彼女の読んでいる本は……
記事:櫻井 るみ(ライティング・ゼミ)
*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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先月から職場に派遣さんが来た。
今この職場は、産休とか定年とかで離脱する人が多くて、その分こっちに仕事がまわってくるのだから人を増やしてほしかったし、彼女はそれなりに社会経験がある人みたいなので、助かったと思った。
彼女の名前はウエノさん(仮名)。
年齢は……、多分自分よりもちょっと年上。
女性に年齢を聞くのはためらわれるから、実際の年齢は分からない。
若いんだか年くってるんだか良く分からない顔をしている。
服装はパンツスタイルの多いうちの女性社員の中では珍しくスカートを貫いている。
打ち解けてから聞いてみたところ、派遣会社から渡されたうちの会社の規定のようなものに「服装・オフィスカジュアル」と書いてあったそうである。
「オフィスカジュアル」というものがよく分からなかった彼女は、職場見学の際にさりげなく女性社員の服装をチェックしていたそうだ。
その時、「男性はスーツだけれども、女性はスーツではない。確かにカジュアルで良さそうだけれども、かといってデニムを履いている人はいない……」と思ったそうである。
デニム以外の適したパンツを持っていなかった彼女は「スカートなら文句は言われないだろう」とスカートで来ることにしたのだと言う。
確かにデニムはどうかと思う。
が、たまに間違えたかのようなミニスカートもどうかと思う。
私は彼女に仕事を教える立場になった。
だから、彼女については一番接することの多い私が、この職場内では一番よく知っていることになると思う。
彼女は真面目で物覚えも悪くはないと思う。
図抜けて有能というわけでもないけど、決して仕事ができないタイプではない。
ただ、迷ったり、分からなかった時に、中々こちらに聞こうとしないのだけは何とかしてもらいたいのだけど。
それで間違えてることもあったし。
もっと、甘えても構わないんだけどな……、と教える方としては思うし、一度やんわりと言ったこともある。
「間違えて手遅れになったら、そっちの方がまずいから、迷ったり分からなかったら言ってください」
彼女はちょっと困った顔をしていた。
こちらが忙しそうだから、声をかけにくいというところはあるのだろう。
だけれども、間違えて余計な手間をかけさせられるよりは、よっぽどマシだ。
こちらのそういう思いが伝わったのか、それ以降はわからないところは聞くようになった。
まだまだ凡ミスはあるけれども。
それから、彼女は時間にはっきりしている。
朝は始業時間まで絶対に作業をすることはないし、お昼になったら頼んだ書類が途中でもお昼をとる。
言うまでもなく、時間になったらさっさと帰る。
残業するのが当たり前のうちの会社で、こういうタイプは珍しい。
派遣だからだろうか。
だけれども、たまに残っているときもあるので、決して残業が嫌というわけでもなさそうだ。
終わらなければ残る。
用がないなら帰る。
そこは彼女なりのルールがあるようだ。
それから……。
これは最近気が付いたことだけれど、彼女はいつもお昼に本を読んでいる。
ほぼ毎日。
むしろ読んでない日はないと思う。
日によって本の大きさが違うので、きっと読み終わったら次の本……というように、次々と本を読んでいるのだと思う。
どんな本を読んでいるのかは分からない。
なぜなら、彼女の読んでいる本にはいつもブックカバーがかけられているからだ。
白いブックカバーだった時もあったけれど、最近はずっと黒いブックカバーだ。
蔦と星のような模様のうえに「天狼院書店」と書いてある、黒いブックカバー。
聞いたことない本屋だ……。
正直、本には特に興味がない私にはどこの本屋なのか分からない。
本は買えればどこでもいいと思っているし、大手の本屋の方が目当ての本がすぐ見つかる。
それとも、私が知らないだけで「天狼院書店」というところは有名なのだろうか……。
彼女に聞いてみたいと思った。
が、中々聞けるチャンスがない。
というのは、彼女は12時半を過ぎると、机に突っ伏して寝てしまうのだ。
以前、机に突っ伏していた彼女を、部長が「ウエノさんがグロッキーだ」とからかっていたけれど、その時に「私、お昼に寝ないと午後眠くなっちゃうんです」と恥ずかしそうに言っていた。
お昼が終わった後聞けばいい。仕事中の雑談として聞けばいい。
それは分かってる。
だけれども、「何この人!? 人の持ち物チェックしてる!?」って思われたら……と思うと、なんだか聞きにくい。
でも、とても気になる。
「天狼院書店」という本屋が。
彼女の読んでいる本が。
彼女のことが……とても気になるのだ。
……って、職場のイケメンが思っててくれたらいいのになーということを、最近よく妄想している。
それならすぐに答えるのに。
「天狼院書店っていうのは池袋にある本屋さんで、本のチョイスが絶妙なんですよー!それに、本を売るだけじゃなくてその先の体験もできるようにって、いろいろと部活があって、私はその中でフォト部とライティング・ゼミっていうのに出てるんです。あ、あと、今はファナティック読書会っていうテーマに沿ったおススメの本を紹介するっていうイベントにもよく顔出してて、そこでのみんなのチョイスもすっごく絶妙で、楽しくて……」
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*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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