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葬儀の仕事は「ありがとうの料理人」である理由


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記事:よっちゃん さま(ライティング・ゼミ)

ある日の午後、昼食を終えて久しぶりに平穏な一日になるのかと思っていた矢先、『プルルルル!!』とけたたましく電話の音がオフィスに響いた。
電話を取ったスタッフの声のトーンが緊張感を持った声色に変わる。
あ、仕事だな……
「仕事が入りました。◯◯病院5Fの503号室。お名前が◯◯◯◯さんです。ご自宅にお帰りの予定だそうです。連絡を下さった方は御子息の◯◯様です」
「了解。じゃあ今日は僕が行くよ」
平穏な一日は、一本の電話で急に慌ただしくなる。
もう、この仕事を起業してから15年になるというのに、未だに緊張とも不安感とも形容し難い重苦しい気分になる。
よっしゃ! やるぞ! といった気分になれない僕は、いつまで経っても本物のプロフェッショナルとは言えないのかもしれないな……。
そんなことを思いながら、お迎えに行く準備を進める。
病室に着き、ご家族に一礼をしてから簡単なご挨拶を済ませ、故人をストレッチャーに移動させる。
いつも見慣れた光景ではあるものの、やはり人の悲しそうな顔を見るのは辛い。胸が締め付けられる思いがする。
と同時に、失敗は許されない。しっかりせねば。という緊張感が改めてぴんと張り詰めた空気感に引っ張られるかのように自分の中に湧いてくる。

故人が長年、慣れ親しんだ自宅に着き、故人を安置した後に大急ぎで枕飾りと呼ばれるお参りの出来る形を作る。
そして、ご家族の希望の葬儀の日程や内容に沿って見積もりを作成していく。
そうした流れで、お葬式の仕事というのは進んでいく。
この仕事を十五年経験して、僕はこの仕事を「ありがとうの料理人」ではないかと思う。

料理人というのは、準備した食材から様々な料理を作り上げていく。旬の物が手に入った時には、その素材を生かして季節感のある料理を作ったりもする。しかし、作るだけではダメだ。美味しいからこそ、人に評価されるのが料理人だ。

人はなぜ、お葬式をしなければならないのか?
近年は、お葬式をしない人も増えてきていると聞く。
恐らく、この問いに対して明確な答えを見出せない、つまり「価値」を理解できない人が増えてきているからなのだろう。

葬儀業界の人なら必ず一度は読んだことがあるであろう、
葬儀概論という本がある。
業界の虎の巻のような本だ。その本の中には葬儀の意味とは、下記の4点が主な意味であると書かれている。

1. 死体の処理(公衆衛生上の目的)
2. 故人の魂をこの世からあの世へと引き渡す儀礼としての意味
3. 故人の社会的なお別れの意味
4. 悲嘆の処理(遺族の)

(引用 表現文化社 葬儀概論より)
今読み返してもなるほどなと思う。しかし、これらは決して間違いではないと思うけれども、本当のところの価値はそこには無いのではないか。
だからこそ、『お葬式をしない』という選択をする人が増えてきているのではないだろうか。

僕は、この仕事を通じて伝えたい『本当のお葬式の価値』はこれらではなく、別なところにあると思っている。
それは、「ありがとう」といった『感謝の気持ちを伝える場を作るため』にお葬式をする必要があるのではないかと思う。
更に詳しく言うならば、『今日までの感謝の気持ちを伝える事によって、親から子、子から孫へと命が受け継がれているということにも気付き、お葬式を通じて、今ある命の尊さや先人を敬う気持ちを改めて持つ』事がお葬式をする意味であり、価値なのではないかと思っている。

だから僕は、ご家族を無理やり泣かせるような演出などは一切しない。
涙は出させるものではなく、自然と出てくるものなのだ。
ただ、「ありがとう」を伝えていただくための空間作りは徹底的にする。
百人いれば百通りの背景や生き様があり、そこにはどんな映画や小説にも負けないストーリーが存在するのだ。僕達は葬儀のプロとして、また、「ありがとうの料理人」として、短い時間の中でその素材となる故人の背景や生き様、嗜好品の果てまでお伺い出来る限りの事を尋ねる。
そして、それらの素材を可能な限りの全てを使って、ご家族が「ありがとう」を伝えられる為の空間を作る。
そして、僕達が作ったその空間で、故人とただお話がしたい方はゆっくりとお話をされている。ただ泣きたい方は涙が枯れるまで泣くという方もいらっしゃる。時には笑い声や拍手が起こることもある。人それぞれがそれぞれの形でお別れや感謝の気持ちを伝えているのだ。しかし、最後にはほぼ100%の人が故人に対して「ありがとう」と感謝の言葉を述べられている。

僕は、葬儀のプロとして葬儀の質で「良かった」と言ってもらいたいと思っている。
つつがなくとか滞りなく葬儀を終えるのはプロなのだから当たり前だ。
料理人が「時間通りに料理をお出しします」だとか「温かい料理を出します」などとは言わないのと同じことだと思う。

今も、ご家族からのお話を伺いながら、今日はどんな「ありがとう」の場を作ろうかと思考を巡らせている。
「さよなら」より「ありがとう」で送り出すお葬式の場の為に……
 

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2016-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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