メディアグランプリ

終わって始まるもの


終わって始まる

記事:Sofiaさま(ライティング・ゼミ)

 

今勤めている会社を退職し、独立することにした。

 

具体的な理由はなんだ? と問われると、言葉にするのは難しい。良いことや悪いことが様々に積み重なった結果であるし、辞めた後の自分の目標や、これからの自分の生き方を考え、一人でやっていこうと決めたのだ。

 

ものすごいパワハラや、嫌がらせや、残業……。そういった理由で辞める訳ではない時、逆にどういった落とし所をつけるか迷った。自分の決心を鈍らせる要因にもなる。「そういえばなんで私辞めるんだっけ?」と。

 

当然、次にやりたいことがあると言ってしまえばそれが理由だ。実際に計画していることがあるのだから。しかし、独立を考え始めたのは何がきっかけだっただろう? と、ふと思い出したりもする。

このまま続けていても、別段問題はない。安定したお給料も入ってくるし、人間関係もまあまあ良好だ。上司と考え方ややり方が合わず、家に帰って人知れず悔し泣きしたことも何度もある。けれど、働いていれば当然そんなことは山ほどあるわけで、辞める切り札と呼べるようなものはなかったのかもしれない。先が見えたというのは大きな理由だったのかもしれないが、まさに積み重ねとしか言えない結論だった。

 

「退職させてください」と言おうと決めた段階に入ってから、私の心はワクワクしていた。それまでの、なんとも言えない仕事に対する違和感や、会社の人には打ち明けられない苦しみから一気に解放されていた。

秘密にしているというわけではないが、来期の方針について話す同僚に積極的に返事をしていることに勝手に罪悪感を抱いていた。自分でもあまり好きではない感情が渦巻いていて気持ち悪かった。

だから、とにかくそのモヤモヤから解放された喜びが勝っていた。誰に言うわけでもないが、自分の中で決めたということだけで想像以上に楽になっていた自分がいた。

それは仕事に対するやる気がなくなるのとは異なっていた。落ち着いたという方が正しい。むしろ仕事がさらにスムーズにさばけるようになり、実務としても気分としてもノッテいる日が多くなった。

 

そして、これは何かに似ていると、ふと思った。

好きだった人との別れ際と全く心境や状況が同じだと。

急に感覚としてストンと自分に落ちてきた時、指をパソコンのキーボードの上でいつもより早く動かしながら苦笑してしまった。

 

別に嫌いになったわけでもない。DVをされたこともないし、「異性の友だち」の件で多少もめたことはあるけれど、浮気と呼べることもなかった。ケンカもそれなりにして、嬉しいこともたくさんあったりして、それなりに幸せな日常だった。

でも「もう好きじゃないかもしれない」という感情がふと心をよぎった時、それを止めることがどうしてもできなくなってしまった。相手の何が悪いわけでもない、態度が変わったということもない。ただ、自分でも無自覚に「私」の気持ちが変化した。ただそれだけのことだ。

 

別れる理由が特にないから、「一緒にいればまた好きになれるかもしれない。」とか、「ちょっとマンネリなだけかもしれない。」と自問自答もしてみた。長年のパートナーと付き合っている友人や、過去に別れを決心した友人に話を聞いてみたりもした。それでもやはり感じる違和感。当然だ。だって、それは他者の経験であって自分のものではないのだから。

 

「原因がない」というのは「手立てがない」ということで、その気持ちには素直にさよならをしてあげなくてはならない。

 

特に理由もなくその平和な世界に別れを告げるには、自分でタイミングを決めて腹を括らなくてはならない。そして、他者というよりも自分のために理由を作るのだ。この先どうしていきたいのか、どうしていくのか。自分を納得させられなければ次に進めない。

 

自分で手放そうとしているのに、何かから放り出されたような気持ちになったり、先への期待や不安で自分勝手に感情は動く。

この名残り惜しい気持ちはなんだろう? 未練なのか執着なのか、ただ淋しいからか。そのような気持ちも新たな道への希望とともに薄れていく。

そんなときは外的要因を無理に作って型にはめようとせず、素直に自分の心が変わってしまったことを受け止めるほうが、その時はキツイが結果的には良かったのだと後々振り返るのだろうと感じた。

 

仕事も恋愛も私にとってはさほど変わらないのだということ。

出会いがあれば別れがある。タイミングが合わなければご縁がなかったということだし、縁があれば遠回りしてもたどり着く。逃避の材料や、依存に使うこともあるだろうし、そこから得られる喜びを励みに、ふんばることもできる。相手に対する罪悪感や感謝の気持ちを抱えて前に進むのである。

 

「過去」を反省し、忘れながら、「今」と「未来」に活かしていける。前にやっったような失敗を繰り返してしまうこともあるかもしれないが、想定内だ。

同じところをぐるぐる回っているように見えて、らせん階段のように少しずつ上がっていければ。そんな自分でありたいと思う。

 

「仕事をするように恋愛をし、恋愛をするように仕事をせよ。」とは誰が言った言葉だっただろう。

その意味が少しわかったような気がした。

《終わり》

 

***
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2016-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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