仕事が成功すること間違いなしのビジネススーツ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:アキ・ミヤジ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「やっぱり、このサイズで着て欲しい!」
先週、スーツ店の販売員である友人が、スーツを選ぶ私に投げかけた言葉です。
以前、スーツを買ったのは10年ほど前。
百貨店で二着いくらのセール品を買ったきりでした。
それから10年ほどの間に、腹腰まわりの贅肉はずいぶんと増えました。
仕事でたまにスーツを着ると、体のあちこちがピチピチ、窮屈な感じになってきました。
その都度、食事やお酒の量を減らし、減量を試み、なんとか同じスーツを着続けることができていました。
ところが、新型コロナウイルスが私からスーツを着る機会を完全に奪ってしまいました。
感染予防のため、会議はパソコンを使ってのオンライン。
Webカメラには上半身しか映らないので、いつも上着を羽織るだけで参加。
まともにスーツを着る機会のない時間が、1年半ほど続いてしまいました。
そんな折、自分の仕事を受け入れてもらうために大事な、大事な予定が入りました。
久しぶりにスーツをビシッと着て、先方の方々と仕事をしなければなりません。
その予定は数週間後。
心配になったのは、仕事の準備ではなく、はたしてちゃんとスーツが着られるのか。
恐る恐るスーツを上下で着てみたら……。
なんてことでしょう。
パンツの前ホックがとまりません。
どんなにお腹をへこませても、ムリ。
いまから猛トレーニングと食事制限でウエスト絞るか。
それともスーツを新調するか。
迷うことなくスーツを新調しようと決めた私は、友人が勤める池袋のスーツ店に駆け込んだのでした。
ネイビー系の落ち着いた雰囲気のスーツを一着買いたいと伝えると、彼女は私の姿をさっと眺めてサイズを目測。
手際よく色合いや生地感が違うスーツを数着、出してきてくれました。
試しに一着、上着を羽織ると、肌触りが柔らかく軽い着心地。
でも、ちょっと窮屈。
もっと楽に羽織れるのが良いかなぁ。
そう伝えると、さっとワンサイズ大きいサイズのものも出してきてくれました。
羽織ってみると、ゆったりしていて、要望どおり楽に着ることができます。
やっぱりこれぐらいのサイズが良い。
姿見鏡を前にして、私はご機嫌でいました。
そんな私の姿をしばらく眺めていた彼女は、少しだけ首を傾け、惜しむように私が窮屈に感じたほうのスーツに手を添えました。
「やっぱり、このサイズで着て欲しい!」
スーツを売る立場としては、お客様にはきれいにスーツを着ていただきたい。
窮屈に感じるかもしれないけど、肩周りがスッキリきれいに見えるのは、その窮屈な方なの。
スーツのプロにそう言われ、私は悩んでしまいました。
これまでの10年でだいぶ増えたお腹周りをさすりながら、勧められたすこし窮屈に感じるスーツにするか、それともゆったり着られて楽な着心地のスーツにするか。
たしかに、窮屈に感じたスーツのほうが見た目がスマート。シュッとしてる。
窮屈さも今の体型なら、そこまで気になりません。
でも…。
また、お腹に手をあてて、出がけに妻から言われた言葉を思い出しました。
「もう今より細くなることを期待できる年齢ではないし、普段あまり着ないものなのだから、ゆとりのあるスーツを選んだら?」
たしかに、今より痩せるのはおろか、体型を維持する自信もありません。
ワンサイズ大きいゆとりのあるスーツに気持ちが傾きかけました。
その時、なぜか私の頭には、天狼院書店で一昨年受講した取材ライティング・ゼミ、そしていま受講しているライティング・ゼミでの教えが浮かんできました。
読者を意識する。
何かを書くということは、誰かに読んでもらうため。
だから、読者を意識するのは至極当たり前なこと。
それはとてもよくわかります。
一方で、それはどこか窮屈に感じもします。
好きなことを思うがままに書きたい。
そう思うからか、読者を意識することをついつい忘れてしまいます。
いつもなら、つい忘れてしまうその意識が、どういうわけかスーツを選んでいるときに頭に浮かんできたのが、私には不思議でした。
なぜ?
今、私がスーツを着ることと、文章を書くこととは、何かが似ているに違いない。
そう考えると、答えの道筋が見えてきました。
スーツを選ぶときは周囲を意識したほうがよいのではないだろうか。文書を書くときに読者を意識するように。
そこで、スーツを着ている私の周囲にいる、まだ面識のない、共に仕事をするであろう人たちのことを想像してみました。
この人たちに囲まれて、私はいま、なぜ、スーツを着ているのだろう?
自分が心地よく感じるため?それとも、仕事相手の人たちに心地よく感じてもらうため?
もちろん、この問いへの答えは人それぞれ。状況によっても違うでしょう。
いまの私に限れば、スーツを着る必要がある理由は、新しく一緒に仕事をする相手に心地よく感じてもらいながら仕事をするため。
見た目がどことなくゆるい感じより、すっきりスマートで清潔感があるほうが、共に仕事をする相手は気持ち良く受け入れてくれるだろう。
「着たい!」と思うサイズより、「着て欲しい!」と思われるサイズのスーツのほうが、仕事はよりスムーズに進むだろう。
こんなふうに考えてみたら、スーツ選びの悩みは嘘のように消えてなくなり、選ぶべきスーツはすんなりと決まりました。
もちろん、彼女が勧めてくれたジャストサイズのスーツ。
決断した私は最後に、買うと決めたスーツを上下あわせて試着しました。
スーツの生地が軽やかでなめらかで身体に馴染みやすいのか、すっかり窮屈さは気にならなくなっていました。それに、姿見鏡に映る自分のスーツ姿は、我ながらなかなかさまになっていました。
読者や仕事相手といった、面識がない人や日頃の付き合いのない人の目を意識することも、綺麗に着るためにちょうど良いサイズのスーツのように、はじめはちょっと窮屈に感じることがあるかもしれません。
けれども、馴染んでいけば、むしろ心地よく感じられるようになるのではないでしょうか。そして何より、相手から自分を受け入れてもらいやすくなるに違いありません。
相手から受け入れてもらえる。
それは、仕事が成功するためにとても大事なことです。
受け入れてもらえることが成功の秘訣といっても過言ではないほどに。
私はきっとこの先、新調したジャストサイズのスーツを着るたびに、周りを意識すること、「それは誰のためにやっているの?」と自らに問いかけることを、かならず思い出すでしょう。
これって、仕事が成功すること間違いなしの魔法のスーツを手に入れたってことではありませんか?!
そんな大切なスーツです。
できるだけ長く着たい!
だから、たとえコロナ禍がまだ続くとしても、自分の体重はしっかり管理しなくちゃ!
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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