メディアグランプリ

本を贈るということは愛の告白にも似たような


本を贈る

記事:櫻井 るみさま(ライティング・ゼミ)

私は昔から誕生日プレゼントをあげることが得意だった。
「得意」という表現はいささかおかしいと思うけれども、でも、そう言うのがいちばん合っている気がする。

女子というものは、やたらとモノをあげたがる。
誕生日やクリスマスはもちろん、最近はバレンタインやハロウィンにまでお菓子やチョコレートを交換し合っている。
ご多分に漏れず、そこは私も女子であったため、小中学校時代のそういったプレゼント交換には参加してきた。
今でも人に何かをプレゼントしたがるのは、その頃の楽しかった思い出があるからだと思う。
人間関係を円滑にするために半ば強制的に参加させられたようなプレゼント交換でも、他人が私の選んだものを嬉しそうな顔をして受け取ってくれるのを見るのは、こちらも嬉しかった。
きっと「もっと喜んでもらいたい」という思いが高じて、今のプレゼント選びのセンスにつながったのだと思う。

 

大人になって、楽しいけれどもちょっと煩わしい人間関係から開放されると、人に何かをプレゼントするという機会はぐっと減った。
せいぜい1年に1回から2回。多くても3回を超えることはない。
だけど、回数が減った代わりに使えるお金が増えた。
そして、それなりに洞察力も付いたので、親しくしていればその人の好みが何となく分かってきた。
ハートが好き。
ピンクが好き。
ピアスは開けてない。
芸能人の○○が好き。
……等々。

何となく好みが分かったら、相手が負担に思わないくらいの金額で、その人のイメージに合うものを見つけ出せば大抵正解だった。
それから、男性にはなるべく実用的なもの、女友達には実用的でなくても可愛くて身につけられるもの、という傾向もできていた。

 

 

しかしそうは言っても、長いことお付き合いがあって、毎年毎年プレゼントを選んでいると、いずれネタは尽きる。
お中元やお歳暮のように毎年決まったものを贈るという手もあるけれど、やはり誕生日プレゼントは別格だし、何か残るものを贈りたい。

 

そこで私が選んだものが本だった。

それまで誕生日プレゼントとして本は選択肢になかった。
本を贈るということは、あまりにもハードルが高いと思っていたからだ。

「ハードル高い!」と思っていた理由は以下のとおりだ。

その1・相手の好みがわからない。
今でこそ本つながりで色々な友人知人もできたので、簡単に好きな作家や面白かった本を聞けるけれども、本つながりでない友達と本の話題になることはほとんどない。
故に、もし好きでない作家の本を贈ってしまったら……と考えると、本を贈ることはためらわれた。

その2・それこそセンスが問われる。
本ほどセンスが問われるものはないと思う。
そして、そのセンスに合う・合わないが顕著に出てしまう。
では、大多数が買っているような、流行っている本ならいいのか?というとそんなことは決してなく、流行っているからといってその本が面白いとも限らない。逆に流行っているからといってプレゼントして「流行に乗っかった」と思われてしまう危険性もある。

その3・そもそもその人が本を読む人なのかがわからない。
基本的なことながら、最大の理由がコレ。
その1でも書いたとおり、本つながりでない友達と本の話題になることはほとんどない。だから、その人が本を読む人なのかどうかがまず分からない。
本を読まない人は本当に読まないので、贈っても「もらって困ったプレゼント」になってしまう可能性がある。

 

以上の理由から、私はプレゼントとして本を贈ることはあえて選択してこなかった。

 

 

私に、その選択をさせた初めての人はKくんだった。

Kくんと私は、もう10年以上の付き合いになる。
なのでもう、10回はKくんに誕生日プレゼントを贈っているはずだ。
正直、いつ何を贈ったのか、もうほとんど覚えていない。
多分、彼も覚えていないと思う。
最初の頃こそいろいろ考えて、「オシャレだけど実用的なもの。 かつ、お値段も手頃なもの」を贈っていたけれど、次第にネタが尽きていった。
7年目か8年目くらいのことだと思う。

 

今年はどうしようかなぁ……と思いながら、雑誌をパラパラとめくっていると、とある写真家さんのフォトエッセイ集の紹介記事が目にとまった。
ハワイで夜の虹に出会い、世界中の虹を追いかけたその写真家さんのエッセイは、当時ハワイ好きだったKくんにはピッタリの本だと思った。
Kくんが本を読む人であることは知っていたので、ためらわずにその本を贈ることができた。
彼はとても喜んでくれて、「すっごくおもしろかった!」と言っていた。
後日、私も読んでみたけれど、とてもおもしろかった。

 

その年からKくんの誕生日には本を贈ることに決めた。
たくさんのプレゼントの中に、オシャレでも実用的でもないものが混じっていてもいいじゃないか、と思ったのだ。
しかも、気負わずに贈れる。
最初のフォトエッセイ集から、マンガ、小説、自己啓発……と様々な本を贈った。
誕生日以外のときに贈ったこともあった。

 

 

何回か本を贈ってみて、気付いたことがある。
それは、「本をプレゼントした時はあげた・もらっただけでは終わらない」ということ。
人にもよると思うけれども、Kくんは大抵読んだ後、感想もくれた。
その話でひとしきり盛り上がることもあった。
本を媒介にして、ひとつの世界を共有できるのだ。

 

それに気付いた時、私の中に1つのパターンができた。

 

 

それは、本を2冊贈ること。

 

1冊はKくんに合いそうな本。話の内容や主人公の設定がKくんと共通したところがあるものや、今のKくんが読めば何か感じるものがあるのではないかと思われるもの。

1冊は、私が読んで面白いと思ったもの。
Kくんにも読んでもらって、その話を共有したいと思ったもの。

 

 

そう。
私は「本を贈る」という行為を通して、Kくんに「私のことも知ってもらいたい」というメッセージを送っているのだ。
こういう本をおもしろいと思うことや、あの小説の世界観を共有したいことや、その小説を買うに至ったエピソードも。
愛の告白にも似たような「Kくんとこれからもつながっていたい」という隠しメッセージだ。

 

多分、Kくんは気付いていないと思うけど。

先日、Kくんから誕生日プレゼントに本をもらった。
「るみちゃんに必要な本だと思って」と彼は言っていた。

Kくんからのメッセージだと思いながら、読むことにする。
もちろん感想も伝える。

 

また一つ、共有できる世界が増えたことが、つながりが増えたことが、嬉しい。

<<終わり>>
 

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2016-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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