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大人の好き嫌いは恥だが役に立つ


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記事:宮崎亜子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「好き嫌いはいけません! 残さないで食べなさい!」
誰もが、子どもの頃に食卓で親に叱られた経験があるだろう。
あるいは、大人になった今、自分の子どもに口酸っぱく注意している方も多いだろう。
好き嫌いはダメ。そう教えられて、育てられてきたはずなのに、なぜか好き嫌いが全くない、という大人にはあまり出会ったことがない。
 
かく言う私も、納豆、甲殻類、パクチー等々、恥ずかしながら好き嫌いが多い方だ。幸か不幸か、親に甘やかされて育てられてきたため、嫌いな食べ物から逃げながら今に至る。
周りの友人・知人はと言うと、子どもの頃は厭々食べさせられていたが克服はできず、自分が大人になって叱る相手もいなくなった今、堂々と「嫌いなものは食べない」と宣言している人が多い。
 
タチの悪いことに、成長の過程で語彙力と理論武装する力を身につけた大人は、嫌いなものに対して自分を正当化するための「屁理屈」をこねてくる。言っていることは単に「○○は不味いから嫌い!」という子どものワガママと変わらないのに、言い方だけが大人になっている分、滑稽でもある。私の観察の結果、屁理屈は大きく次の3パターンに分類される。
 
パターン1:嫌いな料理や食材のディティールを掘り下げる人。
「トマトの皮が口の中に残る感じ、身の部分の青臭さ、種の部分のぐちゅっとした食感が苦手」など、普通に食べている人は気にしないような細かい点を指摘してくる。好きな人が好きな理由を語るよりも、具体的かもしれない。嫌いな理由が具体的であればあるほど、許されると信じているのだろう。
 
パターン2:嫌いになった理由をストーリーとしてまとめ上げる人。
「子どもの頃に、親父と初めて釣りに行ったんだよ。でも全然釣れなくて、親父の手を借りながらやっとニジマスが1匹釣れてさ。すげー嬉しくて。ピチピチ跳ねるのも可愛くて。で、持って帰れたんだけど、夕飯にそのニジマスが塩焼きになって出てきたわけよ。さっきまで生きてたあの目で俺を見てくるんだよ……。もうそれ以来、食えなくなったよね」
なるほど、なかなか感動的な話ではある。相手の感情に訴えかけて、食べられない理由を認めてもらおう、という戦法だ。
 
パターン3:開き直る人。
「〇〇は大して栄養はない」「食べなくたって死なない」
1,2のような具体的な理由はないが、意地でも食べないぞ、という強い意志を感じる。じゃあ今あなたが食べているそのアイスクリームに栄養はあるのか、食べないと死ぬのか、と突っ込みたくもなるが、食べる理由と食べない理由は違うらしい。
 
面白いのは、皆心の中では「好き嫌いは良くない」とは思っていることだ。それでも、好き嫌いを叱る親や先生がいなくなった今、嫌いなものは無理して食べなくてもよい、ということに気付いたのだ。
確かに大人の処世術を持ってすれば、好き嫌いがあって困ることはほとんどない。1人での食事はもちろん、友人と食事に行く場合も、事前に伝えておけば店やメニューを選ぶ段階で考慮できるし、大人同士「苦手な食べ物の1つや2つくらいあるよね」と許容しあえる空気がある。
子どもの頃の苦労はいったい何だったのか、と思えるくらい、好き嫌いから逃げても、人生に大して問題はない。
 
ところで、食べ物の好き嫌いは当たり前のように主張できるのに、その他のこと、例えば仕事や人間関係については、好き嫌いを主張できない人は多いのではないか。
苦手な仕事も、スキルを磨いて取り組まなければ……。
苦手な上司や同僚のことも、理解して仲良くならなければ……。
苦手な家事も、完璧にこなさなければ……。
そんな呪縛に、苦しめられていないだろうか。
 
かの大ヒットドラマでおなじみとなった「逃げるは恥だが役に立つ」という言葉がある。元はハンガリーのことわざで「問題から逃げることは恥ずかしいことかもしれないが、生き抜くことの方が大切だ」という意味である。
 
最近では、生き方・考え方にも多様性が受け入れられてきている。本音で生きる、好きな事で生きるというフレーズを耳にする機会も増え、そういったタイトルの本も多く出版されている。
好きなことを明確にする、とは、嫌いなことを明確にすることだ。もちろん、嫌いな人に向かって「あなたのことが嫌いです」と言う必要はないが、嫌いなものは嫌い、苦手なものは苦手、と、自分の本心を認めることも大事なのではないか。
苦手な人とも仲良くなろうとするから気疲れするのであって、最低限のコミュニケーションのみにとどめ、一線を引いた方が気楽である。だって、苦手なのだから。
 
私も、苦手な仕事から逃げたことがある。自分がやらなければならないのに、自分の仕事なのに。できなくて、苦しくて、押しつぶされそうになった。
そして、逃げた。あの時迷惑をかけた方々には申し訳ないが、逃げてよかった。立ち向かうより、逃げ道を探す方が、自分の人生にとっては前進だった。
そんな経験があったから、今の私は、できないことはできない、と自分自身に対して開き直るようになった。不思議と、できないことを主張することで、できる人が助けてくれたりする。できない自分を受け容れることでヘンなプライドがなくなり、協力を得やすくなるのかもしれない。それは、先に述べた、食べ物の好き嫌いを主張することで問題回避できる大人の空気感と似ている。
 
誰しも、好き嫌いがある。あっていい。
完璧になろうとしなくていい。
何を好きで何を嫌いか、はあなたの自由だ。
嫌いなものからうまく逃げるすべを身につけることも、生き方の一つだ。
世間の目が気になる?案外、「ふーん、ピーマン嫌いなんだ」くらいにしか、思ってないかもよ?
 
 
 
 
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2021-06-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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