カメラの距離
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:川口 公伸(ライティングゼミ・平日コース)
昨年の秋、僕は天狼院書店のイベントで初めてポートレートと言うものを撮った。
それまで、人の写真はほとんど撮ったことがなく、旅行に出かけた時の家族や友人の写真くらいだった。
それもいかにも記念写真と言った感じのものだった。
だから、初めてポートレート撮影のイベントに参加するときはちょっと勇気が必要だった。
しかし、参加してみるとこれがなかなか面白く、その後も継続してイベントに参加している。
もともと僕が、カメラを始めたのは富士山の写真が撮りたかったからだ。
だからこれまで撮った写真のほとんどは風景写真や旅行先のスナップ写真だった。
富士山の写真であれば、いかに富士山全体を写すかを考えて構図を決めていた。
例えば50mmの単焦点レンズをつけての撮影の場合、その画角の中にいかうまく全体を収めるかと言うことを考えていた。
そのために、正面からで収まらなければ斜めの方向から撮ってみたり、離れてみたりと工夫をしていたと思う。
しかし、ポートレートは違った。
モデルさんとの距離を詰めて顔をアップで撮ったり、指先だけをアップで撮ったりと、全身ではなくパーツごとを写真に収めることが必要になる。
しかも、絞りを調整して背景をぼかすことも風景写真ではやらないことだろう。
風景写真でぼかしてしまったら、何を撮ったか分からなくなってしまう。
他にも、風景写真やスナップ写真では室内で取ることはほとんどなかったため、設定の部分でも色々と勝手が違った。
そんなことで、初めてのポートレート撮影の時は他の参加者の後について、必死でシャッターを切った。
その結果、撮れた写真はシャッタースピードをあげることが出来ずにぶれてしまったり、逆光で背景だけが明るくなってしまったりと決して満足のいくものではなかった。
それでも、モデルさんのおかげもあってか、中には「ちょっと良いのでは」と思える写真もあったことで、ポートレート撮影に対して面白いと思えたのだろう。
その後も、イベントに参加してはポートレートの撮影をした。
すると、少しずつモデルさんとの距離を詰めて撮影ができるようになっていった。
写真の方も少しずつ「良いかも」と思える写真が増えていった。
そして迎えた今年のゴールデンウィーク。
ポートレート撮影のイベントはもちろん参加したが、それ以外に参加したイベントがあった。
それは、街中を散歩しながらスナップ写真を撮ると言うイベントだった。
場所は横浜中華街。
それまでも、会社の人や友人たちと何度かいったことがあり、以前の職場が近くにあったこともあり土地勘は十分にある場所だ。
しかし、写真を撮りに来たのは初めてだった。
イベントは曇り空の下で始まった。
僕は空の写真が好きなので、街赤のスナップを撮る時にもつい上を見上げてしまう。
中華街の中には、色あざやかな赤や金色の装飾が施された門などがあり、「天気が良ければもっと綺麗な色に見えるんだろうな」と思いながらもシャッターを切っていった。
そうして他の参加者と一緒に街中を歩きながら撮影を進めて行ったとき、ほかの参加者と講師の先生が道路脇の花を撮り始めた。
視点の高さを変え、方向を変え撮影をしている。
僕もそれに倣って撮影してみた。
きっとこれまでの僕ならどうにか花壇全体を撮ろうとしていたのだろうと思う。
しかし、この時は視点を下げて、花と平行になる位置からできるだけ花に近寄って撮影をした。
撮った写真を見ながら思った。
「こう言う写真も撮れるんだ」
これは後から思ったことだが、きっとこれはポートレート撮影を経験したことで撮れるようになった写真なのだろう。
被写体とカメラの距離は様々だ。
風景写真のように距離を保って撮影をするものがあれば、ポートレートのように距離を詰めて撮影するものもある。
風景写真ばかり撮っていた頃は被写体に寄って撮ると言うことはなかった。
スナップでもほぼ被写体に寄ることはやらなかった。
でも、ポートレートは逆だった。
どちらか一方だけを撮っていては気づけないこともあるのだろう。
それによって撮れる写真の幅は広がっていくのだろう。
先日参加したイベントで別の参加者の方が「最近寄って写真が多かったので、引いてとってみようと思う」と言うことだった。
バランスというものもあるのだろう。
しかし、僕は今寄った写真を撮ることを覚えたばかりで、寄った写真を撮ることが楽しい。
だから暫くは寄った写真を撮ることになるだろう。
そしていずれ引いた写真を撮ることの必要性を知るのだろう。
カメラと被写体の距離によって描かれる世界が変わる。
それは、ポートレート撮影を体験したことで気づくことができたことだ。
***
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