居酒屋店員のヒミツ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:宮崎亜子(ライティング・ゼミ日曜コース)
居酒屋に行かなくなって、どのくらいになるだろう。
先日、東京に4度目の緊急事態宣言が発令された。飲食店には酒類提供停止が要請され、いつになったら飲み会ができるんだ! という不満とともに、居酒屋やレストランからも怒りや嘆きの声が上がっている。
私はお酒を飲むことも好きだが、飲み会や居酒屋という、飲む空間や環境そのものが好きだ。美味しいお酒と食事による高揚感。一緒にいる友達も、周りの知らないお客さんたちも、みんながみんなお酒に酔って、”ちょっとダメな感じ”になっている、あの一体感。家飲みでは感じられない、独特の熱量が、居酒屋にはある。
好きが高じて大学生の頃は居酒屋でアルバイトをしていた。新宿は歌舞伎町に立地する、30代から40代の社会人が多く訪れる店だった。基本的な業務は、注文をとって、料理を運び、食器やテーブルを片付ける。しかし、それだけではないハプニングがあるのが、居酒屋だ。
ある時、半個室の席にサラリーマンらしき男性2人が来店した。おしぼりとお通しを持っていくと、彼らの1人が少し困った顔で私にこう告げた。
「あとでもう1人来るんですけど、今日、その人の接待なんですよ」
「はい、承りました(失礼のないようにしろってことね)」
「でね、私、全然お酒が飲めなくてね。お願いがあるんですけど、私がウーロンハイを頼むので、ウーロン茶をウーロンハイってことにして持ってきてもらえませんか?」
当時学生だった私は、(サラリーマンの接待って大変だなあ……)と思いつつも、困っている彼には申し訳ないが、秘密を共有した気分で楽しくなってきた。さっそくバイト仲間に事の概要を伝える。
「D-6席、青シャツの男性のウーロンハイはウーロン茶」というメモが、従業員にしか見えない調理場に貼られる。
そうして何度となく、さりげなく、「お待たせしました。”ウーロンハイ”でございます」とウーロン茶を運んだ。そっと目くばせでもしたい気分だったが、バレないように、あくまでも淡々と。
2時間後、接待も無事に終わったようだ。ウーロンハイの彼は帰りがけ、小声で「ありがとう、助かったよ!」と笑顔で声をかけてくれた。
作戦成功!
なんだか、一緒に悪いことをした子どもの頃の仲間のようで、私も嬉しくなった。
またある別の日。
オープンスペースのテーブル席には30歳前後の男性客3人組。会社の同僚だろうか。飲みっぷりも食べっぷりもよく、ビール、串焼き、ビール、ほっけ焼き、さつま揚げ、ビール、ビール、と次々と注文が入る。盛り上がっているがうるさくもなく、感じの良いグループだった。
そろそろ締めという頃、彼らに呼び止められて注文を受ける。
「白玉クリームぜんざいと、抹茶アイスと、柚子シャーベットください」
おお、いきなりずいぶん可愛いものを食べるのだな、と思いつつ、オーダーを受ける。そしてデザートを運んだ。
「お待たせしました」と、注文の品をテーブルに置こうとすると、彼らの一人が小声で言う。
「すみません、これ、あっちのテーブルの方たちに出してもらえますか?」
彼がこっそりと指し示す方向には、OL風の華やかな女性客3人グループが談笑していた。
えー! これはナンパ?
と思いつつ、元気で感じの良い彼らの出会いを応援したい気持ちにもなった。私は笑顔で「まかせてください!」と言ってアイスを再びお盆に戻し、女性たちのテーブルに向かった。そして、人生で一度は言いたかったあのセリフを口にする。
「あちらのお客様からです」(私なりのバーテンダーのイメージ)
その後、彼らがどうなったのかは、想像にお任せしよう。
飲み会という場は、基本的に楽しいものだ。もちろん例外もあるが、居酒屋のお客さんはみな笑顔で、活力に満ち溢れていた。
そんなお客さんを見るだけでも楽しかったし、先のようなお客さんとのコミュニケーションも楽しかった。かしこまった高級レストランとはまた違う、居酒屋ならではの開放的な雰囲気だからこそ、お客さんとの距離も近く感じた。
ところで、居酒屋の由来をご存じだろうか。諸説あるが、江戸時代に「酒屋」で買ったお酒を持ち帰らず、店頭で「居」座って飲み始めた客が出てきたことから来ているようだ。酒屋の店主も店主で、つまみなんかを出すようになり、それがやがて現在の居酒屋の形態になったらしい。
つまり、客と店員の関係性から始まったと言ってもいい。
居酒屋店員は、お客さんの飲み会の場を楽しくするために、時に黒子となり、秘書となり、仲人となって、サービスを提供する。お客さんが楽しいと、店員も楽しい。その楽しさが伝播して、店全体が楽しくなる。
居酒屋特有のあの活気が、今となっては懐かしい。
また以前のように、居酒屋に気軽に飲みに行きたいな。
居酒屋の客も店員もみんな、いつの日かまた「乾杯!」が聞こえる日を待っている。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168
■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」
〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325