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22歳の私はゲスでした



記事:櫻井 るみ(ライティング・ゼミ)

私と夫は結婚してもうすぐ丸12年になる。
付き合っていた期間も含めたら、もう17年一緒にいることになる。
付き合っていた期間5年。
結婚してから12年。
合計17年は決して短い時間ではないと思う。

付き合っている時も、結婚する時も、結婚してからも、さして大きな問題は起こらなかった。
結婚する時に両家が揉めたり、嫁姑のバトルがあった方が、話としては盛り上がったのかもしれないが、幸い舅も姑も適当に私たちを放っておいてくれる、付き合いやすい方々だった。
いい嫁を演じる必要もないので、安心して義実家でくつろぐこともできる。
夫婦仲はもちろんいいし、運の良い嫁だと思う。

でも実は、出会った当初、私は夫と付き合う気はあまりなかった。
正直に告白するならば、「一発できればいいかな……」と、そんな風に思っていた。

私と夫が出会ったのは、とあるチャットサイト常連が主催したオフ会だ。

今の若い人は「チャット」というものがどういうものであるか知らない人も多いだろう。
ざっくり言うと、リアルタイムで文字入力を通して、画面上でやりとりをすることである。
そして、普段画面上でやりとりをしている人と、リアル世界で直接会うことを「オフ会」と言った。

私と夫は同じチャットサイトに出入りはしていたものの、時期が違っていたため、チャットで話をしたことはなかった。
が、夫のHN(ハンドルネーム。チャット上で使用する名前)は変わっていたので、名前だけは知っていた。

そしてオフ会当日。
私は夫とのファーストコミュニケーションで、完全に一目惚れしてしまった。
夫は私の好みの顔だったのだ。
だけれども、すぐに告白して付き合うという流れにはいかなかった。

なぜなら、当時私には別に付き合っている人がいたからだ。

だけれども、その時、付き合っていた人とは微妙な関係だった。
(元)彼とは遠距離恋愛で、高知だったか愛媛だったか……、もうよく覚えていない。
一つ年下で当時大学生4年生だった。

そのオフ会に参加する何日か前、その(元)彼からメールが届いた。

なにやらゴチャゴチャ書いてあったけれど、要約すると以下の内容だった。
「俺、今年4年生でゼミとか飲み会とかいろいろ忙しいから、あんまり構ってやれないかも。それが嫌なら別れよう」

……この人は何を言っているのだろう??

何度読んでも、意味が分からなかった。

別れたいのか別れたくないのか?
私が構ってもらえなくてもいいと言えば、付き合いは継続するのか?
私から「別れよう」と言わせようとしているのか?

いろいろ考えて、それでも分からなかったので、結局、(元)彼に電話した。

(元)彼としては別れる気はなく、ただ、忙しくてこれまでのように電話等ができないのも事実なので、それに納得ができないのであれば今後のお付き合いの判断を私に任せようということだった。

話し合いの結果、付き合いは継続することに。

……なったけれども、この出来事が当時の私を萎えさせたのは今もよく覚えている。
要するに私は面倒くさくなってしまったのだ。

そして、せっかくお付き合い継続となったのに、その何日か後には「やっぱり別れてれば良かったか……」とモヤモヤすることになった。

そんな心の隙間にするりと入ってきたのが彼(現・夫)だった。

今で言うところの肉食系だった当時の私は、好みの男との距離を縮めようと攻めの姿勢でいた。
週に1度は会って飲んだり、遊んだり……。
それでも、二人の関係が「恋人」に進展しなかったのは、主に私に原因がある。

その当時は彼の私に対する気持ちが分からなかったので、最後の一歩を踏み出せなかったのだ。
でもそれは、彼の側からしてみれば当たり前のことで、後に当時の事を聞いてみたところ、「よく誘われるけれど彼氏がいる女に、踏み込んでいいものかどうか」と思っていたそうだ。

次第に私は「なんかこのままでもいいかな~」と思うようになっていった。

とりあえず、(元)彼は私のことを好いていてくれてるし、電話の回数は減ったけれども、それなりに気にかけてくれててメールは送ってくれるようになった。
彼とは正式な「恋人同士」ではないけれども、誘えば会ってくれるし、会えば楽しい。

好いてくれる男と好いている男。

両方いてもいいじゃないか……と思ったのだ。

はい。
完全に二股です。

それが覆ってのは、(元)彼からのメールだった。
内容は「7月に実家に帰るから、その前に2,3日そっちに寄る」ということだった。
私の部屋に泊まっていった彼が帰った直後に来たメールだった。

「めんどくせーなー……、まあ、2,3日相手してれば帰るんだし……」と思っていた私はハタと気付いてしまった。

一応付き合っている人が泊まりに来るということは、夜は当然そうなる……、ということに。

それに気付いた瞬間、私は
「無理無理無理無理無理無理無理無理!!」
と、声に出していた。

いつの間にか、(元)彼とはキスをすることも、抱き合うことも、それ以上のことも、すっかり考えられなくなっていた。
考えられないというよりは拒否だ。
できない。したくない。嫌だ。

そこまで思い至って、やっと私は、(元)彼とはもうダメなことに気付いた。

そうなったら、とるべき行動は一つ。
(元)彼のところにすぐに電話をし、もう付き合えないことと他に好きな人がいることを告げた。
悪女と思われようが、鬼と思われようが、無理はものは無理。
ばっさりと斬ってしまった方が、変に期待を持たせるよりはよっぽどマシだと思っていた。
でも、(元)彼は薄々気付いていたようで、私からの電話にうろたえることもなく、「最近変だと思ってたんだ」と逆に納得した様子だった。

そして、(元)彼と最後の電話を終えてすぐに彼に電話をした。
(元)彼と別れた勢いで、やっと最後の一歩を踏み出したのだ。
今でも覚えている。
6月13日のことだ。

あれから丸17年になろうとしている。
若かったとはいえ、当時の私はやっぱりひどい女だと思うし、ゲスだったとも思う。
でも、ゲスだったおかげで最愛の夫を手に入れられたのだから、当時も今も後悔は全くしていない。

ゲスかった22歳の私、あなたの直感は間違ってなかったと17年後の未来からメッセージを送りたい。

 

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2016-05-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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