卒業証書は、もらえなかった。
記事:Ryosuke Koikeさま(ライティング・ゼミ)
*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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見慣れた校舎へと足を運ぶ。
教室へ続く階段を1つ1つ踏みしめて登る。
どれだけの日数通ってきただろうか。どれだけ多くの人が足を運んできただろうか。
階段を登った先の左手にある扉のノブに手をかけ、手前に引く。ざわついた声が室内から漏れ出してくる。チューターに挨拶をして、奥の方へと進む。
クラスメイトは既に多くがやってきていて、わいのわいのととりとめのない雑談をしながら授業が始まるのを待っていた。
生徒それぞれに決まった席はないので、空いている席に荷物を降ろした。先生はまだチューターと何やら打ち合わせしているし、四方から聞こえ話し声も止む気配はない。始業時間まであともう少しだが、遅れるのだろう。
よくよく周りを見渡してみれば、あるカテゴリーに無茶苦茶精通している男性や、最近転職されたばかりの女性、遠距離恋愛中の人などなど……、実に多種多様なクラスメイトたちであることに気づく。
時計が午後7時半を少しまわると、壇上に先生が姿を構えた。チューターの授業開始を告げる声が響き渡り、がやがやとしていた教室内は波を打つ潮が急に引くように静まり返った。
先生の授業が始まった。
私が高校生だったころ、「衛星予備校」とか「サテライト授業」といった言葉を聞いて、勝手に、通信衛星を使ってリアルタイムで全国の受講生向けに授業を行っているところなんだすげーと想像していたが、それから20年近くも経つと、本当にそんなことになっているのだから、科学技術の進化のスピードは凄まじいと思う。
前半に講義を聞いたあとは、後半にテスト、答え合わせと学習が続く。
みんな真剣である。そりゃそうだ。仕事が明日の朝もある人がほとんどだろうに、お金を払って日曜の夜にこうやって学びにくるくらいだから。
全国で約100名受けている2時間の授業はあっという間に過ぎた。
そして、1年間にわたって行われてきた授業も、終わりを迎えることになった。
年齢を重ねるほど時が経つのを早く感じるようになるというが、30代になってみて本当にそのとおりだなと思う。
1年間は早いようで、短い。あと数日で新年度だ。仕事でも新しい出会いがあるだろうし、家庭でも新しい生活が始まる。
「はい、こんな感じで授業を終わります」
先生が授業を締めくくったところで、1つ気になったことがあった。
言おうか言うまいか迷っていた。他の誰も言及しようとしていなかったからだ。
質問の時間もあったものの、そうこうしている間に、授業はいつもと同じように終わってしまった。
教室を出て、階段を降りる。外はすっかり暗くなっていた。
全ての課程は修了した。退学させられたわけでも、留年したわけでもないけれど、なんだかすっきりしなかった。
「今日で授業は終わりですが、卒業証書はもらえないのですか?」
こう尋ねるつもりだった。
先日テレビを見ていると、地元の小学校や中学校、高校の卒業式の映像が流れていた。
ベルトコンベアーで製品が運ばれていくように、児童や生徒が列をなして壇上をあがり、校長先生から厳かに卒業証書を受け取り、自席へと戻っていく。
長い人生、1つ1つの生活や課題には区切りが必要である。
新しい生活や次なる挑戦のために、これまで頑張ってきたことの証明として、能力を客観的に示す証拠として、修了証や完了届が欲しいところである。そして、学校生活であれば、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学ともらってきた卒業証書だろう。
私は、この1年間で成長したのだろうか。次のステージへと登れるのだろうか。
家に帰ると、この学校のSNS上のグループには、最後の授業が終わったばかりにもかかわらず、早速課された宿題を提出している者がいた。
クリックして開いた解答案を眺めながら、アップするの早いなあと思っていたところで、ふいに気づいた。
私の、私たちの学校での授業は、本当に「終わった」のだろうか。
中学校で言えば、学習指導要領に定められた課程を修了することが、完成である。
仕事のプロジェクトで言えば、イベントを無事終了したり、制度を設計し運用を開始したりすることが、1つの区切りである。
このライティング・ゼミの講座で言えば、なんだろうか。この講座で私は、何か造りあげただろうか。
確かに、毎週メディア・グランプリに投稿し総合2位を取ったこともあった。昨年の冬にはちょっとした賞をもらったこともあった。そして何よりも、福岡をはじめ、全国にたくさんの知り合いができた。
けれど、学んだことを活かして世の中の役にたったことは?
会得したことを使って自分のやりたいことに取り組んだことは?
まだ何もない。
そう、授業は終わったわけではなく、ようやくスタートに立っただけのことなのだ。
これからの様々な方法、場面で、学んだ技術を活かした文章をつくりだしてはじめて、完成なのだ。
いや、ひょっとしたらこの授業には終わりなどないのかもしれない。
この地球上では紀元前から多くの人が文章を書いてきた。今も残る著名な文章もあれば、戦火や災害で失った文章もあるだろう。生活を送る上での普通の人々が書いてきた文章などは無数に生まれ、その役目を果たしすぐに消えていっただろう。
出版不況と言われる現在の、この瞬間もなお、物理空間を越え仮想空間においても至るところで文章は生み出され続けている。
人に読まれる文章とは?
読んだ人のためになる文章とは?
そういえば、いつの日かの先生のつぶやきを思い出した。
「こうやって皆さんと授業をやっていて、僕も学ばせてもらっています」
あの先生ですら、まだ途上である。
卒業証書など、もらえるわけがない。
娘が新年度から通う保育園の道具を整理していると、お便り帳を見つけた。
カレンダーのように1年間各月ごとに毎日の枠が設けられていて、登校すればその日の枠にキャラクターのハンコがもらえる。病気などで欠席すれば空欄のままだ。
書かなければ衰えていくと、先生は言った。
ライティング・ゼミの講座はとりあえず一区切りしたが、4月からまた進化した講座がはじまるという。加えて、今まで以上に多くの「本」を中核としたイベントや講座が催されるようである。
そこにはライティングに興味があるだけの人、既にその分野で働いている人。一から勉強したい人。より技術を磨いていきたい人。とにかく本が好きな人。単に一人の空間が欲しい人。初めて天狼院に来る人。常連の人が集まるはず。
きっと新しい出会いがそれぞれ訪れる人に待っているだろう。
パソコンを閉じる。
私にもあと数日で忙しい生活がやってくる。
せっかく学んだ1年間。空欄はつくらないようにしていこう。
卒業だけど、卒業証書はいらないんだ。
***
*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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