少女のおっぱいに詰まった何かがハジケた時
記事:小堺 ラムさま(ライティング・ゼミ)
22時ジャスト、私は職場のフロアの化粧室にバタバタと駆け込んだ。
バタンッ!
個室の扉を駆け込んできた勢いのまま締めると同時に、スカートの下に着けているストッキングとショーツを一気に降ろしながら、便座に腰を下ろすやいなや、用を足した。
個室で独りきりになり、心も、身も弛緩する瞬間だった。
しばらくして、やっと座っている便座の生暖かさに気が付く。
「何やってんだろう、私……」
心の中で呟く。
至急必要になったことで上司に頼まれた書類を一気に仕上げるべく、私は一時間前からもようしていた尿意を必死にこらえていたのだった。
「フーツ…」
ため息をついて、よろよろと個室から出て、洗面台に設置されている大きな鏡を見る。
鏡に映る私は、朝8時の出勤時、適当に施したままの化粧と顔の脂が混ざりあった、ドロドロな顔をしていた。
一方で目尻は、乾燥でチリチリになり、目は吊り上り、もはや何者をも癒せない表情をしていた。
「なんで、こんなになっちゃったんだろう…私だって、女なのに…」
戸籍の上で私の女歴は、39年。
そして、思い起こせば小学校4年生の10歳のあの日、学校の教室で、私が女としての「性」を痛烈に意識させられた出来事から、30年近い月日が経とうとしていた。
小学校4年生になったばかりの4月、私は父の仕事の関係で、緑の多いとても素朴な隣の市にある小学校へ転校した。
始業式の日、緊張した面持ちで4年2組のみんなに、仲よくしてくださいと挨拶をした。
転校するのが初めてだったので、友達ができるかとても不安だったけど、まだまだ10歳で子供だったし、転校先が割と田舎でのんびりしていたこともあり、4年2組のクラスメイトもとっても優しい子ばかりで、私はすぐにクラスに打ち解けた。
クラスでは、純子ちゃんという、とても活発なおかっぱ頭のバスケットボールが得意な女子と一番仲良くなった。
当時、私は10歳なのに身長160センチメートル近い、ガリガリのノッポでクラスで一番背が高かった。
純子ちゃんは品疎な私に比べて、しっかりした体つきで、私の次に背が高く、背の順で並ぶといつも前後していた私と純子ちゃんは、必然的に話す機会も多くなり、どんどん仲良くなっていったのだった。
帰り道が途中まで一緒だったこともあり、毎日一緒に帰りながら、当時大流行していた光GENJIの誰オシかという話題でキャーキャー言いながら盛り上がっていた。
昼休みは、教室のオルガンで猫ふんじゃったの二重奏をしたり、校庭の鉄棒でブルマを丸出しにしながら鉄棒でクルクル回ったりして遊んでいた。
漫画雑誌「りぼん」の付録についていた、交換日記ノートを使った交換日記も純子ちゃんとやっていた。
4つ年が離れた弟しかいない私に比べて、純子ちゃんは中学生のお姉さんがいたので、ちょっとませていた。
交換日記をしようと言い出したのも純子ちゃんだった。
隣のクラスのパチンコ屋の息子の丹下君が学年で一番かっこよかったので、どうして丹下君はうちのクラスじゃないんだろうか?丹下君じゃなくて、どうして岩本みたいな毎日ドリフの話しかしないおバカな男子しかうちのクラスにいないんだろうね、だいいち岩本は志村けんのマネばっかりして、子供なんだよねえ、あの坊主頭もどうせ家でバリカンでやってるんだよ、ということを私達は毎日真剣に議論していた。
夏休み、私と純子ちゃんは一緒に課外授業で市民プールに通った。
ガリガリの私は、クロールをすると、スクール水着の肩のところがいつも抜けそうにな
ったので、母に肩ひもを縫いこんで縮めてもらった。
逆に、純子ちゃんは肉付きも良かったので、中学生のお姉さんのスクール水着が丁度いいと言い、実際にしっくりきていた。
私も純子ちゃんも、水着で覆われていない部分は焼きすぎたトーストのようにこんがりと日焼けをして、水着で覆われている部分は、真っ白けだった。
プールから上がってシャワーを浴びながら、わざとお互いに水をバシャバチャと掛け合って、ギャーギャー言いながら更衣室で騒いで着替え、それぞれの自転車で立ちこぎをしながら、家に帰った。
夏休みが終わり、2学期が始まった。
学校では10月にある運動会の練習が始まった。
私と純子ちゃんは4年生の学年演技種目である創作ダンスの実行委員になっていた。
実行委員の皆で放課後残って、ダンスの振り付けを考え、皆で踊ってみた。
その間、他のクラスメイトたちも、リレーのバトンパスの練習をしたり、玉入れの玉を修理したりそれぞれが運動会に向けて頑張っていた。
10月ともなると夕暮れ時になれば、ひんやりとした空気が流れている。
夕焼け小焼けの歌のイメージ像になるほどの茜色の空の下、一生懸命ダンスの練習をした。
大人になった今では、10月頃の空を見上げ、風に吹かれると無条件に切なさがこみあげてくる。
今年もまた秋が来たのね…という月日の経過の無常を感じる切なさである。
でも、まだ小学校4年生だった私には、切ないという感情は芽生えていなかったようで、空の色や漂う空気がどんなに秋を深めていったとしても、ただ無邪気に何も知らずに全力でダンスの練習をみんなと取り組むことができたのであった。
運動会の練習は、18時までで終わりと決められていた。
私達は、運動場での練習を切り上げて、それぞれの教室に戻った。
半袖の白い体操服と紺色のブルマで練習していて、着替えるのも面倒だから、体操服のまま下校していた。
だけど、ちょっとその日は肌寒かったのだ。
半袖とブルマじゃあ寒いから、純子ちゃんも私も着替えようということになった。
その時、外でリレーの練習をしていた男子達が教室に入ってきた。
リレーの選手5人の中には、おバカの岩本もいて、ドヤドヤと教室に入ってきては、志村けんの「アイーン」というギャグをやったり、他の男子と小突合いをしながら、教室の後ろのスペースでふざけ合っていた。
「もう、男子、うるさーい!岩本、静かにしろよ!」
私が言った。
純子ちゃんは、「いいけん、早く帰ろう。8時のベストテンの光GENJI見たいもん。」と私に言った。
そして、純子ちゃんは私の隣の席で、立ったまま体操服の裾を両手で捲りあげ、着替え始めたのだった。
純子ちゃんに促されるように私も早く着替えようと思って、ブルマの上にスカートを履こうとしてスカートを両手に持ち、脚を通そうとして身をかがめたその時だった。
純子ちゃんを凝視している岩本を見たのだった。
教室の後ろのスペースで他の男子とふざけ合っていた岩本は、一人だけ固まって直立し、視線は教室の真ん中の席で着替えている純子ちゃんを見つめていた。
見つめているというより、たまたま見てしまい、そのまま視線が釘付けになっているようだった。
他の男子は依然としてふざけ合っている中で、岩本の時間だけが止まっているようだった。
少しも動かない岩本は名前のとおり岩みたいに動かなかった。
いや、動けなかったのだろう。
目は、これ以上開かないだろうというほどに見開かれていた。
私は、これまで見たことのないような岩本の深刻な様子に圧倒されて、スカートを脚に通すのも忘れ、着替え中の身をかがめたままの姿勢で、岩本の視線の先である純子ちゃんを見上げた。
純子ちゃんは、両手で体操服の裾を持ってめくりあげた姿勢だった。
体操服の下は、当然何も付けていなかった。
腕と肩のあたりはこんがりと日に焼けて、水着の跡がくっきりと残っている肌がよく見えた。
再び岩本に視線を戻すと、依然として純子ちゃんを見つめていた。
体操服を捲りあげた両腕を上にあげている純子ちゃんの顔は、体操服に隠れていて見えなかった。
でも、腕を上げているせいで、小さなおっぱいが完全にあらわになっていた。
こんがり焼けた腕と対照的に、白く光っている純子ちゃんのおっぱいは、つい今しがた、何かが弾けた直後の様相をしていた。
大好きなプチトマトを口に入れ思いっきり噛んだ時に、青々しくジュルジュルした中身がプチッと弾け出てくる味と感触を思い出した。
まだ完全に熟れてはいないけど、野菜の味はしっかりとしているそんなプチトマトの味を想像して、口の中が唾液であふれた。
そして、いつもの体育の着替えでも、夏休みのプールでも見慣れていた純子ちゃんの裸なのに、急に恥ずかしくなってきたのだった。
もう一度岩本を見ると、何と目が合ってしまったのだった。
見てはいけないものを見た気がして、私は急に眼を反らした。
急いでスカートをはいて、私は体操服の上は着替えずに、着替え終わった純子ちゃんと一緒に教室を出た。
純子ちゃんと帰ったけれど、何を話したのか覚えていない。
その日家でお風呂に入るとき、脱衣所の洗面台にある鏡で自分の体を見た。
ガリガリの私の胸を、そっと掌で触ってみた。
ただの板みたいだと思っていた私の胸は、わずかな膨らみを帯びていた。
掌で胸をさする自分が映っている鏡を凝視した。
すると純子ちゃんのおっぱいを見つめていた岩本の眼が脳裏に浮かんできた。
岩本はガキだと思っていたけど、純子ちゃんのおっぱいを見ていた。
純子ちゃんの弾けそうなおっぱいを見て岩本は何を想っていたんだろう。
そして、純子ちゃん程ではないけれど、私の体も確実に大人へと成長していることを
しっかりと感じたのであった。
翌日学校へ行き、何事もなかったかのように運動会の練習をしたけど、さすがに岩本の目をまともに見ることができなかった。
岩本も同じく、私とは目を反らした。
夕方、私は母にせがんでダイエーへ行き、ブラジャーを買ってもらった。
初めてブラジャーを付けて行った日、胸を隠すためにブラジャーを付けているのに、ブラジャーをしていることを誰かに気が付いてもらいたい、そんな裏腹な矛盾する気持ちでいっぱいだったことを今でも覚えている。
今私は、女として社会で生活しているけど、自分が女であることに目覚めたあの日ほど、自分が女であることを意識してはいない。
当たり前になっているのか、それとも慣れすぎて大切な何かを忘れているのか…
女であることに気が付いた時の戸惑いと驚き、嬉しさ、そして恥じらい…
10歳のあの日、小学校の教室でめざめたあの感覚。
自分だけでは気が付かなかったその感覚は、異性からのまなざしで急にめざめさせられた。
残業続きの中、トイレの鏡に映る39歳の自分の顔を見つめたまま、掌を胸に当てそっと這わせながら、今日こそは終電前に帰ろう、そして、夜までやってるアロマエステで自分を癒しに行こう、そう誓った。
***
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