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女がTバックを穿くとき 


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記事:小堺 ラムさま(ライティング・ゼミ)

今日のパンツ、何色?」
むかしむか~し、あるところに、飲み会の度に女子社員に対し、その日纏っているパンツの色を聞いてくるおじさんがおったとさ。
セクハラなんて言葉、あったかもしれないけど、そんなものはまだまだ形式的だった古き時代に、焼酎をしこたま飲んでいい気分のおじさんは、定番のように女子社員にパンツの色を尋ねてきたとさ。

パンツとは、スラックスやズボンのことを指すのではない。
女子が下半身に身に着けるランジェリー、とっても繊細で面積も少なくてひらひらしていて洗濯するときは、絡まないようにネットに入れて…ていうあの、「パンツ」のことである。
いくら酒の席も終盤を迎えたからといっても、こんな破廉恥なことを聞いてくるなんて、言語道断!だ。
その振る舞い自体が問題となり、職を辞さないといけなくなることは、現代においては当然のなりゆきであろう。
ところが、これはむか~しむかしの昔話なのである。
当時そのおじさんの昼間の品行方正すぎる勤務態度や、愛らしい人間味あふれるキャラクターも相まって、彼が糾弾されたり社会から抹殺されたりすることはなかった。
今これを読んでいる天狼院を担う若者達は眉をひそめるかもしれない。
しかし、優秀なライター予備軍の若き天狼員達よ、どうか物語を綴るつもりで想像してほしい。
日ごろから豊かな人間関係が根底に出来ており、お互いがセリフの行間を読めるほどに信頼していたのであれば、どうだろうか。
そして何度もいうけど、これはむかしむかしの昔話なのである。

女子社員は、おじさんの問いかけに対し、それぞれがうまい切り返し文句を用意していた。
「今日のパンツ何色?」
「おじさんこそ、何色ですか?」
「今日は間違えて父のパンツをはいてきちゃいました」
こんな感じである。
おじさんも、本当にパンツの色を尋ねたい訳ではないというのは、参加者全員が百も承知であり、日ごろは真面目で口下手なおじさんが酒の力を借り、なんとかその場を盛り上げようとしてやっていることだというのは、みんなわかっていた。
だから、朗らかすぎる猥談のような感じで場が流れていった。

ところが、こんな和やかな酒宴での一幕が一変する事態が起こった。

繁忙期に臨時で雇った職員の中に、やよいさんがいたのである。
やよいさんは、当時確か30代後半くらいで、どうやら離婚したばかりで働かざるを得なくなって、臨時職員に応募し、採用されたということだった。
普段は口数も少なくどことなく寂し気なやよいさんは、小娘の私が見ても妙な色気を放っていた。
でもそれは、安っぽい計算でなされたものではなさそうだった。
中年の女子社員達がヒソヒソと「やよいさんは男好きするから…」等と噂していた。
当時の私は男好きって言葉を知らなかったから、国語辞典をめくった。
「男好き~女の気質・容姿が男の好みに合うこと」
とあった。
うおーー、と私はめくった国語辞典を凝視したまま小さく唸った。
大半の男が好む女、それがやよいさんなんだなあ。
男というイキモノは、やよいさんみたいな女を好むんだ。
この時私は初めて認識した。
戸籍や生物学上の遺伝子で分別された「女性」というカテゴリーとは別に、そのたたずまいや雰囲気、文化といった括りで認識される「女性」という存在があるんだなあということを。
単なる性別で分ければ、女性は人口の半分はいるわけだ。
だけど、匂い立つようなメスである女、オスである男が好む女というのは、限られた一部の人だけで、それがこの職場ではやよいさんなんだということがわかった。
いったいどうやったら、やよいさんみたいになれるのだろうか?
私もやよいさんくらいの年齢になったら、あんな感じにミステリアスな魅力が自然と備わってくるのかなあ、なんていう期待をしてみたりした。
そして、「男好きする女」という言葉を辞書で引いたあの日から、私にとってやよいさんは、密かな憧れの存在となった。

そんな年末、職場で忘年会が行われた。
正社員、臨時職員すべてが参加する公式行事である。
やよいさんも採用されて初めての酒宴に参加していた。
いつもはさみし気で口数も少ないやよいさんも、そのほかの職員と混じって、ビールを飲みながら、饒舌になっていた。
あ、やよいさん、楽しそうだ、よかったなあ。
私は憧れのやよいさんが、ことのほか楽しそうにくつろいでいたので、ちょっと嬉しかった。

宴もたけなわが近づいてきて、定番の恒例行事である、セクハラおじさんが女子社員に
例の疑問をぶつけてきた。
「今日のパンツ、何色?」
「間違えて父のパンツをはいてきちゃった」
「逆におじさんは、何色ですか?」
決まり切った安定感のあるやりとりが交わされていく。
おなじみのいつもの光景。
そして、おじさんはやよいさんに近づいていつものように尋ねた。
「今日のパンツ、何色?」
はにかみながらやよいさんは答えた。
「Tバックです、黒のレースの…」
ティ、ティーバック…
しかも黒……
その場にいる一同が押し黙った。
生々しさに飲み込まれたのだ。
男好きするやよいさんが、黒いレースのTバックを穿いて、こちらを振り返りながらこちらを訳ありげな憂いを含めた表情でこちらを見ているイメージが頭に浮かんで離れなかった。
生まれながらのメスであるやよいさんのTバック姿は、やよいさんの元々持っている匂い立つ色気を増幅させた。
健康的な切り返しや冗談で、その場を取り繕ったり和ませたりする余力もなく、一同全員が完全にノックアウトされていた。
その酒宴の場に女性は20人近くいたけど、「女」はやよいさんただ一人だけに他ならなかった。
黒いレースのTバックを穿くことを天から許可されたのは、その場では唯一、やよいさんだけだった。

あの酒宴がどんな終わり方をしたのか、今では全く覚えていない。
そして今となっては、やよいさんがあの時、本当に黒いレースのTバックを穿いていたのか、それともやよいさんなりの冗談だったのか、真偽のほどは判然としない。
だけど、そんなことはどうでもよかった。
あの時から私にとって、Tバックを身に着けるということが、「女」として神聖な儀式のような意味を持った。
やよいさんのような、一定の条件を満たした大人の「女」だけが、それを身に着けることができるだろうと私は感じている。
Tバック自身が、手に取ってくれる女を選んでいるのだ。
もし、貴女が、ただ何となくデザインが気に入ってそれを購入したからといって、到底着こなせるものではない。
自宅に帰って着用した自分の姿を鏡で見て、何の文化も感じない無様な姿に己の心が火傷してしまうだろう。
今でこそランジェリー売り場で、カジュアルで機能的なデザインのものも増えてきて、手に取りやすくなり、敷居は下がった感覚はある。
だけどTバックはTバックなのである。
まだTバックを穿きこなせる器が備わっていない女性が、いっぱしの「女」になるため、自分を奮起させるために敢えて着用するのは、大いに結構だと思う。
また、忙しい現実に流され、自分が「女」であることを忘れてしまっている女性たちに、敢えて贈り物としてTバックを贈り、心の中の女を再び呼び起こす役目とするのも大賛成だ。

先週のホワイトデーに私は、仕事に邁進し自分を見失っている知り合いの女性たちにTバックを贈った。
それぞれの女性たちの個性に合わせたデザインを心を込めて選んだ。
彼女たちが今、それを着用しているかどうかはわからない。
だけど、贈り物の封を開け、Tバックと対面した時、自分が女であることを少なからず思い出してくれたはずだ。
Tバックは男の為に穿くのではない。
女が自分の為に、真の女であることを改めて自覚するために穿くものなのだ。

そんな私は、20代後半の一時期よりもTバック所有枚数も減り、着用機会も著しく減った。
全く、人にプレゼントしている場合ではないじゃないか。
私もあの日のやよいさんと、同じくらいの年齢になった。
現在の私の女度はやよいさんを超えているだろうか?
自分の女としての現在地を確認すべく、この原稿を書き終えたらTバックを買いに行こう、そして、Tバックを穿いた自分の姿を見てみよう。
 

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2016-03-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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