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色眼鏡のレンズを薄くするには思いやりのある想像力が必要


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田みのり(スピード・ライティング特講)
 
 

人はどのくらい他人や物事を見るときに、自分の偏見や思い込みや先入観などといった色眼鏡をかけて見てしまうのだろうか。
私は思い込みが激しく、たぶん人よりもその色眼鏡のレンズが厚くて雲っていると思われる。
年齢を重ね、様々な経験をし、以前よりはニュートラルに人や物事を見られるようになったとは思うのだが、相変わらず思い込みが激しく、「あの人は絶対にこういう人!」とか「これってこういうこと!」などと思いがちなので、自分でも注意している。
 
その色眼鏡のせいで、自分ではなく相手に申し訳ない事態に陥ってしまったことがあった。
 
我が家には犬と猫がいる。
猫は近所にいた元野良猫で、昨年の冬にガリガリのボロボロになっているのを放っておけずに保護して家族として迎え入れた。
犬と暮らしていたため、犬の方が絶対に受け入れないだろうなとかなり悩み、そしてその予想通り最初はなにかにつけて犬の方が猫にいちゃもんをつけていた。
猫の方はというと、犬が吠えたり理不尽な理由で追いかけ回したりしても、ただ逃げるだけで決してやり返そうとはせず、犬が届かないテーブルや冷蔵庫の上から達観した表情で犬を見下ろしていた。
その落ち着きぶりといったら。
さすが修羅場をくぐり抜けてきただけある。もう年齢的におじいちゃんということもあるのだけれど、犬がまだまだ落ち着かないわがままな性格なため、その差に驚いた。
今でも2匹の距離は縮まらず仲良くはないが、ソーシャルディスタンスを保ち、お互いの存在を尊重するようにはなった。
 
その猫が我が家へ来て少したったときのこと。
住んでいるマンションがネット環境が整ったため工事をしてくれることとなった。
犬はとにかく怖がりで飼い主以外の人が苦手で、普段からインターホンが鳴っただけで吠えまくるため、知らないおじさんが家の中に入ってくるだなんて半狂乱になるだろうから、犬をどう押さえておくかとか、あまり吠えないようにする対策ばかりを考え、猫のことはなにも考えていなかった。
猫が野良生活をしていた頃、元飼い猫で捨てられたらしいとの噂通り、人間にとても慣れていて、老若男女誰に対してもすり寄って行き「なでて」とごろんと横になってお腹を見せることも多かった。
だから、来訪者に怖がったりすることなんてないと思い込んでいた。
 
ところが。
インターホンが鳴り、いつも通り犬が吠える。それは日常のため猫も特に気にしていない。ちらっと見たくらい。
でもそのあと工事のおじさんが入ってきて、犬も猫もパニックになった。
犬は抱っこしていたのだが、パニックになった猫が家の中を逃げ惑うのを見て、犬もさらにパニックなり、大暴れして私の腕から逃げ出し、どちらがどちらを追いかけているのかわからないがおいかけっこのように狭い部屋の中を二匹が駆けずり回り、その事態に私もパニックになってしまった。
どちらも捕まえられない!
工事に来たおじさんもあっけに取られて困り果てていた。
部屋の隅で逃げ場がなくなり怯えている猫をなんとか捕まえ、いつもよくくつろいでいる冷蔵庫の上に乗せ、犬も捕まえ事態はおさまった。
工事が始まり、猫は冷蔵庫の上の端っこでブルブルと震えて固まっており、犬は私の腕の中でぎゃんぎゃん吠えていた。犬はハウスに入れて落ち着かせた。
 
工事は1時間弱で終わり、おじさんが帰ったあとも、猫は冷蔵庫の上で同じ状態でいた。
ちゅーるを差し出しても見向きもしない。普段食べ物にはかなりの執着があるため、大好物のちゅーるに見向きもしないなんて異常事態だった。
犬の方はおじさんが帰ってしまえば、なにもなかったかのように昼寝をしていた。
そこから1時間ほど、冷蔵庫の上で固まったままの猫が心配で、私も落ち着かずちゅーるを手に冷蔵庫のまわりをうろうろしていた。
そして、とにかく申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
誰が来ても絶対に怖がることなんてないと思い込んでいた。人懐こく寄って行くとさえ思っていた。
野良生活をしていた頃は、人間が好きだったのは事実だろうけれど、誰にでも甘えていたのは生きていくために身に付けた術だったのかもしれない。安全な飼い猫という立場になったら、最近見慣れないものや関わりがない人が自分のテリトリーに入ってくるのは恐怖だったのだろう。それくらい、飼い主として想像力を働かせなくてはいけなかったのだ。
怖がるかもしれない、と少しでも思いが至っていれば、猫がいる部屋の扉を閉めて対面させ
ないようにするとか、他にもいくらでも対策はできたのに。
私のいつもの思い込みのせいで、そして思いやりのある想像力がなかったばかりに猫を傷
つけてしまった。
 
その後さらに1時間ほどすると、少し冷静になったようで冷蔵庫の上でいつものようにくつろぎ始めた。ちゅーるを見せてあのおなじみのCMの歌を歌ったところ降りてきて食べてくれた。
でも、いつもよりなでても気持ちよくなさそうで、少し身構えるような仕草もあった。怒っているようにも見えたのは、これは私の思い込みではなく、これが我が家へ来て初めての自己主張だったのかもしれない。今までの犬が理不尽に怒ったり、私がなかなか構ってあげる時間がない日もあったことへの不満も上乗せされていたのだと思う。
 
思い込みや偏見はよくない。自分の色眼鏡で物事を見てはいけない。ニュートラルにその人自身、物事を捉えなくてはならない。
「あなたの色眼鏡は分厚くて、思いきり雲ってますよ!」
そんなことを猫が再確認させてくれたと思う。
そして、思いやりのある想像力も必要だということも。
さすがは、人生経験豊富。私にははかり知れない悲しい経験や外での過酷な生活を乗り越えて、強さや優しさを兼ね備え、それでいてとても穏やかな性格になったのだな、と思った。
 
猫は今日も冷蔵庫の上でくつろいでしっぽをパタパタさせながら、何もかも見透かしたような達観した表情で、私と犬を眺めている。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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