろう。
 
相手を思いやる気持ちはもちろん大切だ。だけど、それ以上に、自分のことも大切にしないといけないのではないか。自分の気持ちを押し殺さないと仲良くできない人っていうのは、それはあなたにとって優しくない人ではないだろうか。あなたらしさが出せない関係性はいつか終わりを迎えてしまうのだ。
 
あなたのことを大事に思ってくれている人は、きっとあなたがわがままかもしれないと思うことを伝えたとしても変わらず愛してくれるだろう。
 
杏は人を虜にする術を自然と身に着けていた。父がメロメロなのも納得である。わたしだって、この数か月で杏の魅力に引き込まれた。そしてその姿からいろいろ学ぶこともができたのだ。人を思いやることと自分の意見を殺すことは違う。嫌われるかもしれないって思うかもしれないけど、その人のことを大切に思う気持ちが根底にあれば、自分の希望を意見することも少しは怖くないのではないか。そしてそれがその人との関係をより深めるきっかけになるかもしれないのだ。
 
そんな大切なことを教えてくれた杏も、人間でいうと60歳。いつの間にかおばあちゃんになっていった。これからもずっと健康で長生きしてね。そう願いを込めて今日も杏とお散歩に行く。
 
 
 
 
***

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2021-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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