メディアグランプリ

つれづれなるままに、桜の季節を迎える度に思うこと


記事:Mizuho Yamamotoさま(ライティング・ゼミ)

 
*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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「桜の樹の下には屍体が埋まっている」

梶井基次郎は言った。

 

あの美しいピンク色の花を見るとわかる気がする。それくらい桜の木は、人々を怪しい気持ちにさせるものだ。

 

この冬、突然に私のお気に入りの桜の木が、切り落とされてしまった。

 

我が家に続く上り坂の、右手に枝を張った桜の木は、花が密集していてどこの桜よりも美しく、道行く人を楽しませた。

 

その木の斜め前が、タクシーの待機場所でもあり、運転手さんがよく、

 

「ほんの短い時期ですが、待機時間が楽しくなりますね~。この桜を独り占めしているという贅沢さが嬉しくて……」

 

その木がいつの間にか、切り落とされていた。

幾枝かを残して、ぱっくりと肌色の切り口を見せて、寒そうに立っていた。

 

「桜切るバカ、梅切らぬバカ」

 

切っても切っても新しい枝を出す梅と違って、桜の枝は切ってはならないと言われている。

切られたらそこから二度と新しい枝は出てこないから。

 

新築の家の邪魔になったのだろうか?

新しい住人は、桜に嫌な思い出があったのだろうか? 真相はわからない。

 

体裁程度に残された細い枝にびっしりと、つぼみが濃いピンク色に染まり始めたころに旅に出てしまったので、咲いたところは見られないのが幸いだ。あの空間を、張り出した枝々が埋めていたのに、今はぽっかりと空が呆けたように見えるのはせつない。

 

小学生の頃、福岡から佐世保の祖父の家によく3歳下の従妹と泊まりに出かけた。桜木町という、桜並木の奥の公営アパートに、祖父は一人暮らしだった。

 

長期の休みは、必ず祖父の家に子ども2人で長い滞在をした。昼間は祖父が仕事に出かけていて、子ども2人で飽きるほど遊んだ。

 

春休みはいつも3月の終わりに、桜道に提灯が提げられ、4月1日から提灯に灯がともった。私たちの滞在予定は、提灯の灯がともるのも、満開の桜が咲くのにも間に合わなかった。

 

「おまえたちに満開の桜を見せたいのう」

 

「もう2日、ここにおらんか」

 

春休みの滞在には、必ず祖父が言った。

 

たまに提灯に明りが灯る頃まで滞在できたときは、従妹と2人で狂喜乱舞した。

 

夜の怪しい光の中で、膨らみ始めた桜のつぼみがいまにもポンと音を立てて開きそうで、ちょっと怖かった。

 

4月に入って福岡に戻った私に祖父から届いたはがきには、押し花にした桜の花びらが糊付けされていた。

 

「こういうことをしてくれるんだよね、じいちゃまは」

 

と母が、遠い目をしてつぶやいた。

 

小学生の私にはぴんと来なかったが、今思うに、私の周りの60代男性にこんな発想はない気がする。何とも浪漫のある祖父だった。

 

その桜並木の木々も、道路拡張のためにすべて切り倒されてしまったのは、小学校高学年の頃だったか。

車が離合するのがやっとだった桜道は、名前だけを残して、片側1車線の道路になった。

 

私が生まれてこの方、最も美しいと思った桜は、なんと! ワシントンDCのポトマック河畔の桜だった。

 

何が美しいか言うと、ブルーシートが皆無だからだと即答できる。

 

酔っぱらい客もいなければ、桜の淡いピンクをかき消すブルーシートの色彩の邪魔もない世界は、美しい。

 

人々は、ただただ桜を愛でながら、ゆっくりと歩く。お気に入りの枝の前で写真を撮る他は特別な行為はなく、桜の花の開花を喜びながら、春の訪れを心から歓迎するのだ。

 

もちろんブルーシート上の人々の楽しみに、水を差すつもりはない。

桜を愛でながら飲むお酒のおいしさは、私もよく知っている。「お花見天狼院」参加したかったなぁ。

 

一つ提案するならば、お花見にはブルーシートではなく、「ゴザ」を敷いてもらうと、桜の美しさを邪魔しないんだけど…… と思う。「ゴザ」ってなぁに?と言われそうだが。

 

防水性にも問題ありだし、第一値段が高いのが、「ゴザ」の最大の難点だろう。日本文化の伝統を継承するのは高くつく。

 

染色家の志村ふくみさんの文章に、桜色に布を染めるには、桜の花ではなく開花前の樹皮を使うのだとあったのを覚えている。桜の木は、花を咲かせる前に木の内側が桜色になっているのだと。

 

国語の教科書で生徒たちと学んだのだった。

 

見えない部分で着々と開花の準備を進める桜の木の様子に、

 

「なんか、桜っていい! 」

 

と生徒たちが反応したのを覚えている。

 

世の中に耐えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし  在原業平

 

ひさかたの光のどけき春の日にしず心なく花の散るらむ  紀友則

 

はい、みなさん、ここでいうところの「花」

とは、何の花をさすのでしょうか?

 

ハイ!

ハイ。

ハ~イ!!!

 

「桜で~す」

 

そうですね!和歌の世界では、「花」=「桜」なんですね。

 

「日本人って昔から、どんだけ桜が好きなんだ」

 

ヤンキー中学生にもわかるくらいに、日本人は桜が好き。

 

さぁ、今年は桜前線の北上を追いかけて、のんびり一人旅に出かけてみるかな?

 

何とも穏やかな気分で眺められる今年の桜。さて来年は、再来年はどうだろう?

 

桜のように年に1度は開花できるよう、ライティングの準備も怠らないようにせねば!

 

 

***

*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。

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2016-03-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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