メディアグランプリ

「可愛いから」が起こす危うさ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:河瀬佳代子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「犬、飼いたいなあ」
 
気が付いたら、思わず口に出していた。
 
「何、いきなり」
「いや、犬飼ったら楽しそうだなあと思ってさ」
「なんでそんなこと言い出したんだよ?」
「これ見て」
 
最近よく見ている動画のリンクを夫に送った。
 
 
犬派、猫派、どっち? と訊かれたら、迷わず犬派と答える。
猫は苦手じゃないけど、幼稚園の時に公園で野良猫に手を差し出したら引っかかれたことがトラウマになっている。本当は好きになりたいんだけど敬遠しちゃう動物だ。イメージとして、どこに行ってしまうかわからないような危うさがあるところや、誰にでもなびくような風見鶏っぽいところもちょっと敬遠しがちなポイントだ。
 
対する犬は、可愛らしい。嬉しいことがあると無邪気にしっぽを振るようなところは見ていて飽きない。飼い主に忠実なところもいい。これと決めた人には仁義を尽くすような、古武士のような生き方もわかりやすくていい。人間と犬は太古の昔から絆を深めてきて、様々な場面で人間の役に立って助けてくれている話などもある。個々の犬自体の頭の良さについてはよくわからないけど、職務や責任に忠実なところなんてとってもシンプルじゃないか。
 
何故今このタイミングで、犬を飼いたくなったのか。
それは、保護犬団体の活動をウォッチしているからだ。
 
ペットショップで売られているペットは、いつまでもお店にいるわけではない。ある程度の期間が過ぎても買い手がつかなかった子はペットショップから去っていく。店頭での生体販売がある限り、需要が多い赤ちゃんの犬猫ばかりがもてはやされて高い値段で売れるから、ブリーダーも子猫や子犬を産ませることに躍起になる。しかしそうして生まれたもの全てが売れるわけではない。
 
売れ残ったペットたちは業者に引き取られたり、放置されたりと、あまり良い未来ばかりではない。ただただ繁殖のためだけに使われ、狭いケージに閉じ込められ、自由を奪われた犬猫たちがあまりにも悲惨じゃないかと、保護する活動をしている団体もある。私がよく見ている動画は、その中の1つである保護団体が撮影したものだ。
 
ペットショップでもてはやされる犬猫たちの裏側には、誰にも見向きもされないでその生涯を終えていく犬猫たちがいる。面倒だからと散歩などは一切させず優しく扱われたことなど何もなく、絶望的な表情をした彼らが、保護団体に保護されてきちんとしたケアを受け、幸せになっていく様子を見るのがとても好きなのだ。
 
「これ見ていると、みんな可愛いから飼いたくなっちゃうんだよね」
「ここまでにするまでに保護団体さんがどれだけのお世話をしているかね」
「飼ったらお世話をしないといけないし、大変だろうけど、飼ってみたくなるんだよね」
「犬なんて散歩させないといけないし、面倒もちゃんと見ないといけないよ。そんなこと、できるの?」
夫の言うことは本当にもっともすぎる。
「みんなで面倒見ればいいじゃない? あなただって、犬を飼っていたときは面倒見ていたでしょ?」
「その頃はあんまり僕は見てなかったけどね」
「家族なんだから一緒に面倒見るのも義務でしょ? 飼えないかなあ」
 
夫がまだ独身のころ、実家で犬を飼っていた。かなり長いこと生きたから、家に犬がいる生活には慣れているんじゃないかと思って話してみたが、どうも乗り気ではない様子だ。
 
「可愛いからって、飼って、でも面倒を見切れなくて、もし病気になったとか死んでしまったなんてことがあったらどうするつもりなの。可愛いから飼いたいけど面倒はたいして見たくないっていうのは、自分勝手にペットを捨ててしまう飼い主と同じだと思うけどね」
「……」
 
畳み掛けるように夫は言った。
確かに、現実として考えた時、自分は毎日十分に犬の世話をしてやれる毎日ではないと思う。仕事で1日の大半を終えて帰宅するとクタクタ、とてもじゃないけど夜に散歩に連れ出してやる気力もない。
 
「君が言い出して飼ったとするよ。でも面倒がきちんと見れないのならやめておいたほうがいいんじゃないか。『可愛いから手に入れたい』だけで無理矢理手にすることだけが目標なの? ペットだって命があるんだよ。おもちゃじゃないんだよ。僕は飼っていたことがあるからわかるけど、最後まで責任持って面倒見ないとダメだ。もしそれができないんなら、最初から飼わない方がいい」
 
そう真正面から言われて、返す言葉もない。
可愛いから飼ってみたい。そんな単純な動機で命をお気軽に手に入れるのは、やはり流石に違うよなとは思う。
 
普段はそう思っていても、可愛らしい動画に負けそうになる自分がいる。手に入れたいからといってなりふり構わず手に入れることが本当に正解なのか。感情に流されそうになった時ほど『行動を起こさない』ことも選択肢として考える必要があるのではないだろうか。いつの間にか夢中になっていたことならばなおさら、少し心を離してみて冷静に考えてみなくてはと思わせる出来事だった。
 
 
 
 
***

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2021-05-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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