ファインダーから変わる世界
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:河瀬佳代子(ライティング・ゼミ超通信コース)
私以外の全員が、それに向かって一斉にシャッターを切り始めた時、何故みんなそれを撮りに行くのかがよくわからなかった。
(ここまで来て、それを撮るんだ!)
ここは横浜中華街で、そして今日私たちは中華街のスナップを撮影しにやってきた。なのに、どうしてここでそれを撮影するのだろう? どうせだったらもっと「中華街っぽいやつ」の方がよいんじゃない? と思うのだけど、そんなことにはお構いなしに皆さんグイグイそれを撮影している。そして、撮影に夢中になっている皆さんを見ているのもまた、面白かったりする。
天狼院書店という面白い本屋を見つけてもうすぐ2年になる。書籍も売ってるけど、講座の方が盛んという、本屋っぽくない本屋だ。講座のジャンルはライティング、動画、ビジネスなど多岐に渡っているが、その中に「フォト部」といって、写真をメインにしている部門がある。私は主にライティング講座をメインに受けているが、写真、それも本格的に一眼レフの使い方や撮り方も教えてくれる講座も受けてみようかと思い、入門編をかじっている。
フォト部には、講座の他に初心者歓迎の気軽に参加できる1dayイベントもある。先日その中の1つに参加してみた。内容は「横浜中華街のスナップ写真を撮ろう」というものだ。ちょうど中華街についての文章を書いていたこともあって、何かバナーのような、絵になるような1枚が撮れたらなあという期待があった。写真は正直よくわからないし、全然だめだけど、先生も一緒だから何かいいのが撮れるに違いない! ぽわんと脳天気な感じで、私は集合場所に向かった。
元町・中華街駅から地上に出て、まずは朝陽門をくぐる。メインストリートの中華街大通りには行かず、左に曲がって南門シルクロードを進み、横浜大世界が見えてきたら右を向いて天長門を見上げる。まだほんの少ししか歩いていないというのに、参加している皆さんは既にたくさんシャッターを切っている。すごいなあ、よく一瞬で素材を探せるなと感心していた。
私はといえば、昔買ったはいいけど、スマートフォンの出現とともに長いこと家で眠ることになった一眼レフカメラを引っ張り出している。とりあえず入門編の講座は受けたけど、毎日復習してるわけじゃないからちょっと忘れかけてる気がしている。ISO感度はとりあえず100にしとくとして、F値ってどう決めるんだっけ? みんな教わったことなんだけど忘れちゃうんだよなあ。ま、いっか。わからなかったら先生に聞こう! 文字通り「なんとなく」ファインダーを覗いてみて、ちょっとここは明るくしようかなとか、ピントこうしようかなとか、自分の感覚頼りでシャッターを切っていた。
10年以上前から、ブログにはいわゆる「写メ」的なものを載せてきた。そしてInstagramにも、食べたものの写真とか気に入った小物とか読んだ本とか、そんな身の回りの「イケてる」ものがあったら載せてきた。でもそこに出てくる写真はどれもスマートフォンで撮影したものだ。カメラを向けてディスプレイに触れば自動的にそこにピントが合うから、あまりにも手軽すぎて「撮影している」気がしないのだ。
あくまでも自分の興味を引くもの、気に入ったものを、スマートフォンで好きなように撮る。確かにそれも写真だけど、一眼レフのカメラにお任せするのではなく、マニュアルモードで自分で設定してから撮影する写真とは全く違っている。例えて言えば、コンビニに並んでいる商品と、セレクトショップの1点モノの商品くらいの違いがあると思う。自分で全て決める写真は本当に難しいし、思ったように撮れないこともたくさんあるからついつい敬遠しがちになるけど、写真そのものの深みみたいなものがうまく出せているとすごくいいな、と思うのだ。
スナップ巡りは天長門をくぐって進み、途中で上海路、市場通り、香港路といった細道に曲がっていく。メインストリートから一歩入ったところの薄暗い道の方が、出ているお店も珍しい感じのものが多い。小物や、店の裏側、通り過ぎる地元の人の表情も、どこか大通りの風景とは違うものを醸し出している。
そして関帝廟にやってきた。
ひとしきり関帝廟の装飾や、狛犬、門などを熱心に撮影して引き上げようとした時、参加者の1人が、関帝廟の門を出てすぐ脇にある、マリーゴールドが植えてあるプランターを見つけ、その花の写真を撮り始めた。
「あ、それ、いいですね!」
講師もやってきて、私以外の全員が一斉にそのプランターに向かってシャッターを切り始めた。
(お花なのに、すごい熱心だなあ)
どこにでもあるようなありふれた植え込みだ。黄やオレンジのマリーゴールドが植わっている。そこにみんなが近づいて、そして地面に膝をついて撮影会になっている。それを見ていると結構面白かった。ここは中華街だけど、お花にもガチンコで撮影に臨むとは!
そしてその写真の出来上がりを見せてもらって驚いた。近くにある花はくっきりと写り、少し後方にある花はぼかしが入って幻想的な仕上がりになっていた。そこで私は、何故みんなこの撮影に懸命になったのかがわかった。ひたすら技術を磨く場というものを本能的に嗅ぎ分ける力をお持ちだからだ。私のように単純に「何かいいのないかなあ」とのんびり歩いていないから、チャンスを見分ける力がつくのだ。翻って自分が撮った写真を見た時、やはり奥行きが足りないなあとしみじみ思う。格好や形だけを見ているから、奥行きにまで到達していないんだと理解した。
たった1枚の写真、その裏側にも様々な技巧やドラマがある。そしてそれを知るにつけ「努力は裏切らない」という言葉を思う。日々、どこに技を磨くものが転がっているのか、それを探そうとする目を持つだけでも世界は変わってくる。ファインダーの中から切り取った世界からは実に多くのことを学べるし、それは他の場面でもきっと生きてくるのだろう。
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