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マリッジブルーの先にあるもの

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Koito(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「お父さん、まきおが結婚辞めたいと言い出しちゃって、どうしましょう」
母のいつにない慌てた口調とは裏腹に、父はこういった
「煮た餅は雑煮だ。大丈夫、結婚式はやろう」
 
兄の結婚式を3週間後に控えた朝のことだった。
 
我が家は父母、そして長男の兄のまきお、私、弟のあきおの五人家族だ。
父は男ばかり8人兄弟の7番目でありながら、本家を守ってきた人だ。
8人兄弟の7番目が親の面倒を見るということになるのは相当大変な家族模様があったことは言うまでもないが、とにかく辛抱強い人だ。
やや古い習慣の残り香のある我が家で、その本家の長男となる兄の結婚は、親せきも多く集まる大イベントだったのだ。
 
兄は結婚相手のあきちゃんとは友人の結婚式で知り合い、もうかれこれ4年ほど付き合っており、年もお互い30歳を目前にしたころだった。誰が見ても申し分ない結婚の条件がそろっている二人だったのだ。
 
2年前にすでに結婚をしていた私に、ある日兄が聞いてきた。
「結婚て、どう?」
「まあ、いいもんだと思うけど」
「そうか……」
何となく歯切れの悪いあいづちが気になった。
 
兄はいわゆるマリッジブルーになっていた。
 
マリッジブルーって女の人がなるもんじゃないの?って思っていた私は驚きつつ、男性にもあるのだとその時知った。
 
リーダーシップが強く、気も強い兄。
 
学生の頃は生徒会長をやりつつも、気に入らない先生の車の上に登り反抗心を見せつけるなど、正義と悪の両方を楽しみ、幅広い交友関係を持つ人だった。
 
そんな兄がマリッジブルーに……家族全員が驚いた。
 
「俺、結婚するのやめるわ。あきと結婚してやっていける自信ない」
「あんた、そうはいっても、もうお互い良く知っている仲だし、結納だって終わってるし、まして、結婚式まであと3週間だよ」
普段は笑顔の絶えないい母が、これまで見たことのないような形相で顔を青ざめながら、兄に話す。
それでも兄の気持ちは変わらないようで、やめるの一点張りだ。
 
私は、兄と二人になったとき訪ねてみた。
「お兄ちゃんさ、なんでいきなり結婚辞めたくなったの?今更 」
「なんか,あきが俺と結婚することとか、俺の家族と家族になることに不安だって1か月前くらいに言ったんだよね。なんだかそれ聞いてから、俺こいつといて幸せになれるのかなあって思えてきて……。全然テンション上がらないんだよな」
「まあそれは女の子のマリッジブルーってやつで、一時誰しもがかかるもんだから、さらっと流しとけばいんじゃない」
「それはそうなんだけど、あいつがマリッジブルーってのが心配とか、気に入らないとかじゃなくて、俺が幸せになれんような気がしてきたんだよね」
 
そうか、 「彼女を幸せにしてやる」ではなくて「自分が幸せになりたいんだ。それは男性もあるのだ」私にとっては新しい感覚だった。
 
結婚というのは、それまでの家族と離れ、新しい空間を作り出すものだ。
 
最初は二人でその空間を作る。
そこにお互いの幸せを作れないのであれば、それに踏み出す意味はない。
 
私はやけに納得した。
 
兄は、結婚相手のあきちゃんにも素直に自分の気持ちを話していた。
あきちゃんにとっても、初めての兄の弱い姿を見た瞬間だったであろう。
 
私だったら、そんな不安を抱えている男に自分の将来を預けるなんてますます不安で、結婚をやめていただろう。
 
でもあきちゃんは違った。
 
「私がちょっと前に、結婚が不安だって言ったことが、まきおさんを不安にさせたんだね」
と彼女は言いながら、結婚をやめたいと言い続ける兄の言葉を聞かず、彼女は結婚するといい続けた。
 
一方、結婚式を数日前に控えた夜、両親と兄は話す。
 
兄「どうしても結婚しろというなら、するけど、すぐに離婚するかもしれない。それでもいいのか」
父「とにかく、結婚してみろ。それから先のことはしてみなければわからん。」
結婚前の幸せな空気というものは一ミリもなく、ただただどんより暗い雰囲気の中、兄はどこかへ出かけてしまった。
 
「お父さん大丈夫かしら?あの子、あんなふうで……」
不安がる母に父は言う
「大丈夫だ、あきちゃんがあいつに惚れてるから、煮た餅は雑煮。一緒に暮らしていけば、何とかうまく仕上がり一つの料理になるから」と。
 
笑顔のない結婚式が終わり、二人だけの生活が始まった。
 
徐々に兄の、そしてあきちゃんの表情は明るくなっていった。父の言う通り少しづつ二つの堅いお餅に熱が入り、柔らかくなり始めたような感じがした。
 
1年後にあきちゃんのおなかは膨らみ。2年後には家族が3人になっていた。
 
もう、兄の表情に不安はなかった。本来の強い兄に戻っていた。きっと幸せになれたのだろう。
 
結婚から20年たった今も、あきちゃんと兄は時折手をつないで歩いている。
最高の雑煮になったのだ。
 
私たちは、マイナス要因があると、そこでやめてしまうことのほうが多い。しかし人生にはやってみなければわからない出来事がたくさんある。
 
「煮た餅は雑煮」
 
夫婦になり、家族になるとは、別々にあるものを時間をかけて一つの料理に仕上げていく作業なのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2021-10-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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