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異世界転生は、生きづらさへの特効薬


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記事:山本和輝(ライティング・ゼミ 超通信コース)
 
 
私はアニメが大好きだ。NetflixやAmazon Prime Videoに加入しているが、その中でも圧倒的にアニメ作品を見ることが多い。これらのサービスを利用している人ならきっと目にしたことがあると思うが、次々とリリースされる大量なアニメ作品の中にある種のカテゴリーが異常に多いことに気づくはずだ。
いわゆる「異世界転生もの」と言われる人気分野だ。
異世界とはいわゆるパラレルワールドのようなものだ。その世界には人間以外に耳の尖ったエルフ、筋肉質でガテン系の容姿のドワーフ、猫耳としっぽのある獣人、大きなとんがり帽子をかぶった魔法使い、ドラゴンなどの魔獣も出てくる。
ドラゴンクエストのようなロールプレイングゲームや、映画であれば「指輪物語」などのファンタジーの世界観をイメージしてもらうとわかりやすいだろう。人によっては好き嫌いが分かれる分野だとは思うが。
ただ「異世界転生もの」はそれらのファンタジー作品とは少々違う。ファンタジー世界の話でありながら、現世とのつながりを持っていることだ。お話は概ね主人公が現世の記憶を保ったまま異世界に転生することから始まる。主人公は現世でいじめにあっていたり、ブラック企業でこき使われ疲弊したサラリーマンであったり、40代の引き込もりであったり、いかにもありそうな不幸な境遇である。
彼らはその不遇から抜け出せない中、事故などで命を落とし、それがきっかけで異世界に転生する。そして転生の際に得たなにかの力を得て道を切り開いていく。いわゆる、弱っちく情けない人物が、新天地で人生をやり直し、何かを成し遂げヒーローとなっていく物語となっているものが多い。
今の世の中は格差社会で、未来が見えにくい閉塞感の中で生きている人が多いといわれる。異世界転生ものが人気なのは、そんな今の時代に生きる人たちの共感を得ているからかも知れない。
思えば、私の50年を超える人生も、失敗と後悔、閉塞感を味わうことの繰り返しだった。
上手くいかなくて、行き詰まりを感じたことは、数限りなくあるし、ビルから飛び降りればもう悩まなくても済むだろうと思い詰めたこともある。異世界転生ものの主人公のように追い詰められ、夜も眠れずに叫び声をあげたりした時期も多かった。
その最初は大学生活だ。周囲の猛反対にあって、望んでいた芸術系の学校へ行くことができなかった。大して興味もなく入学した大学では、アーティストに近い軽音楽部の活動にドップリつかり、目的の無い自堕落な人間へとなり下がった。就職にも希望が持てず2年も留年した。そのまま自分のアーティストへのこだわりに捕らわれていたら、今の自分は無かったかもしれない。結局、会社という未知の世界へ足を踏み入れる決断をした。
会社での最初の仕事は広告営業だった。徹底的に自分の社会順応性の無さを思い知ることになる。周囲の同期社員が成果を上げるのに、1件も受注できず3カ月が過ぎた。その時のマネージャーの計らいで、広告制作チームに異動になった。そこは隣の営業チームとは別世界だった。そこで私は初めて広告クリエイティブという適性に目覚めることになる。ゲームの中の職業チェンジのように私は本当に生まれ変わった気がした。
 
その後の転職でもいろいろなことがあった。
転職先のベンチャー企業が、バブル崩壊で破綻したとき、同僚のほとんどが斡旋された不本意な仕事を受け入れてやり過ごそうとしていた。でも私は耐えられず九州から東京へ脱出した。自分自身が原因ではないものの、災害のように自分ではどうしようもできないなものだった。ゲームやアニメの設定では、天変地異で滅びようとする世界から脱出するようなものだったかも知れない。
 
また、魅力的な有名企業からのオファーで、まったくクリエイティブ要素の無い仕事へ転職をしたこともあった。好きな仕事ではなかったためか、人の気持ちを考えず機械的、事務的にガツガツ仕事を進めた。その結果、成果は出たものの部下から総すかんを食らい、上司から管理職のポジションを追われたこともある。私は地位もプライドもすべてを失い涙が出るほどのショックを受けた。もう自分の居場所は無いと悟り、そこを去ることにした。すぐに自分に合った転職先が見つかったのは幸いだった。
 
ごく最近だと、55歳の役職定年になった時の無力感、使い捨てられるサラリーマンの悲しい宿命を感じた時期もあった。もうすぐ60歳の定年を迎え、給料が半分以下になってしまうことや、事業に主体的に関われない状態に置かれ、心が枯れていく同世代の人たちを見ていると、明るい未来なんて感じることはできなかった。社会の仕組みに飲み込まれ「用済み」の烙印を押された心境は辛すぎる。でも1年半前、57歳になった私にも次の世界へ移る機会が突然訪れた。新しい仕事では、私の全ての経験、スキルを総動員できる環境を得ることができ、今も続いている。
 
一つひとつは、心が病んでしまいかねないほど重く、辛い人生経験だった。でも、その状況を抜け出して、全く別の場所に自分を置くことで、私はリスタートすることができている。考えてみれば、私はアニメの様に「異世界転生」をしてきたのかも知れない。逆境にもがき苦しみ、まったく光が見えない状況におかれていても、新しい異世界に身を置いてリスタートすることは、復活の特効薬にもなるのではないか。
 
もしあなたが、何かに行き詰まって、閉塞感を感じているのなら、全てを捨てて生まれ変わってみてはどうだろうか? アニメのような転生はできないとしても、ちょっとした決意と行動で自分を取り巻く環境は変えることはできる。これまで進んできた道に未練はあるだろう、まだ見ぬ道に不安もあるかも知れない。でも、自分を取り巻く世界をリセットすれば、閉塞感を抜け出し、前に進むことができると思うのだ。
さあ、あなたも「異世界転生」やってみてはどうだろうか?
 
 
 
 
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2021-06-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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