メディアグランプリ

5度目の初恋が破れることを確信してこのお手紙を差し上げます。 ジョディ・フォスターではないわたしより。


記事:安達美和さま(ライティング・ゼミ)
 
 ごめんなさい。
  こんなお手紙を差し上げたからといって、はしたないと思わないでください。

  でも、本当は最初にお見かけした瞬間から気になっていました。

 4月5日、東京天狼院書店で開かれた「ライティング・ゼミ⒉0キックオフミーティング」でお見かけしたあの瞬間から。

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 あの時、天狼院書店の店主であり、ライティング・ゼミの講師でもある三浦さんに促され、集まったわたし達は一言ずつ自己紹介をしていました。自分の今の仕事、書く技術を何に使いたいのかなどをひとりずつ話していきました。
 ブログを書きたいから、営業に使えそうだから……ある方は弁護士さん、そしてある方は大学院の院生さんでした。

 そして、さて、あとひとりで自己紹介が終わるという時、なぜか三浦さんは講義を再開してしまったのです。

 あれ、あの人の自己紹介はないのかなと思いました。
 周りの人も不思議そうな顔。

 それにさっきからわたしは変に思っていたのですが、この人だけは講義が始まってからもホワイトボードに背を向け続けているのです。窓際へしつらえた机に向かったまま、三浦さんの方を一度も振り向きません。
 どうしてかしらと少しの間、その背中を見つめていたら、男性がふと横を向きました。その瞬間、高い鼻梁とそこに掛けられた老眼鏡に目を奪われました。

 三浦さんの「書くことはサービス」の一言に感銘を受け、ライティング・ゼミへの参加を決めたわたしは、そのことを父へ報告しました。頑張って面白いもん書けよ、の彼の言葉に、もちろん頑張りますと答えました。
 
 だって、人を喜ばせたいし、それにお父さん、誰よりあなたに喜んでほしいから。
 
 「面白いことに何よりも価値がある」というわたしの価値観を形成したのは、間違いなく父です。彼の創るこの「安達家」という組織においては、常に面白くいることが求められました。
 わたしは幼い頃から父の言葉に常に耳を傾け、彼のくり出すどんな小さなボケにもツッコミを入れました。それがわたしの父への愛だったから。そんなわたしを信頼して、父は時に大胆に、時に甘えるように雑に、どんどんボケをくり出しました。「笑い」という点において、わたし達は非常に仲の良い恋人同士だったような気がします。

 それから間もなくライティング・ゼミが始まりましたが、初回講義にはどう頑張っても出席できないスケジュールだったので、2回目こそかぶりつきで学ぼうと最前列に陣取りました。

 ジンジャーエールを飲みつつ講義を受ける準備をしていると、自分の右隣に誰か座ってきました。キックオフミーティングの時、唯一自己紹介をしなかった男性でした。

 実はあの後、少しだけ話ができたのです。
 自分はキックオフミーティングに出席していたわけではなく、単にあそこで書きものをしていたこと。ライティング・ゼミには1.0から出ていることなどを話してくれました。そして、いま、自分の記事がWeb天狼院に掲載されていること。良かったら読んでねとおっしゃるから、帰りの電車内で早速読んでみました。オシャレな記事だな、と思いました。そして何より気になったのは、そのお名前。今まで見たことのない名字でした。なんと読めば良いのかしら……

 こうして隣の席に座れたのも何かのご縁と、思い切って、

 「さい、ですか? せい、ですか? お名前の、最初の音は」

 とお聞きしてみました。男性は少し不思議そうな顔をされて、それから、ああ分かったというように、「にし、です」とおっしゃいました。Nと申します。
 ああ、普通に読めば良かったのか。それにしても、よく響く良い声だな。もう少し声を聞きたいと思ったけど、共通の話題もまだなくそれ以上会話は続きませんでした。あらためて近くで見ると、やっぱり美しい鼻だなと思いました。
 
 講義を聴きながらも、わたしは、過去にわたしの胸をときめかせてきた3人の男性のことを思い出していました。

 「いっぱい食べておっきくなりな〜」が口癖の地元の美味しい中華屋のおじさん。
 革ジャンと老眼鏡が渋い、全国的に有名なビジネスマンのおじさん。
 行きつけのスナックで会える、いつもオシャレなカフスをしている美声のおじさん。ていうか年齢から言えばもはや、おじいさん。

 そして、ああ、またひとり、これからの毎日を華やかに彩ってくれる男性に巡り会えた。5人目の素敵なおじさん。そう思ったら幸せなため息が漏れました。わたしはなんて幸運なんだろう。

 講義が終わったあと、スマホを握りしめてNさんに思い切ってお願いしてみました。
 FB友達になってもらえませんか? 
 わたしの真新しい木のスマホケースには、「ムーミン」に出てくるスティンキーというキャラクターが彫られています。

 お金のない2つ年上のわたしの恋人が、あだっちゃん、「リトル・ミイ」と「スティンキー」、好きな方を選んでね、プレゼントしてあげるから。そう言って買ってくれたその新品のケースに包まれたスマホで、わたしはNさんにFB友達の申請をしました。
 正直、とんでもなく浮かれながら。
 
 わたしが憧れるひとの共通点は「おじさん」という以外に皆さま「既婚者」ということです。しかも長く連れ添った仲の良い奥様がいるという点。どうやらわたしは、そういうところを含めて、憧れの気持ちを抱くらしい。むしろ、とても素敵なおじさんであっても、「独身者」と分かると急に気持ちが冷めていきます。わたしなど洟も引っかけてもらえない愛妻家のおじさんが、わたしはとても好きなのです。

 この気持ちは、「ある朝起きたら、わたしの顔がジョディ・フォスターになっていれば良いのに」という願いとよく似ています。
 
 昔から大好きなジョディ・フォスター。シャープなあご、知的な目、強く美しい鼻筋。まんじゅう顔のわたしとは大違い。

 でももし、仮にある日の朝、わたしの顔が本当にジョディ・フォスターのそれになっていたらどうでしょう。全力で発狂します。
 なぜ、どうして、わたしが突然ジョディ・フォスターに! たしかに常日ごろから「あーあ、朝起きてたら顔がジョディ・フォスターになっていたら良いのに」と思っていたけれど! 
 どうしよう、両親はこの事態を受け止めてくれるだろうか? 顔はジョディ・フォスターになったけど、わたしはあなたの娘の美和だから安心してね。お母さん、晩ご飯は豚の角煮が良いな。そんなにすんなりいくわけねーな! ああ、懐かしいまんじゅう顔に戻りたい!
 
 だから、「朝起きたら、わたしの顔がジョディ・フォスターになっていたらいいのに」という願いは、「願った時点で役目を終える」のです。本当に望んでいるわけではない。叶わないからこそ自由に憧れることができるし、憧れるだけ憧れたらもう満足なのです。永遠に願いが叶わない安心感に包まれて、焦がれる快感だけを自分勝手に味わいたいのです。
 
 お帰りは、池袋駅まで行かれますか? というわたしの問いに、この時間ならまだ都電があるからとおっしゃって、Nさんはわたしの行く方向と逆へ歩いていかれました。

 しばらくその背中を見ていましたが、もしNさんがなにかの拍子に振り向いた時、わたしが自分の方を見ているとバレたらと思ったら恥ずかしくて、急いできびすを返しました。
 自然と跳ぶような足取りになっていることに気がつき、なんとなくはしたないと思って、すこしやりすぎなほどしのび足で、池袋駅までの道を歩きました。

 ……すみません、Nさん。まだほとんどお話もしていないのに、勝手にこんなことを書いてしまって。

 でも、どうか不安にならないでください。
 ただただ、憧れの目で見たいだけなんです。
 
 5度目の初恋が実らないことは確信していますし、わたしの顔は永遠にジョディ・フォスターのそれにはなりません。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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2016-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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