激辛モンスターとの戦い
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記事:篠原蘭 (ライティングゼミ・集中コース)
私はコンビニの新規オープンが好きだ。
棚いっぱいに商品が詰まった姿を見られるのはオープンの時だけだし、特に一人目の客として入店し、一人目の客として会計を済ませるという「コンビニオープンチャレンジ」において完全勝利する事が目標だ。
一人目の客として入店し、一人目の客として会計を済ませるというのは、基本はただ早く行けばいい。しかし、このチャレンジは、思わぬ人物に勝利を阻まれる事がある。
私は彼らを「モンスター」と呼ぶ。
私が初めてモンスターに遭遇したのはこのチャレンジを始めて2回目の事だったと思う。朝7時オープン予定が「準備が出来たから」という理由で6時30分ごろにオープンしていたのだ。おかげで、6時40分に私が到着するとすでに買い物を終えたお客さんがコンビニから出てきたのだ。
普通に買い物したい客としては、ありがたい事なのだが、この「せっかちモンスター」により私のチャレンジは失敗に終わった。教えてほしかった、準備が出来しだいオープン時間を早める可能性があります。という事を……
中でも一番印象的だったモンスターが、「激辛モンスター」だ。
それは2020年2月の事だった。当時、世間では未知のウイルスであるコロナへの不安が広がり、深刻なマスク不足が話題になっていた。この時、新規オープンのコンビニならマスクが入荷するかも? という噂もあり、私としては「これは早くいかないと」と思っていた。事前に朝7時オープンだと確認済みだ。
何度もいうが、コンビニオープンチャレンジでは一人目の客として入店し、一人目の客として会計を済ませる事が完全勝利の条件だ。この時は、マスク狙い層は入店後マスク売り場へ行ってからレジへ行くので、最短ルートでレジへ行けば、会計の一番は狙える。問題は、一人目の客として入店する事になる。つまり、まだ誰も待っていない状態で到着すれば完全勝利は確定だ。
いつもよりかなり早くベッドへ入った私は何度も脳内で、「ファミチキ1つ」と渾身のドヤ顔で言う自分を思い浮かべながら眠りについた。
決戦の日、朝6時30分少し前、私がコンビニに到着するとまだコンビニには誰もいなかった。貰った。これは完全勝利だ。ニヤつく口元はマスクで隠れている。昨晩に続き脳内で「ファミチキ1つ」を繰り返した。
しかし、ここで予想外の出来事が起きたのだ。6時40分、オープンの20分前の事だ。
「え?このコンビニ開いてないの?」
いかにもオール明けというような陽気なお兄ちゃん達が現れた。外の準備をしていた、スタッフが「7時からオープンです 」と伝えるが、「話題の辛くてヤバいカップ焼きそば売ってます?」と、引き下がらない。対応に困ったスタッフは一度店内に戻っていった。私は「朝から酔っぱらいの相手なんて大変だな」と思いながら、スマホを見ていた。
「こういうのSNSとかに上げるんすか?」
お店の外に今、いるのは私だけだ。私が顔を上げるとスタッフに絡んでいたお兄ちゃん達が私に絡んできたのだ。
「あぁ、まぁ、上げますけど……。その為では……」
予想外の展開に歯切れの悪い返事しか出来なかった。確かに、SNSにこの日の事は上げるつもりだっが、アクセス数やいいねの為に上げる訳ではない。自己満足の戦いの記録なのだ。
すると、店長と思われる人物が現れた。再び、オープンは7時と説明するが、辛いカップ焼きそばが欲しいと引かない。どんだけ辛いの食べたいんだよ。
私は彼の事を「激辛モンスター」と名付けた。
そして、店長が下した決断は「店内には7時まで入れられないが、ドア越しに希望の商品を売る」だった。
私は、一人目の客として入店し、一人目の客として会計を済ませる為に並んでいた。特に、今回は一人目の客として入店さえすれば、完全勝利だと思っていた。それなのに、入店前に完全勝利の可能性が消えるなんて。
そうして、激辛モンスターはお目当ての激辛カップ焼きそばを買って嬉しそうに去っていた。私はそんな彼の背中を見ながら呪いをかけた。「そのカップ麺ちょっと湯切り失敗しろ!! 麺少し落として、より辛くなれ!!!!! でも、全部落とすのはもったいないから少しだ!! そして、誰よりもこのコンビニ利用しろ!!!!!!」
そんな激辛モンスターの登場により、完全勝利への夢は破れたが、まだ一人目の客として店内に入るという希望はある。そして、予想通りマスク狙い層の客もじわじわと増えてきた。
7時になりコンビニがついにオープンした。私以外がマスク売り場へ進むなか、何度も脳内で繰り返した言葉を口にする。
「ファミチキ1つ」
後ろにはマスクとお弁当を持つ客が列になっていた。会計後、私は棚いっぱいの店内をぐるっと回った。
「次こそ、完全勝利だ」
そう思いながら、コンビニで一人目の客として入店し、二人目の客として会計したファミチキを噛み締めた。
***
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